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2008年05月20日02:19

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カントと核融合(ヘドウィグの言葉の奥)

<カント>
「あんたも、カントも、いつも欲しいものが手に入るってもんじゃないよ」
ハンセルが大学を追われるはめになった”天才的な講義”のタイトル。
オリジナルシナリオでは"You, Kant, always get what you want.”
言うまでもなく、ここでのkantは、言葉の響きからcan't(can not)
との掛け言葉。”You can't〜"(出来ない)ということ。
舞台スクリーンではドイツ語表記されていた。
多分”Du, Kant, bekommen das, was du wollen, immer.”
内容は「ロックンロールにおけるドイツ哲学の積極的影響について」。

Kantという表記のカントとは、
言わずと知れたドイツ哲学者イマヌエル・カント
(Immanuel Kant, 1724-1804)のこと。
『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』の三批判書を発表し、
批判哲学を提唱したドイツ観念論哲学の祖。

『実践理性批判』の冒頭で定義されている「格律」という言葉は、
「自分の意志を決めるに当たっての主観的規則」ということ。
もっと簡単に言えば、「自分はこうしたいということ」。

カントは「道徳こそが人間の自由の根拠」だとしている。
精神が因果律の支配下にあると、欲望のままに行動してしまう。
でも精神は自由だから、道徳律にしたがって、
悪いことは悪いと判断することが出来る。
そうすれば、「格律=道徳律」に近づけるし、そうなるのが理想的。
本当はしたくない、と感じながらも「なすべきだ」という道徳律に
従うのが道徳的な人。
「いつも欲しいものが手に入るってもんじゃない」とヘドウィグが
言っているのは、そういうことなのでしょう。
ヘドウィグが欲しかったものは、自分のカタワレのはず。

さらに、ここでヘドウィグは「カント」という時に、
自分の局部を指して、そこをはたいてますが、
おそらくこれは女性性器を意味する「cunt(カント)」に
引っ掛けてると思われます。
この語は俗語・隠語辞典じゃなくても、大き目の英語辞典なら出ている言葉。
だからここの「カント」には三重も意味がある。
いずれにしても英語を知らなければ分からないジョークですね。

(追記)
トミーとの出会いのことを語り始める前に、
「どう、レディース&ジェントルマン
 ヘドウィグのファンになってくれた?
 どうしてこんなこと聞くか分かる?
 それはつまり、だんだんあたしの正体が分かってきたってこと」
と言うヘドウィグに、イツァークが
「おまんこ野郎ってことかな」と捨て台詞を吐きますが、
英語オリジナルシナリオを見ると、この台詞はまさに
「Cunt」でした。

<核融合>
「冷酷な常温核融合」
He's the one.    あの子があたしの片割れなんだ
No blood in my eyes,  あたしの眼も血でにごってはいない
no blood on his face. 彼の顔も血でかくれてはいない
He's the one.   あの子こそがそれ(分かるでしょう?)
The one who was taken.   連れ去られたもの
The one who left.      置き去りにされたもの
The twin born by fission.  切り離されて生まれた双生児
He'll die in fusion,     融合によって死ぬの
our fusion,         二人が融合することで
cold fusion,        冷酷な(常温)核融合
unlimited power, (無限のエネルギー) 無制限の権力
unlimited knowledge,    無限の知識 
the secrets he must hold,  かかえなくてはならない秘密
the memories that we shared かつては二人で共有していたのに
but are now forgotton, 忘れ去られてしまった記憶

うつくしい詩のようなヘドウィグの台詞。
日本語訳も素敵だけれど、オリジナルの英語の、韻を踏んだ簡潔な表現も
本当に素晴らしい。

He'll die in fusion,    
our fusion,        
cold fusion, 

fusionの意味を引いてみると
1.(熱による)融解、溶解 融合したもの 溶解したもの
2.(政治)合同、連合、提携
3.(物理 科学)核融合 二個以上の原子核が合一する現象
   nuclear fusionともいう
4.(心理)融合、2つ以上の刺激が結びつき
一つのまとまりを持った感覚を生じさせること
5.(眼科)融像、融合
6.(外科)癒合
7.(言語)融合
8.(音楽)70年代に端を発した2つのスタイル
  特にジャズとロックを融合したポピュラー音楽

反語は fission 小部分に分裂する 核分裂する

「フューージョン!」と聞けば、誰かさんが大好きな
『ドラゴンボール』まで思い浮かべてしまうけれど、
それは置いておいて、
「核融合」というと、普通私たちがイメージするのは
1. (理学) 水素・リチウムなどの軽い原子核が融合して
  重い原子核になる原子核反応。
  その際、中性子などと共に大量のエネルギーを放出する
という、nuclear fusion。

「でも、核融合にはもうひとつ意味があるのよ。
 生物的な、生殖における細胞核の融合のこと。
 むしろ、この場合はそっちなんじゃないかな」
と、最近言い出したのは、例によってKさん。
あわてて調べてみると、確かに広辞苑にも二番目の意味が出ていた。

2. (生物) 細胞融合のあと、核が合一する現象。
 特に、後生動物の受精に際して起こる2つの配偶子の核の合一。
 カリオガミー。

またしても目からウロコ。この言葉は小学校の理科でも習うというのに
まるで分かっていなかった。
確かに、この場合はセックスと結びつくほうが正解のような気が。

cold fusion の cold は、「冷たい」のではなく、冷酷。
だから、冷たいわけじゃなく「常温」だとわざわざ足しているのでしょうか。
ヘドウィグの言葉を辿ってゆくと、
果てしない言葉の森に分け入るようで、眩暈がしてきます。
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