＜阿波おどり会館＞
http://www.awaodori-kaikan.jp/info/
山裾を回って辿りついたが、本来徳島駅前からまっすぐ見える場所。
駅前の広い新町通りを直進すればここ。
眉山の麓で、五階からは山頂行きのロープウェーも出ている。
眉山の玄関口といったところ。出来たのは8年前。
あとで説明を聞くと、白い外観と、一番上の黒い輪っかのようなかたちは、
阿波踊りの連の先頭に立つ高張り提灯をイメージしたデザインだとか。
一階は名産品売場、二階は阿波踊りの公演があるホール、
三階は阿波踊りの歴史を辿るミュージアム、
四階は有料で利用できる活動室がある。
ミュージアムも阿波踊り公演も見たいし、むろんロープウェイにも乗りたいので、
迷わず全部まとまってお得なセット券（￥1500）を購入。
暑い中を歩いてきたので、一階の名産品売場「あるでよ徳島」で、
すだちの缶ジュースを買って飲む。
柑橘系の味は大好きなので、とっても美味しい。
14時からの阿波踊り公演の前に、まずミュージアム見学。
幕末期の徳島城下の盆踊りを描いたうつくしい屏風絵だの、
絵巻物だのが目に楽しい。
もとは盂蘭盆会の盆踊りだったものが、
明治時代に郷土芸能として全国に広がっていったという歴史がよく分かる。
昔は振袖姿で踊ってたのか。
『阿波の踊り子』などという映画まで作られてたのは知らなかった。
昭和16年、長谷川一夫、入江たか子、高峰秀子などの豪華メンバーが
徳島市内でロケを行った写真を食い入るように眺める。
マキノ雅弘監督作品。見てみたいなあ。
毎年の阿波踊りポスターも素敵。古いものなど、まるで浮世絵のよう。
さまざまな唄の歌詞も展示されていた。
「娘島田に蝶々がとまる とまるはずだよ 花じゃもの」
「踊れ踊れよ 三十まで踊れ 三十過ぎたら 子が踊る」
世代交代ですか。でも何十になっても踊りたいですよね。
連ごとの揃いの浴衣の展示や、三味線、鉦、大太鼓、締太鼓、
笛などの鳴り物の展示も興味深い。
鳴り物もその時代時代の流れがあって、
琵琶や、はてはヴァイオリンなどが使われていたことにも驚いた。
そうこうするうち、公演時間となりホールへ。
昼間の公演はここの専属連「阿波の風」によるもの。
華やかに始まって、途中で昔の踊り方（ゆったりした振り）、
今の踊り方（テンポ早く小気味の良い男踊り、女踊り）、
「花鳥風月」と呼ばれるいろんなヴァリエーションのパフォーマンスなど、
解説をはさんでの実演。
最後はそれらを組み合わせた七変化。たいへん楽しかった。
右手と右足、左手と左足が連動して動くのはナンバの動き、との説明。
知ってる知ってる、と嬉しくなる。
最後は観客も参加しての踊り。
前の舞台に出ていって連のひとたちと共に踊るのだが、
皆遠慮がちになかなか席をたたない中、私はさっさと舞台に向かった。
なにしろ盆踊りはよくやってるし好きなのだ。
上手なお手本を見ながらやるのだったら全然こわくない。
両手ともひじから上にあげたまま、
足をうしろに軽くはねあげるような女踊りの振りも飲み込めたし、
いつもの盆踊りのつもりで熱中していたら、連長のかたの声がかかり、
名前を聞かれ、なんだかわけのわからないうちに賞状と旗をいただいた。
知らなかったけれど、参加した観客のうち、
一番と見なされるとこれをいただけるらしい。
びっくりしたけどやはり晴れがましかった。
住所と名前を聞かれ、東京からTVドラマ『眉山』のロケにエキストラとして
参加するために来たことを告げたら、
さすがに連長さんは沖洲ロケのことをご存知だった。
『眉山』は映画、TVドラマと来て、今度は舞台化されるそうだと教えていただく。
それは初耳。
私の他に二名のかたが、次点として手拭を渡されていた。
本音を言えば私も手拭が欲しかったのだけれど、
旗は実用というより栄誉のためだから、
勝手に替えて下さいなんて言える訳はない。
くるくると巻いてバッグに入れ、思いがけないことに高揚した気分で、
ロープウェイ乗り場へ。
＜眉山山頂＞
ロープウェイは二台が連動していて、丸い可愛らしいかたち。
ひょうたん型という説明だったが、両方合わせてのことなのだろう。
緑の山肌の上をすべるようにすすんでゆく。
青い栗の実や白いクサギの花がすぐ下。
上がるにつれてせり上がるように街が見えてくる。
頂上まで6分。わずかな旅だけれど、気持ちよい。
頂上の展望台に立つと、眼下に広がる街の景色。
ここは本当に街の中に立つ山なのだな。
きらきらと光る一番大きな川は吉野川、
徳島駅を中心にした部分を、島のように囲んでいるのが助任川と新町川。
ぽっこりと固まった緑は、さきほど行ってきた徳島城跡の城山だ。
自然が多くて心やすらぐ景色。地図を思い浮かべ、
自分が歩いてきた距離をはかりながら、箱庭のような市街を眺める。
この山の名前の由来は、どこから見ても眉のようなかたちをしているからだとか。
「眉のごと雲居に見ゆる阿波の山 かけて漕ぐ舟とまり知らずも」と
万葉集にも詠まれている、標高280メートルほどのなだらかな山。
綺麗で凛とした良い名前だと思う。
少しあたりを歩いてみる。
太平洋戦争の戦没将兵のための慰霊塔・パゴダの白さが目立った。
ビルマ戦線生き残りの方々が建てられたとかで、
中にはビルマの民族資料や遺品などもあるそうだけれど、
日曜のみの公開なので、土曜日の本日は閉じている。
ちょっと離れたところにある、小さな剣山神社にもお参りして
再びロープウェイにて下った。
＜寺町＞
時刻は４時に近づいてきたけれど、いっこうに暑さは衰えない。
昼食の機会を逸したまま、再び名産品売場で買った
すだちのアイスキャンデーをなめて口中を冷やし、
会館のすぐ横手からお寺めぐりへ。
阿波踊り会館に隣接した潮音寺にある、モラエスの墓に詣でる。
ポルトガルからやってきて、日本女性と結婚し、ここ徳島の加賀町で没した文学者。
こよなくこの地を愛し、日本を描いた作品を発表した足跡は、
ラフカディオ・ハーン（小泉八雲）に通じるところがあるようだ。
だいぶ昔のことになるけれど、モラエスを描いた「恋の浮島」（1983）
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD11429/comment.html
という映画を観たことがあって、その存在は知っていた。
神戸のポルトガル領事となった時におヨネと知り合い、
彼女の故郷徳島へと移り住むのだが、普通の伝記映画とは異なり、
不思議で神話的な雰囲気で、不可解なところも多かった。
ただ三田佳子さん演ずるヨネのすっきりとしたうつくしさ、
すらりとした着物姿の良さ、人力車と松林の絵のような情景など、
印象的な映像はうっすらと覚えている。
寺にはモラエスだけではなく、ヨネや、彼女の死後モラエスの世話をした、
ヨネの姪のコハルの墓も。
崩れかけたような石垣もある細い通りに沿って、そこかしこに寺が並ぶ。
少し進んで左手にある本行寺には、遊女夕霧の塚。
近松門左衛門の｢夕霧阿波鳴渡」のモデルとなった遊女にちなんでのもの。
寺のすぐ近くに、徳島一の名水と言われている「錦竜水」が湧いていて、
屋根つきのその場所には水を汲む人と、順番を待つ人が居た。
私も後ろについて、まずはのどをうるおし、持参の小さな水筒に詰める。
乾いたからだに冷たい水は甘露。
＜八坂神社・春日神社・滝＞
山裾に沿ってさらに進むと春日神社の幟が見えた。
あ、この近くに滝があるということだったな、と思って脇の階段をのぼってみたが、
どうもここではないようで、水の音も姿もない。
なんとなく勢いで上って行ったが、結構きつい石段。
やがて橋があらわれた。「祗園橋」という名が刻まれている。
あたり一体ひと気もなく、草がからんだ佇まいは圧巻だった。
ちょっとこの世ならぬ感じ。
この橋を渡ったら、こちら側に戻れないのじゃないかと一瞬思う。
日が沈んでから近寄るのはやめたほうがよさそうだけれど、
まだ日はあるので写真を何枚か撮った。
ここは私が「呼ばれてしまう」ような場所。
また引き寄せられてしまった。
どうも完全に脇道を来たようで、
ふっと向きを変えて入ると「八坂神社」の名があった。
古びた狛犬の近くに茅の輪くぐりの茅の輪まで作られている。
まるで無人と思われたのに、ひとの手が入っていることが不思議だった。
泉鏡花の世界を思い出す。
来た時と違う石段（多分こちらが本道）を降りてゆくと、
古めかしく小さなお太鼓橋があって、また向こうに上る石段が見える。
のぼってゆくとさらに上も。相変わらずひとの姿は見ない。
ようやく傾きだした陽射しがくっきりと光と影を染め分ける。
積まれた石は本当に古そうだ。
きりがないので引き返すが、なんだか遺跡めぐりをしているような気分。
また違う石段を下ってゆくと水の音がした。あ、これが滝？
それはごく小さく、石段の脇にあるお店の庭に向かって落ちているようだった。
小綺麗な、庭を見渡せる店のテーブルや椅子が見える。
近寄ってみると、そこは徳島土産で有名な
「滝のやき餅」を作って販売している和田乃屋本店だった。
http://www7b.biglobe.ne.jp/~wadanoya/index.html
緋毛氈を敷いた台と朱色の傘のある休み処の脇に、
「白糸の滝」の碑がある。
さださんの小説に出てくる、眉山の「不動の滝」というのは
ここのことではないかと言われているらしい
（映画の滝は別の場所で撮影されている）。
「滝のやき餅」はガイドブックで見たけれど、
薄い餡入りのおもちに菊紋の押し型を押し、香ばしく焼いてある可愛らしいお菓子。
その昔、 蜂須賀蓬庵家政公が阿波の国主として徳島城を築いた際、
祝いに献上嘉納されたという誉ある御用菓子。錦竜水を使用しているとか。
滝を望む庭を見ながら、店の中で食べるのも良いかなと思ったが、
他にも閉店時間が迫っている行きたいお店があったので、通り過ぎただけ。
旅情を感じさせる印象的な場所で心に残った。
＜いのたにラーメン＞
山の麓から、寺々をすり抜けるようにして、バス通りへ。
さらに北へ進んでゆくと、車道沿いに「いのたにラーメン」。
http://gourmet.yahoo.co.jp/0005841237/M0036000576/
徳島ラーメンの人気店として紹介されていたし、
『眉山』原作にもヒロインの咲子さんがここでお昼をすませるところがあるから、
食べてみたいと思っていた。麺類は大好きだもの。
夕方5時には閉店とのことだったので、
それに間に合うよう急いで、汗だくになってしまった。
食券を先に買う、気取らないタイプのお店で値段も安い（並＝中盛りで450円）。
とんこつ醤油味で美味しかった。
有名店だけに、壁には過去ここを訪れたひとたちの色紙がぎっしり。
さだまさしさんとか、宮地真央さんとか、近いところでは安部首相とか。
そして、偶然山本耕史くんの色紙と写真も見つけてしまい、
ああ、来ていたのか、と嬉しくなった。8月初めの徳島ロケの時らしい。
冷房の効いた店から出ると、外はまだまだ暑い。
バス通り沿いの東光寺の小さな戸を開けて、
「東洲斎写楽の墓」に詣でてから、ぶらぶらと歩いて宿へ。
足で行き来したせいで、もうだいぶ街になじんだ感じ。
（同日夜に続く）
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