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2006年12月16日20:36

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「ロープ」(野田MAP公演)

12月15日夜、シアターコクーンにて鑑賞。
一緒にチケットを取ったNさんと並び、三列真ん中という良席で見た。
野田MAPは先行予約の会員登録をして、大抵かかさず見ている。
今回の興味は藤原竜也くんと宮沢りえちゃんの初顔合わせ。
テーマはプロレスと人間の暴力性。

見終わったあとNさんがそっと
「最近の野田さんって、こんなに重いの?」と聞いた。
そうですね、昔に比べればシリアス度が増しているかもしれない。
でも多分、根っこのところは変わっていない。
軽やかに駆け抜けて饒舌に笑わせてくれた過去の作品でも、
やはりその裏側にひそんでいる暗い死の影は
大きかったような気がする。

リングという、ロープが張られた世界のなかでなら、
どこまでエスカレートしても「プロレス」の名のもとに許される暴力。
それはいつかストレートに、「戦争」の名のもとに
なんでも許される殺戮と残虐行為に重なってゆく。
過去のベトナム戦争。今現在のイラク支配。
後半の畳み掛けかたは、息もつけない。
そして宮沢りえ演じるタマシイの気迫あふれる実況中継が終った後、
背景に並んでいた模様のような物が何であったか
初めて分かって慄然とする。
それは延々とつらなる犠牲者たちの通し番号、名前、年齢だ。

自分を未来からやってきたコロボックルだと信じているタマシイ。
りえちゃんの存在感は圧巻だった。
語るにも辛い台詞が続くと言っていた意味が痛いほど分かる。
しかし彼女は果敢にもそれを演じきっていた。
なんという健気さ。なんという勇気。
そしてベトナムの民族衣装の彼女はうつくしかった。
はだしの土踏まずさえも。

竜也くんは舞台の申し子だけれど、
野田さんの芝居ではいつも女性に負けてしまう気がする。
前回の出演作『オイル』の時でも、決して悪くはなかったけれど、
結局松たか子に全部持っていかれたと感じた。
たしかに赤いレオタード姿も、狂気にかられてゆく顔もすごいけれど、
この妖精のようなりえちゃんの前にはかすんでしまうような。
遡れば『パンドラの鐘』の時の天海祐希のヒメ女も圧倒的だったなあ。
近年の作は女性が強く、いつも戦の匂いがするという共通点があるような気がする。

他の役者さんの印象。やっぱり渡辺えり子さんは段違いにすごい。
そして橋本じゅんさんの面白いこと!数々の台詞にふきだしてしまった。
特に笑ったのは、売り子に扮して凍ったアイスクリームの硬さについてしゃべるところ。
まめに体を動かして芝居してるなあ。
宇梶さんはなんて金髪プロレスラーの役が似合うんでしょう。素敵だ。

厳しく重いけれど、でもこれは現実に起きていること。
目をそむけるのじゃなく、考えなくちゃ、という気持ちにさせられる。
繰り返されるアンコールの最後に、
小柄な野田さんが走り出てくると万雷の拍手。
世界をつくりだすひと。
野田さんは鋭敏なセンサーだ。いつも時代とリンクしている。
これまでも、これからも、信ずるに足るひとだと思う。

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