＜木屋町通り界隈の近代建築＞
三条から四条にかけての高瀬川沿い付近は、
新選組の名を高めた池田屋騒動など、幕末の事件の舞台となったところが多い。
彦根藩邸跡、土佐藩邸跡、坂本龍馬寓居跡、
龍馬と中岡慎太郎遭難の地・近江屋跡など、その場所を示す石碑だらけ。
一度ちゃんと歩いておこうと流れに沿って歩き始めたが、
いきなり向こうの路地奥に見える先斗町歌舞練場に目が釘付けになる。
磁石にひかれるようにぐいぐいとひっぱられて路地を進むと、
おお、なんと立派な！間近で見ると圧倒されるような巨大さ。
「歌舞練場」の文字も六角形の窓枠も素敵に古めかしく、
スクラッチタイルが延々続く外壁の量感もすごい。
一見なまこ壁ふうに見える斜め交差の下壁も、
ひとつひとつ念入りに装飾が施されている。
屋根を見上げれば、変わったかたちの鬼瓦。
あとで調べたら中国の蘭陵王の舞楽面を型取ったものだとか。
舞い上がってしまって、狭い先斗町通りをあちこちして撮影。
http://www1.odn.ne.jp/~adw58490/kaburenjyo4.html
さて再び川沿いへ。しばらく行くとまた「引力」を感じた。
私が強く呼ばれる時の、共通した匂い。滅びの気配。
川沿いの鉄筋コンクリート作り４階建て。その威容に見惚れて
また右から左から写真を撮りまくった。
側面から正面に回ると、玄関に至る橋のデザインも趣があってうつくしい。
アーチ型の玄関といい、装飾性の高いテラスといい、本当に素晴らしい。
「立誠小学校」とあるが、「高倉小学校第二教育施設」という
新しい札もかかっていたので、今は違う使われ方をしているのが知れる。
こんな威風堂々たる建物が小学校として建設されていた時代の、志の高さを思う。
帰ってから調べたところ、立誠小学校は昭和2年〜3年築で、
平成5年に廃校になったらしい。
先に見た先斗町歌舞練場も昭和2年築だったし、
東大の駒場寮などもその年の生まれだった。
この時期の建築物にはいやおうなしにひきつけられてしまう。
ごく細い木屋町通りと大通りの河原町通り。
そのふたつを結ぶちいさな路地を縫うように歩く。
もと土佐藩邸内にあったという岬神社や、
土方の拷問によって御所襲撃の計画を明かした志士・
古高俊太郎の邸跡などがひっそりとある。
古高邸の跡地は料理屋「志る幸」となっているが、
店先に繭玉かざりがあるのが新春らしくてよかった。
作り物ではなく、本物の紅白の小さなおもちが枝に通され、
紅梅白梅のように愛らしい。
中岡慎太郎が寄宿していた「菊屋」の跡地は現在、あぶらとり紙専門店。
池田屋に至っては、現在のパチンコ店から往時を思うのはむつかしい。
史跡とは直接関係ないものの、
路地のお店はパッチワークのように鮮やかなグラデーションを成すタイル装飾だの、
変わったかたちの窓枠だの、凝った作りで味わい深いものも多く、
実に魅惑的な迷路だった。
高瀬川といえば森鴎外の「高瀬舟」も思い出される。
それもあってもっと薄暗いようなイメージを抱いていのだが、
流れに沿った柳は青く、まだつぼみもつかない桜並木が咲き誇る頃には
「みやこぞ春の錦なりける」そのままの景色なのだろう。
一度春にも歩いてみたい。
＜祇園へ＞
行き返りして降り出しに戻り、鴨川にかかる三条大橋を渡って祇園の方へ。
御所に向かい跪いて拝礼する高山彦九郎の巨大な像を右手に見て
川端通りを進み、若松通りから細い縄手通りへ。
美味しそうな焼きかまぼこのお店があった。
古めかしい作りの店が目に付く。
ことに新橋通りという通りは、伝統的建造物保存地区とかで、
すだれを下げた木造の格子戸作りが立ち並ぶ。
新橋通りと、川沿いの白川南通りが合わさったところに辰巳大明神
（そんなに大きくはない）。
白い襟巻きをした晴れ着のお嬢さん方が通りかかって、一服の絵だった。
小さな巽橋を渡り、細道を進むと
「京都花街国民健康保険組合」と看板のかかった木造の建物。
「一月授業日割表」と記された黒板の筆頭に
舞踊の井上八千代さんの名が掲げられているのも土地柄。街の空気が違う。
やがて四条通りに出ると風格のある一力亭が見える。
なにしろ「仮名手本忠臣蔵」七段目で由良之助が遊ぶ茶屋として
名が出てくるくらいだから歴史が長い。
界隈のお店には「由良之助」もあれば「力弥」も「おかる」もあって
なんだか楽しい。
「おかる」は以前某旅番組でチーズやカレーが入った創作うどんのお店として
紹介されて名を知っていたので、ちょっと寄ってみた。
思ったよりこぢんまりしたお店。
おやつ代わりにごく普通の刻みきつねうどんをさらっと食す。
胡椒が効いていた。
＜建仁寺＞
四条通りを行けば八坂神社はすぐそこだが、
まず花見小路通りに折れて建仁寺へ。
http://www.kenninji.jp/
広大な敷地を持つ日本最古の禅寺。
建仁寺垣という竹垣の名称のもととなったことでも知られる。
枯山水の庭や襖絵などを拝観。風通しの良いつくりが清々しい。
休憩用のソファ席近くに赤い金魚の泳ぐ金魚鉢が置いてあった。
外を回って、公開中の法堂天井画も見に行く。
天井いっぱいに浮き上がる双龍画のあまりの大きさにびっくり。
108畳分もあるとか。
平成14年4月、小泉淳作画伯の筆になったものだそうだから、
まだ4年とたっていない新しいものだが、
黒一色のなか、龍と炎と雲はグレーと、うっすら紅がかったような色合いで
不思議な雰囲気だった。
門を出て塔頭のひとつである禅居庵（摩利支尊天堂）へ。
ここで左右に立つのは狛犬ならぬ猪である。
摩利支天像は猪に乗った姿などもあり、縁のあるものなのだそうな。
今年は亥年でもあるし、良き年でありますようにと手を合わせた。
摩利支天（まりしてん）は、仏教の守護神である天部の一つで
原語のMariciは、太陽や月の光線を意味し、陽炎を神格化した神だとか。
陽炎は実体がなく傷つかないということで信仰を集めたらしい。
＜高台寺＞
日がだいぶ傾き出した。いささか急いて東大寺路を突っ切り、
八坂通りをまっすぐのぼって八坂の塔手前で左折し、維新の道へ。
高台寺は秀吉を弔うために北政所ねねが作った寺。
http://www.kodaiji.com/index.html
名の通り高台にあるので町並みが眼下に。
境内もかなり起伏があり、秀吉像と北政所像がまつられた霊屋へはちょっと登る。
今は通行禁止のようだがここから下の開山堂まで急勾配に添って作られた
「臥龍廊」が面白かった。
臥龍池、観月台など遊び心に富んだ庭園は小堀遠州作。
さらに上るとユニークなかたちの茶室・傘亭と時雨亭。
下ってゆく道は竹林に沿っていて落ち着いた雰囲気。
台所坂を下って右の塔頭・月真院は、新選組から袂を分かった
伊東甲子太郎が御陵衛士たちの屯所を置いたところ。
＜霊山護国神社＞
維新の道を再び上へ。この坂も結構きつい。
幕末から維新の時代を資料でたどる「霊山歴史館」は以前立ち寄ったけれど、
さらにその上の護国神社へ。
http://www.gokoku.or.jp/
ここは幕末の動乱期に活躍した維新の志士たちを奉祀するため、
明治元年に「霊山官祭招魂社」として全国で初めて創立されたとのこと。
墓石拝観は５時までなので沈む夕日と追っかけっこ。
入ってなお石段をずんずんと上る。
坂本龍馬と中岡慎太郎の墓、二人並んだ銅像に詣でる人は多い。
途中の道筋にも絵馬ならぬ石版に龍馬への思いを書き綴ったものが多く列なっていた。
各藩ごとにずらりと並んだ古い墓石の存在感。
正面には個人名、側面には長州、長州、長州、など藩の名が延々と続くのだ。
このひとつひとつがそれぞれ生きて、死んでいったひとたちなのだな。
その数に圧倒される。急な上りで噴き出していた汗が山の風にすうっと引いてゆく。
表示板を頼りに下ったり上ったりしながらお墓をたどる。
木戸孝之（桂小五郎）と松子夫人（幾松）の墓は一段と高いところにあった。
やはり墓の高さは現世での肩書身分の高い順なのか。複雑な気持ち。
＜友人宅へ＞
もと来た道を戻り、長州の志士たちが倒幕の密議を開いたという翠紅館跡や、
龍馬の定宿の一つだったという清水坂近くの明保野亭跡の碑を見てから、
市バスで京都駅へ。すでに街は夜の顔。
南草津の友人宅に着いたのは７時ちょっと前。
寄せ鍋をいただきながら、二人で第二回目の「風林火山」、
本日初回の「華麗なる一族」を続けて見る。
つっこみどころ満載なれど、それをネタにわいわいとおしゃべりして楽しかった。
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