桃の節句だというのに寒いこと。窓の外は雪。
でも新暦による季節行事は、もともとズレが大きいから、
季節感に合わないのは致し方ない。
旧暦の日付を今に直すと、本来雛祭りは4月近くの行事なんだもの。
確かにその頃でなければ桃は咲かないし、
うらうらと春らしい陽気にはならない。
今咲いているのは梅の花。
紅梅は桃の色を思わせて可愛らしい。
それはともかく、3月3日は亡き母の誕生日。
兄二人のあとに生まれた初めての女の子だったし、
そのうえお誕生がちょうど雛祭りの日だったから、
ずいぶんお祝いしてもらったらしい。
母のお雛様は、どんなものだったのだろう。
私のお雛様は、慣例通り母の実家から贈られたもの。
三人官女、五人囃子、お道具までいっぱい揃った七段飾り。
緋毛氈を敷いて飾るのはいつも楽しかった。
昔はこの家にも御殿付きのお雛様があったと母から聞いて、
「見たい」と言ったら、もう燃やしてしまったという返事で、
とてもショックだった。
「御殿のほうが見たかった」と駄々をこねると、
「ひとつのおうちにお雛様がふたつあってはいけないの。
喧嘩してしまうから」とたしなめられた。
お雛様同士の喧嘩って、それは凄まじい争いのような気がして、
不承不承あきらめたけれど、
お雛様にはなんとなくこわいようなイメージが残った。
実家の処分の時、やはり雛人形は手離すに忍びなくて、
一応こちらに持ってきたけれど、
飾るだけのスペースが作れなくてそのまま。
その代わりに、母が手作りした小さなものを出している。
着物の端切れを重ね合わせた十二単衣。
頭は、ペーパーフラワーのめしべなどに使うような、白い楕円に
黒い布で作られた髪や冠が付いている。
目鼻もなにも無いけれど、なんだか品があって愛らしい。
母を偲んで、まだしばらくは飾っておこう。
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