「桂吉弥のお仕事です」 2008 vol.1
1月24日 19：00〜 於：内幸町ホール
前座： 古今亭志ん坊｢元犬｣
吉弥： ｢たちぎれ線香｣
−仲入り−
まん我：｢ちりとてちん｣
吉弥： ｢かぜうどん｣
ちりとてちん効果絶大。満員御礼。
一ヶ月前の、三三さんとのふたり会では「蛸芝居」、
今回は「たちぎれ線香」と、TVドラマのオンエアにあわせて
演目を用意されているのが嬉しい。
客席には喜代美のお父ちゃん役・松重豊さんの姿も見えて
ちょっとそわそわしてしまった。
｢元犬｣
浅草蔵前の八幡さまに住み着いている白犬が、
願いかなって人間になれたものの、
そこは元が犬だけに、行動が犬っぽくて妙に思われる噺。
志ん坊さん、動きやリアクションがちょっとかたい気がしたけれど、
お噺は他愛無く笑えた。
昔は白い犬は人間に近いと思われてたんですね。
人間になった元犬が、色が白くて綺麗な若い衆というのがなんだか微笑ましい。
「犬の目」なんかもそうだけれど、犬ってほんとにひとの暮らしに入り込んで
可愛がられてたんだなあと感じます。
裸でいるのを、悪い奴に騙されて身ぐるみはがされた田舎者だと早合点し、
帯も羽織の紐も結べないのを不思議がりながらも、
「お前さんは変ってるね。いいよあたしがやってあげる」と
回りで世話をやいてくれるのがなんとも大らかで良いなあ。
今の世なら不審者扱いで、即刻突き出されそうな気がする。
「たちぎれ線香」
吉弥さんで聞くのは二度目。一昨年11月の浅草見番以来です。
前回ぼろぼろに泣き、今回も泣いた。
最初に聞いた時は、冒頭のあたり、ただの放蕩者の若旦那かと思い、
性根を入れ替えるために蔵に百日幽閉するという荒療治に出た
番頭さんのほうに肩入れしていたのだが、
若旦那が閉じ込められてることも知らず、毎日毎日手紙を書いたあげく、
焦がれ死にしてしまった芸妓小糸の純情に、泣かずにはおれなかった。
蔵から出され、最後に届いた手紙を見せられて、
とるものもとりあえず飛んでいって、女将に位牌を見せられる若旦那も哀れ。
お仏壇、位牌、線香という記号に、否応無く涙腺がゆるんでしまう。
吉弥さんのやる女性はいつも愛嬌があって可愛らしい。
女将さんが若旦那に語る話のなかの小糸の、
子どもみたいな愛らしさ、哀しさ。
一緒にお芝居に行くことをそれはそれは楽しみにして、
前夜から髪を気にし、着物を広げ、帯を選び、そわそわわくわくして
待って、待って、一日待って、待ち焦がれて、
ついにわあわあ泣いてしまうその姿がありありとして、
可哀想で可哀想でたまらない。
朋輩衆も女将さんも、情にあふれてて良かった。
当初の予定ではこの演目が最後だったらしいけれど、
順番を替えていただいて幸いだった。
涙涙で会場をあとにするところだったもの。
「ちりとてちん」
なんでも知ったかぶりをするうえに、何を食べさせてもけなす竹に
ひとあわ吹かせてやろうと、腐った豆腐にわさびやら梅干やら混ぜて
「長崎名物ちりとてちん」という珍味だと言って食べさせる旦さん。
なりゆき上、口にせざるを得なくなる竹のリアクションが
なんとも可笑しい。
昨年10月の独演会時、吉弥さんの演るのも聞いているけれど、
にぎやかなまん我さんの芸風にも良く似合ってて、とても楽しかった。
前半の、呼ばれて何でも喜んで食べる喜ぃさんの嬉しがり方が
良いなあと思う。
海老だのかまぼこだの百合根だのアナゴだの、
茶碗蒸しの具のひとつひとつの描写の美味しそうなこと。
確かにおべんちゃらも入ってるんでしょうけど、
いちいち感激して、美味しい美味しいと言ってくれるのは、
ご馳走のし甲斐があるというもの。
こういうのが気を迎えるというんでしょうね。
「かぜうどん」
寒い夜、売れると思った店でそっけなく断られたり、
酔っ払いにからまれたり、さんざんな屋台のうどん屋が、
賭博で人が集まっている家で、回りに知れぬよう声をひそめた
やりとりの後、十杯もいっぺんに売れたのに気をよくして、
同じように小さな声でうどんを頼んで来た客に、同じような
状況かと早合点して応対するのだが…
これも他愛無いといえば他愛無い噺だけれど、
吉弥さんの力量の確かさで、たっぷり満足できる。
冬の夜道の寒さ、売れるかと期待して袖にされる情けなさ、
息の白さや肩の重みまで感じられるよう。絵が浮ぶのだ。
「時うどん」にしてもそうだけれど、
吉弥さんのうどんのすすりかたは絶品！
ずずずーっという口の動き、そこに本当におつゆがあるみたい。
とっても美味しそうで、思わず食べたくなってしまう。
とんがらしをちょっとふりかけてね。
寒い今の時期にぴったりの演目でした。
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