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行ってみたくて行くのが旅だと思う。
旅とは何よりも非日常へのときめき、遊び心の産物のはず。
どんなに遠くに行ったとしても、
それが必要に迫られてのことだったらそれは単なる移動だ。
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と、以前私は書いた。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=241256957&owner_id=949383
母が亡くなる頃に繰り返した長時間移動のことだったのだが、
この時の切羽詰まった感覚からすると、本当に実感だった。
でもさすがに七回忌のための帰郷はそこまでぴりぴりしたものではなく、
旅と言っても良い部分もあったと思う。元来私は旅が好きなのだ。
4年ぶりのふるさとにはそれなりの感慨もあったし、
旅日記としてまとめておきたい。
＜東京駅のお弁当＞
この10月に丸の内側の赤煉瓦駅舎復元も終了しリニューアルした東京駅。
素敵なドーム天井もじっくり見て写真でも撮りたいところだけれど、
法要のための旅だからお位牌や写真など抱えており、気分的にも無理。
ただ東京駅紹介の番組で、全国各地の有名駅弁を売る店が気になっていて、
その「駅弁屋 祭」（駅一階中央通り）でお弁当を購入。
幕の内やらお寿司やら、懐石料理みたいな華やいだものもあり、
あれこれ迷うも、結局深川めしにしてしまった。
江戸が出発点なのだし、あさりも好きだし。
同行の息子は若者らしく、仙台の「牛タンステーキ弁当」を選んだ。
＜新幹線乗り継ぎ（のぞみ→さくら）＞
16番ホームから10時10分発のぞみ23号に乗る。難なく座れて一安心。
旅に出ると便りが書きたくなるもので、友人数人に現在車中とのメール送信。
名古屋のモードビルだの京都の東寺五重塔だの、
車窓に流れる建造物を眺めるのも久しぶり。
12時ちょっと前にお弁当。あさり、穴子、卵焼き、べったら漬け。
こぢんまりしているけれど昔ながらの味で美味しい。
12時43分新大阪着。ここで乗り換えるため、22番ホームから20番ホームへ。
のぞみ号は新幹線最寄駅の徳山に止まらないので致し方ない。
初めて乗る山陽・九州新幹線さくら号はすでにホームにあって清掃中。
1〜3号車の前はもうかなり並んでいたが、こちらもなんとか座れた。
車内のドアや荷物棚の一部は木製でやわらかい印象。
3連の椅子のほうは青とグレー、2連のほうは臙脂とベージュ系の市松。
色合いはグラデーションになっていて、なかなか凝っている。
せっかくなので、グリーン車まで歩いて様子を観察。
4号車からの指定席はドアなど木製部分の色がもうすこし濃いブラウン系。
座席は金茶に薄のような柄。
グリーン車のドアはさらに濃くて黒っぽく、座席は紺。
グレードアップするに従って濃くなっていくということか。
でも自由席の白木の明るさの方が、気分は楽のような気がする。
そういえばのぞみもさくらも全席禁煙で、
車両の合間に「喫煙ルーム」があるのにびっくりした。
福山からはトンネル続きで送信がむつかしい。
14時51分、定刻通り徳山着。
陽射しはあるけれど、外の空気は爽やかで涼しい。
新幹線の改札付近は、改装中で狭くなっている。
大きなふく（ふぐ）オブジェがエスカレーター下でお出迎え。
前からあるものだが、以前とは違う位置でちょっとびっくり。
＜変わらぬ山陽線の景色＞
4番線ホームから15時01分発の下関行きに乗る。
予定通り着くことを防府のYさんにメール。
徳山から防府方面へ向かうこの沿線風景は変わらない。
横川や戸田（へた）あたりの日に焼けたホームやちいさな屋根の駅舎。
昔のままでなつかしい。
車窓から目に映る紅い色は色づき始めたハゼノキの葉の一部。
揺れるコスモス。セイタカアワダチソウの黄色。
彼岸花の赤も色あせつつもまだ目に付く。
やはり今年はこちらでも花が遅かったのか。
海が見えてくる。この海が車窓に広がると、
ああ、だんだん近づいて来たなと思う。
林芙美子の『放浪記』の冒頭、「海が見えた。海が見える」の、
尾道への慕情を連想する。15時26分防府着。
＜元の実家へ＞
駅には亡き母の友人・Yさんが迎えに来て下さった。
友人とは言っても母より10歳ほど若い方で、実家を買って下さった恩人。
三回忌の時も送り迎えしてくださったが、この4年の間に同居のお姑さんが
動けなくなったそうで、状況はだいぶ変わってしまった。
介護で忙しいのに来て下さって感謝のほかない。
おまけにたまたま昨日親戚の方がバイク事故を起こして大変だったとか。
買ってくださった家は別荘的な扱いなので、ご自身は住まわれていない。
今回もご好意に甘え、息子ともども一晩泊めていただく。
向かう途中、向島にある母の記念樹の場所にわざわざ立ち寄って下さった。
母が亡くなった次の年の春、母を偲ぶ有志の方々が、
市の記念樹の場所に申し込んで植えて下さったのだ。
何故か他の樹よりひときわ大きく立派に成長していて嬉しかった。
今年の春には花もよく咲いたそうで、その時の写真もいただく。
以前来た時はYさんとお店で食事をしたのだが、
今回はお身体の空く時間は限られているし、
途中のARUKで二人分のお弁当、インスタントみそ汁、お茶などを購入。
旧実家まで送っていただき、Yさんはとんぼ帰り。多謝。
＜幾許かの感傷＞
着いたらすぐお墓参りを、と思っていたのだが、
もう夕方だしいささか疲れて翌朝にすることに。
母のいない元・母の家に入るのには複雑な感情がある。
もちろんかたちとして残っているのはありがたいのだが、
ここでこまごまと誠実に暮らしていた母の姿がどうしても浮かんで来る。
以前来た時はまだ名残の雰囲気があったのだけれど、
食器戸棚や母の箪笥のひとつがもう無くなっていて心さみしい。
もはやひとさまのものなのだから仕方ないのだけれど、
（そしてそのために奮闘したのは他ならぬ私自身だ）
手を合わせる御仏壇もないのが落ち着かず、うろうろしてしまう。
お習字教室だった別棟の向こうに新しい部屋が建て増しされている。
やはり変わったんだなあ。
庭から山裾を歩く。クサギの実が色づいていた。
竹藪のこのあたりで小さい頃は遊んでいたものだな、と追想する。
明日は庭のシキミや水引草などをお墓に持って行こう。
山の畑ではジンジャーの白い花が甘く香っている。
息子と二人で食事。
私はおろし竜田揚げ弁当。息子はジャンボチキンカツ弁当。
付け合わせで買ったポテトサラダは息子がほとんど食べる。
以前は屋根上の太陽熱でいつも湧いていたお風呂が、
今はもう使えないのが残念。
ガスも使えないので、電気ポットのお湯で身体のみ拭く。
発つ前日に「明日そちらに行くのでもし会えたら」と連絡していた
高校時代の同級生Mさんから携帯に電話があった。
なつかしく話す。彼女は早々と退職して2年前にこちらに帰ってきている。
久しぶりだから会いたいと言ってくれて、翌日法要が終わる頃の時間に
お寺まで車で迎えに来てくれることになった。
Yさんも法要に参列してくださるので、
寺に行く時には車で迎えに来て下さる予定だが、
そのあと駅までまたお願いするのも申し訳ないし、
あとはMさんにお願いすることに。
夜はずっとNHKをつけていた。
世界とのつながりがこれしかないような気分。
今回の「ファミリーヒストリー」は谷原章介さん。
お父様の国彦さん、よく似てらっしゃる。
夜11時過ぎ、元の仏間にて息子と並んで就寝。
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