ジメジメするこの時期にあわせて公開するなんてかなりの確信犯。遠くまで連なる山々の緑、さわやかな初夏の風、北海道が一年で一番いい季節から物語は始まる。旭川の郊外、美瑛町の大自然のなかにポツンと建つログハウスには、セミリタイア状態の中年やや初老の夫婦ふたり。リビングには暖炉、オーディオもアナログ盤、とても優雅な暮らしと映る。
う〜ん、これは最初に理想的な状況を見せておいて、過去の出来事や現在かかえているトラブルをすこしずつ小出しにしていく“引き算”の作品だな、とそんなことは誰にでもすぐわかる。そう、けっして佐藤浩市と樋口可南子の二人芝居なんかではなく、何組かの夫婦と親子が織りなす家族のつながりがメインテーマだと、観る側はだんだんと気づかされていく。
さすがは「釣りバカ日誌」シリーズを撮りつづけた朝原監督(スーさんの息子が今回の主役だ!)、話は後半に進むにつれてグッと広がりを持ち、それぞれがうまくカラみあい、そしてちょっとした小道具だけで泣かせてしまう…このあたりの巧さは国民的シリーズをずっと撮ってきた職人技、そしてまたこの作品も万人受けする要素は十分だと納得するんですね。
とはいえ、あまりご夫婦でご覧にはならないほうがよろしいかと。スクリーンのなかで描かれたあまりにも崇高なる夫婦愛に思わずわが身をふりかえり、反省し、身を引き締め、開き直り…。映画館を出たときはかえって夫婦仲が気まずくなっていることなきにしもあらず、なんて余計なお世話を焼いてしまうほど、ふたりの愛は美しいものだったのですから。
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