＜旅のきっかけ＞
今回の徳島行きは、まさにひょうたんから駒の展開だった。
ことの起こりは、お友達と会うための浜松行きから。
マイミクで三重県在住のかわうそさんが、
お子さんの用事で浜松に出てきて一泊するとの知らせを受け、
そのあたりなら、私も出向いて久しぶりにお話でもしようかな、と思い立ったこと。
ただし、彼女の自由がきくのは、24日の夕方から夜のみ。
私も夕方着くように行くとして、その日のうちに帰京するなら夜行バス、
ゆっくりするなら一泊して翌日帰りとなる。
せっかく行って2〜3時間でとんぼ返りするのも、
翌日特に用事もないのに宿泊費を使うのも、あまり気が進まない。
東京から浜松というのは、それほどの遠出とも言えないが、
かと言ってすぐそこというわけでもなく中途半端。
せっかくだったら、何かついでの楽しいことを組み込めないだろうか、
と考えていて、ふと思い出したのが以前ちらりと見た、
ドラマ『眉山』徳島ロケの日程。
その時は全然行く気がなかったからはっきり覚えてはいなかったけれど、
たしか8月の月末…と思ってもう一度調べたら、8月24〜26日（金〜日）の夜。
25日〜26日は休日だし、浜松から徳島へ向かおう、と急遽決めた。
エキストラ募集はとっくに締め切られているけれど、
遠目ながらでもそのあたりを見られるかもしれないし、
ゆかりの地を歩くのもよさそう。
徳島には未だ行ったことがなかったし、良い機会だ。
路線を調べ、浜松から夜行バスで神戸三ノ宮に向かい、
三ノ宮から徳島行きの高速バスに乗り換えることにした。
浜松と徳島ってずいぶん離れているのに無茶といえば無茶な計画だが、
こういうのは気持ちが動くことがなにより大事。
決めてしまえば私は早い。
ばたばたとバスの予約をし、宿を探すためネット検索してたところで、
26日のエキストラ追加募集を見つけてしまった。
これについては別項で詳しく書いたけれど、
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=545775482&owner_id=949383
それに参加するため、27日も休みを取り、徳島に二泊することに。
＜浜松から三ノ宮を経て徳島へ＞
24日、仕事を二時間早退けして、
渋谷から15時45分発の「渋谷新宿ライナー浜松3号」に乗る。
渋谷マークシティー5Fからの乗り場は初めて。
まだまだ暑いけれど屋上は風が吹き抜けて気持ちよい。
バスは出発手続きなどでかなり遅れ、16時過ぎに発車。
途中、由比のあたりでは前も見えないスコールのようなどしゃぶりとなり、
浜松着も遅れて20時過ぎ。
駅近くのホテルでかわうそさんと無事落ち合い、部屋やファミレスでおしゃべり。
発車寸前まで彼女にお付き合いいただき、
見送りを受けて23時35分浜松発の「京阪神ドリーム静岡1号」に乗る。
三ノ宮到着予定は翌朝7時5分のはずが、6時半過ぎには着いてしまった。
ここのバスターミナル待合室やトイレは新しくて清潔。
余裕が出来たので近くの定食チェーン店で和定食の朝食。
向かいのパン屋さんで焼きたてのパンを買い、
7時40分発の「阿波EX51号」に乗り込む。
高速道路から見下ろす海のきらめきのまばゆさ。
舞子ビラの広い敷地。幾艘もの大きな船。こころが開放されるような風景。
淡路島を突っ切って行く途中はさすがにうとうとしていたけれど、
鳴門近くの海の表面の微妙な動きは、波の皮膜が震えているようで物珍しく眺める。
神戸から二時間足らずで徳島駅に到着。
時刻は9時半くらいだが、すでにじりじりと暑い。
駅前に背の高い椰子の木（ワシントンヤシと言うそうな）がそびえ立って、
南国に来たのだなあと実感。
コインロッカーに余分な荷物を預けてすぐ観光に出発しようかとも思ったが、
お金を無駄に使うこともあるまいと思い直して、
駅前から少し歩く宿泊ホテルに向かい、チェックイン前に荷物だけお願いした。
＜徳島城博物館＞
再び駅方面に少し引き返し、牟岐線に沿って少し歩き、
陸橋を渡って駅の裏手に降りると、緑濃い徳島中央公園。
徳島城の跡地で、かなり広い。
容赦ない陽射しに汗が体を伝って流れるので、とりあえず博物館のなかへ。
http://www.city.tokushima.tokushima.jp/johaku/kikaku/index.html
折りしも 徳島城博物館開館15周年記念特別展
「蜂須賀家の名宝と大名美術の世界」（7月20日〜8月26日）の開催中。
阿波藩主の蜂須賀家の名刀、甲冑や武具、徳島藩が抱えた絵師や蒔絵師の作品等
見るべきものは多かったが、なんといっても目を奪われたのは、
徳島藩御召鯨船の千山丸（せんざんまる）。
http://www.jrt.co.jp/tv/asa630/2004/0404spot/04091.htm
全長10メートル、幅2.8メートルほどのこの身軽そうな船は、
大名の御座舟に随行し、藩主が船に乗り移る時などに用いたものとか。
ほっそりとした船体の側面は金箔が貼られ、
団扇や軍配の絵が色漆で一面に描かれていて、とても綺麗。
強力を誇ったという阿波水軍に思いを馳せる。
蜂須賀家の旗印は卍だった。
常設展示も大変面白かった。
第３展示室「城の構え」では徳島城表御殿の精巧な模型が置かれ、
いま立っているこの地に、かつて広がっていた景色が彷彿とする。
城は明治8年に解体されたとのこと。
大木戸をくぐると第４展示室「城下町のくらし」。
ここには江戸時代の町人たちの資料が展示されているので、
磐音シリーズで頭の中が江戸に染まっている今、とても親しみやすい。
両替商の店先再現で、分銅型の看板や銭を選り分ける銭枡などを見ると、
すっかり今津屋さんに居る気分。
実物の千両箱の大きさだとか、当時の流通貨幣が東は金、西は銀、
交換比率がどうの、という説明も、手の内のことのよう。
隆盛をきわめた藍商の展示も興味深い。
広大な吉野川の運ぶ肥沃な土壌が藍の栽培に向いていたこと、
藍の栽培、染めなどは、阿波の一大産業だったことがよく分かった。
博物館のそばには表御殿の庭がそのまま残っている。
光を当てられすぎて、白っぽく見えるほどの陽射しのなか、
それでもくっきりと緑が鮮やかな大きな石が目に付く。
乾いていても綺麗な青みは、濡れ濡れとしていればさらなるうつくしさだろう。
そのあとも石垣やら庭石やら、あちこちでこうした石が目に付いた。
これは徳島名産の「青石」と呼ばれる石だとか。ま
るで藍染の藍に染まったような色合い。素敵だ。
＜両国橋＞
暑さにもめげず、日傘だけを頼りに歩く。
次に目指すのは阿波踊り会館だが、
途中、紺屋町のからくり時計や瑞厳寺にも寄る予定なので、
両国橋通りを行き、両国橋を渡る。
街中を流れる新町川には、たくさんの橋がかかっていて、ここもそのひとつ。
橋の袂からは周遊船も出ている。
両国橋、と聞くとこれまた同名のお江戸の橋を思い出してしまう。
両国広小路の今津屋さんからの行き帰り、磐音が何度となく渡る大きな橋。
この名は、境を隔てた二つの区域にかかっていることをあらわしている。
お江戸の隅田川の場合は、西側が武蔵国、東側が下総国だったことから。
ここ徳島の場合は、徳島藩と、支藩の富田支藩とを結ぶ橋だったらしい。
江戸時代中頃、阿波藍の商人によって架けられたそうだ。
藍商の威勢が思われる。
橋の欄干の上には、阿波踊りの像が建てられ、
男踊り、女踊りのそれぞれの姿を活き活きと写している。
行ったり来たりしながらカメラに収めた。
バスも通り、交通量は多そうだけれど、川岸には木道のような場所があり、
ベンチも設置されて、木陰で憩うことも出来て心なごむ。
＜紺屋町界隈＞
橋を渡ってしばらく行き、広い通りで右折すると紺屋町のバス停。
このバス停の屋根と時計塔には阿波踊りのからくり人形があって、
二時間置きにあらわれるとのこと。12時には少し間があるので、
合間のコンビニで涼みつつ、通りに面して幾筋もある路地を回る。
栄町、鷹匠町など、一本ごとに違う町名でぎっしりとお店が並ぶ繁華街。
小体な飲み屋さんが多い。
せっかく町を歩くので、
事前に映画『眉山』のロケ地についてはちょっと調べてきていた。
http://www.topics.or.jp/bizan/index.html?tg=re
映画で龍子の店として登場したお店は鷹匠町の「多和良」、
まっちゃんの居酒屋は栄町の「五作どん」だということなので確認してみたが、
それぞれすぐ近く。古いつくりの木造などもあってカメラをむける。
やがて時間になってするすると屋根が開き、人形達が姿を見せた。
頬かむり、尻からげの男踊り、編み笠、手甲の女踊り、
高低のそれぞれの位置でにぎやかな囃子に合わせて踊る。
なかなかユーモラスなのだが、阿波踊り本番が終って観光客もいないのか
（いや、観光客はこんな暑い日にてくてく歩いてないのかも）、
見慣れているであろう近隣のひとは見向きもしない様子。
＜瑞厳寺＞
通りをそのまままっすぐ行くと、
向かいに山の緑を背にした古めかしいお寺の門が見えた。あれが瑞厳寺。
慶長9年（1604）に開かれた古刹とか。御手洗には鬼瓦が水を吐いている。
見るからに時代ががったお堂も見え、境内は傾斜に沿って上にのぼる。
茶室などがある庭園は入園料が必要とのことで、透き見しただけで過ぎたが、
山麓の地形を生かして、緑濃い落ち着いた感じのところ。
中には切支丹灯籠などもあるそうだ。
寺の門を出たところで、お寺の注意書きにふと目をやると
「お墓の中であそばれん
−境内・墓地内での怪我事故などの責任は一切負いません」とある。
あ、言葉尻が中国地方にも似てるな。
「遊んじゃいけない＝遊べない」は、「遊ばれん」なんだ。
駄目、いけない、を「いけん」とか、
入れない、を「入れん」というのは私の田舎と同じ。
新町小学校の塀に沿って阿波踊り会館へ向かう。
小さな流れのそばに、夢のように白い芙蓉が咲いている。
（続く）
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