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2011年06月03日02:05

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奇跡(よみうりホール試写会)

6月2日、よみうりホールの試写会にて鑑賞。
是枝作品のファンとしては、『空気人形』以来の新作を早々と観られて嬉しい。
http://kiseki.gaga.ne.jp/index.html?type=fc

*註)
内容や台詞についても書いているので、
詳細を知りたくない方は、映画をご覧になってからお読みください。

詳しい情報は出来るだけ入れないようにしていたので、
つい先日まで出演者の詳細もあらすじも殆ど知らなかったけれど、
顔を見たら主役の一人が、朝ドラ『てっぱん』に出ていた子役だと分り、
ああ、あの子なら良いだろうなあ、と楽しみにしていた。
私はなにせお笑い番組などは観ないので、兄弟で漫才をやってる子だとは知らず、
今回、キャスト紹介で初めてその名と活動を知った次第。

オーディション時には是枝監督も同様にご存知なかったそうだけれど、
彼らに惚れこんでしまい、彼らに合わせて脚本を書き変えたというのも納得。
随所でうなってしまった。
物語を引っ張ってゆく兄の航一役を演じる前田航基くんの確かな存在感は、
子役というより、一人前の役者と呼ぶべき堂々たるもの。
子どもらしい健気さとともに、哀感もにじみ出ていて素晴らしい。
一方、弟の龍之介を演じる前田旺志郎くんのほうは、
天衣無縫というか、いかにも天真爛漫な勢いの良さで笑いを取る。
間合いのセンスが天才的。お調子者みたいだけどその実ちゃっかりしっかり。

この子たちのしっかり者ぶりに比べたら、
離婚してしまった親たちのほうがずっと子どもっぽくて甘ったれ。
駄目駄目でゆるい父親役のオダギリジョー、似合いすぎ!
いつも元気いっぱいの龍之介が、改まった顔でこの父親に対し、
「子供手当」の一部を要求するところなど痛快だった。
なんだか古典落語に出てくるシビアな子どもと抜けてる親のよう。

是枝監督は、やはり子どもの自然な感情をすくいとるのが上手い。
航一の友達2人と龍之介の友達3人もそれぞれ愛おしかった。
各々、起きて欲しい”奇跡”、つまり叶って欲しい願い事を語る場面の、
無邪気さと、また妙に悟ったようなところと。
「子どもっぽいね」「うん、子どもっぽい」と照れたり。
今の時代に子どもを生きるって、昔よりずっと大変だろうなあ。
否応なしに情報過剰で、いろんなことに気兼ねして気を使って。
大人が思うより、彼らはずっといろんなことを良く見て気付いている。
気付いていないのは大人のほう。

子どもたちが主人公の傑作『誰も知らない』のことも思い出したけれど、
この作品はそこまで鮮烈な痛みを感じさせるものではなくて、
あちこちでくすっと笑いながらリラックスして楽しめた。
偶然の巡り合いで救ってくれた人の良い老夫婦もおとぎ話めいて、
突然の夏合宿みたいなお祭り感が微笑ましいけれど、
ただのファンタジーにはならない苦みもあるのが、いかにも是枝さんらしい。
愛犬を抱えた男の子は切なかった。

少年たちのロードムービーと言えば『スタンド・バイ・ミー』が有名だけれど、
小学生たちのわいわいした楽しさとちょっと切ない感じから、
岩井俊二監督が大きな評価を受けた1993年のTVドラマ
『ifもしも〜打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を連想したり、
やはり両親の離婚によって孤独をかかえる少年が鉄塔をたどってゆく
『鉄塔武蔵野線』(1997年)などもなつかしく思い出したりした。
やはり子どもたちのロードムービーはドラマティックで絵になるものだ。

脇を固めた是枝組の常連役者たちも、皆々味わい深い。
阿部寛さん演じる坂上先生のひとりよがりぶりにも笑ったし、
樹木希林さんの独特の飄々たるリズムは絶妙。
橋爪功さん演じる菓子職人のおじいちゃん・周吉も良かった。
かるかんを手作りして航一に食べさせるところのやりとりは印象的。
航一「ぼんやりした甘さやな」
周吉「……」
航一「……うっすら?…」
周吉「それを言うなら、ほんのり、やろ!」
言い回しはちょっと違ったかもしれないけど、この言葉のこだわり好きだなあ。

冒頭からずっと桜島の灰にうんざりしていた航一が、
祖父の真似して風向きを見て「今日は積もらへんな」と言うラストに、
生活を受け入れて前に進んでゆくことを感じて感慨深かった。
旅を経て、やはり彼はひとつ大人になったのだ。

<細々雑感>
・♪ビュワーン ビュワーン はしる〜
あおいひかりの ちょうとっきゅう〜
じそく 二百五十キロ〜

と原田芳男さんや橋爪さんたちが酔っ払って歌う
「はしれちょうとっきゅう」の歌、なつかしい!
ちょっと調べたら、これはNHK『うたのえほん』で
昭和42年1月に流れたものとか。
(山中恒作詞/湯浅譲二作曲)

・子どもたちが旅費の捻出のため、必死にいろいろ考えるのがいじらしい。
ウルトラマンやウルトラセブンの怪獣のソフトビニール人形は、
初期のものなら結構お金になるから、それを売るのはなかなか機転がきく。
ここではお店屋さんがミクラスとシーボーズにそれぞれ5千円つけていた。
やったね!

・長澤まさみ演じる図書室の先生が、男子のあこがれの可愛いひとというのは、
ライブラリアンとしては嬉しい設定。ちょっと珍しい。
保健室の先生的な、やさしくてちょっと呑気なお姉さんキャラ。

・是枝作品で印象的な、風景や物だけの抒情的なカラショット、
今回はラストに続けざまに流れてわあっと思った。
必死で探しまわった百円玉、揺れるコスモスのうつくしさ。
こういうスチール写真的な畳みかけには、胸が迫って涙ぐんでしまう。
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