mixiユーザー(id:949383)

2014年09月11日00:59

397 view

奪われる記憶(LMTと「夢を売る女」)

S「ただとはいわない。一つにつき百だ。それで手を打とう」
Y「すみません。お話がよく分からないんですが」
S「出すんだ。君が手に持ってるものだ」
Y「チップのことですか?これをどうするつもりです?」
S「順番は守ったほうがいい。話は渡してからだ。まずチップを渡せ」
************
MK「それは俺が買った記憶じゃないか。いつ盗んだんだ。
 どうしてくれるんだ。この手の記憶は滅多に出回らないんだぞ。
 なあ、あんたの記憶を分けてくれよ。
 覚えてるんだろ、あんたは。
 生の記憶はなかなかお目にかかれない。
 チップも色々試した。メモリードラッグもやったさ。
 でも生は違うんだ」
************
Y「駄目だ!これは異邦人から盗んだ夢なんだ」
************

『Lost Memory Theatre』の世界のなかで、
青年Yが持っている「記憶のチップ」と呼ばれるものは、
さまざまに狙われ、奪われかける。
彼はそれを必死で守ろうとする。
それは彼が持っているたったひとつのものだから。
「異邦人から盗んだ夢」という言葉は、
三宅さんのファーストアルバム「Stolen from Strangers」
(異邦人から盗んだもの)というタイトルから来ているのだろう。

記憶の売買をする不思議な世界は、
カポーティの短編『夢を売る女』(原題:Master Misery)を彷彿とさせる。
主人公のシルヴィアは生活に行き詰り、
他人の夢を買うというミスター・レヴァーコーム
(彼はマスター・ミザリーと呼ばれている)の家に、夢を売りに行く。
彼女と同じく夢を売りに行って追い返されるオライリーは、
年老いた酔っ払いだが、シルヴィアと親しくなり、
彼女から夢が十ドルで売れたと聞いてこう言う。

「そんなこと知られたら、
誰かが、きみが夢を盗んだっていい出すよ。
私も一度、そういわれたことがある。
あの連中は、なんでも食いつくしてしまう。
あんなサメみたいな連中、見たことがない。
俳優や道化師やビジネスマンよりひどい。
たしかに、夢を売るなんてことを考えたら頭がおかしくなる。
今日はちゃんと眠れるかどうか、夢を見られるかどうか、
その夢を憶えているかどうか、心配になってくる。
頭がぐるぐる回ってくる」

マスター・ミザリーは、最後にはあらゆる人間の頭から、
すべての夢を集めることが出来るのかも、と彼女は考える。
じんわりと怖い世界。
「夢」や「記憶」というのは、当人を当人たらしめる、
心のよりどころなのかもしれない。

しかし夢の価値は一律ではなく、見向きもされないものもある。
マスター・ミザリーの従者であるミス・モーツァルトは、
「ここは、あなたの来るところじゃありません」と、
オライリーを追い返していた。
「ここに来ちゃ駄目!」と青年Yを押し戻していた
冒頭の美波さんを思い出してしまう。


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2014年09月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    

最近の日記

もっと見る