＜藍住町へ＞
朝はわりとゆっくり目に起きた。本日も快晴で暑そう。
部屋で朝食を摂り、ゆっくりと身支度をしてチェックアウト。
徳島駅へ向かい、ロッカーに荷物を預け、徳島バスの藍住線に乗る。
きのうも十郎兵衛屋敷に行くため、吉野川を渡って郊外に向かったが、
今日はそれ以上時間がかかる。行き先の藍住町は市内ではなく板野郡なのだ。
途中までは昨日と同じ道筋で、きらきらと輝く川を渡り、
そこから向きを変えてゆくと、風景はどんどん田舎度を増してゆく。
住宅密度はゆるやかで、構えの立派な一軒家が目に付く。
どう見てもすれ違うことは不可能な、バスの幅だけでいっぱいいっぱいの
細い道もずんずん走ってゆくのではらはら。
一方通行ではないので、対向車が来れば脇に逃げて待たねばならない。
向かう先は藍染の資料館「藍の館」だが、徳島新聞のインタビューによれば
http://www.topics.or.jp/contents.html?m1=2&m2=&NB=CORENEWS&GI=Kennai&G=&ns=news_118593105839&v=&vm=1
ドラマ『眉山』で咲子の父・篠崎孝次郎は晩年、藍住町に住んでいるという設定だそう。
山本耕史くんの親戚も実際にお住まいだそうで（彼のお父様は高知出身）、
どんなところだか興味もあった。うーん、とっても田舎ですね。
住吉神社だの諏訪神社だの、いくつかの神社脇を通りながら、ようやく藍の館
の最寄のバス停「光洋精工前」で下車。
フェンスが続く工場前の道は広い車道で、結構交通量が多い。
少し戻って、右手に折れると「藍の館」の幟が道端に見える。
その道を、ひたすらまっすぐ進んでゆく。
かっと照りつける太陽。道はどこまでも続く。
ああ、そうだった…。田舎道には影が無い！
逃れようも無い陽射しにじりじり炒り付けられながら歩を進める。
古びた小さな祠や、ちょっとしたお城のように立派な屋根の家や、
田んぼのなかの広い敷地の神社なども、
何もかも白っぽいひかりのなかに浮き上がってるみたい。
さすがの私も、無謀なことをしている気になってきた。
こういう郊外の施設には皆マイカーで乗りつけるものなのだ。
ガイドブックには徒歩10分とあるけれど、その2倍は歩いた気になった頃、
白壁の蔵の脇を通り越し、ようやく左手奥にその館が見えてきた。
＜藍の館＞
http://www.town.aizumi.tokushima.jp/kanko/ainoyakata/index.html
ここは元大藍商であった奥村家の屋敷。寄付されたものに手を加え、
平成元年に藍の資料館として開館したとか。
大門の向こうに、立派な母屋が見える。まずは手前の新館受付で
入館料を払い、展示された藍染の布などをざっと眺めて通り過ぎた。
まずは古い建物が見たいので、奥の母屋のほうへ。
大門の内側には、広い納屋のような建物が三方にあった。
藍葉の加工などの作業に使われていた「寝床」と呼ばれる建物。
今はその藍加工の道具などの展示に使われている。
表は白っぽく見えるほどの暑さだけれど、この中に入ると
ちょっとひんやりするよう。しっかりと踏み固められた土間。
土の匂いがなつかしくて落ち着く。
藍作りに関してはまるで知識がないので、
さまざまな道具をとても興味深く見た。
葉藍を打って、葉と筋を分離する「からさお」だの、
葉を摺り込んで表面をいため、水分を吸いやすくする「あいすり」だの、
行程にあわせ、こまごまとたくさんの器具が並ぶ。
母屋前の庭には、そういう器具を使って作業している人たちの
像が建てられ、暑い日差しを浴びていた。
藍の栽培から収穫、その収穫した葉を「すくも」（藍葉を発酵させて
堆肥状にさせたもの）に加工し、出荷する流れや、藍染の様子などは、
この建物内に、紙人形による群像場面で再現されている。
活気にあふれた一大産業であったことがよく分かった。
お隣の部屋では藍染体験コーナーもあるようだったが、
今回はパス。一時期草木染に凝っていた頃には、
台所が原料の葉っぱや枝であふれそうで大変だったものだけど。
陽射しのなかを横切って、ようやく母屋の軒をくぐると、広い土間。
台所側には、雑魚寝の奉公人の部屋などもあって、その頭ともなると
狭いながらも一人部屋。皆どんなふうに寝起きしてたんだろう。
土間から見渡せる広い座敷には、当時の商談を再現して
丁髷頭、縞の着物できっちり座って談話している様子の
商人さんたちのマネキン。
こういうリアルな人形はいささか怖い。
廊下でつながれた奥の座敷から、塀上の瓦に生えてきた草や、
向こうの竹林などが見える。静かだ。
二階に通じる階段は細く、あちこちいくつもあって
子どもならかくれんぼや鬼ごっこに夢中になれそうな迷路。
風通しのよい部屋で、しばらく涼んでいると、
ここがどこで私が誰なのか、不思議な気分。
夏休みの故郷なのかと勘違いしそうになる。
最後に再び新館に戻り、二階の資料をじっくりと見た。
奥村家は藍商によって繁栄した立派なお宅であるだけに、
たくさんの古民具や美術品をたくさん所蔵されていて、
それらの一部がここに展示されている。
勝海舟が奥村嘉蔵のために書いた「常静」の書は良かった。
昔の藍染などもあるが、贅沢を戒めるため、庶民に
絹が禁じられた時代の、木綿友禅が珍しかった。
禁じられても、その中で精一杯のお洒落をしたのだろうけれど、
やはり優美な模様とごわついた綿がそぐわない感じ。
浅葱色も褪せてちょっともの哀しい。
綿には綿のざくっとした柄行が似合うのに。
館を出て、道の向かい側の藍染土産物店前の
ベンチを見ると、ふっくりとした等身大くらいの
おばあさんたちの縫いぐるみ三体。
皆々藍染の着物をまとったり、袋を手にしたりして
ちんまりと腰掛けている。たいへん愛らしいので写真を撮った。
＜びざんの湯＞
11時台の帰りのバスには無事乗ることが出来たが、再びの
熱光線のなかを歩き、その後も影もないバス停でしばらく
待っていた私の全身は、油を浴びたように汗びっしょり。
徳島駅に戻り、三宮行きの高速バスに空きがあるのを確認してから、
駅前の「びざんの湯」に汗を流しに行く。
http://www.sunroute-tokushima.com/hotspring/
駅前のホテル・サンルートの11階にある天然温泉。
徳島に来る前に銭湯の検索をしていて、ここの情報も得ていた。
至極便利な場所だし料金もまずまずだし、
この汗を流すことが出来る場所があって助かる。
エレベーターで一気に最上階へ。明るくて清潔な脱衣所。
数人の利用客は、ほとんど高齢の方。
平日の月曜日だし、空いている。
さんさんと明るいうちに湯に入るなんて物珍しい。
銭湯だとお正月の初湯くらいか。
湯に沈む肌の色がよく分かる。腕はやっぱりちょっと陽に焼けた。
回りから見えないよう、かなりみっちりと目隠しされた
露天風呂にも、木の香も新しいサウナにも入ってみた。
ああ、気持ち良い。極楽極楽。風呂があれば文句はない。
常連客らしいおばちゃんたちは、恵比寿湯だとか何だとか、
他の風呂屋のうわさ話などしている。
良いけれど、途中が大変だからもうちょっと暑くなくなったら
行ってみよう、とか。
冷水機の冷たい水を飲み、水筒にも詰め、さっぱりして出る。
＜徳島クレメントプラザ＞
徳島駅でロッカーの荷物を出し、次の神戸行きの高速バスチケットを購入。
まだしばらく時間があるので、食べるものと土産を買うため、
クレメントプラザ地下一階へ降りる。
ここの駅ビルはクレメントプラザとなっていて、
上階はホテルクレメントが入っている。
http://www.clementplaza.com/plazaall.html
店で食べるまでの余裕はないので、バスの中で食べるべく
ベーカリーでパンを買い、さて土産は、と、見渡すと
香ばしい匂いがした。
一昨日傍を通り過ぎた和田乃屋さんの「瀧の焼きもち」を
店頭で焼きながら販売している。
http://www7b.biglobe.ne.jp/~wadanoya/index.html
ああ、良かった。手頃だし、菊紋の押し型も可愛らしいし、
立ち寄り損ねたのがあとから残念だったので、土産は迷わずこれに。
ばらで数個包んでもらって、ひとつはその場ですぐ口にした。
美味しい！薄い皮と餡の分量も絶妙。
餡テイストのクレープという感じ。満足。
神戸行きの阿波エクスプレス号に乗り込み、
楽しかった徳島とさよなら。
（続く・次で終了）
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