実家ではずっと朝日新聞を購読していて、
家を出てからもそのならいで、ずっと朝日のまま。
連載小説を読むようになったのは、高校に入ってからだと思う。
記憶に残っているうちで、もっとも古いものは
五木寛之さんの「凍河」（とうが）。
風間完さんの挿絵が素敵で、そのイラストごと覚えている。
これは1975年くらいの掲載かな。もう30年以上前だ。
つらつら思い出してみるに、とても印象に残っているのは、
加賀乙彦さんの『湿原』、宮尾登美子さんの『序の舞』『きのね』など。
もっと近いところでは柳美里さんの『8月の果て』。
去年から今年にかけて朝刊で桐野夏生さんの『メタボラ』、
夕刊で吉田修一さんの『悪人』が同時進行していた時には、
毎日登場人物たちに感情移入して、悩んだりしていた。
あ、こうしてみると結構キツイ、痛みをともなう作品を
覚えているんだなあ。あと、挿絵が非常に印象的なもの。
よくよく思い出すと『花は桜木』とか『ひとがた流し』とか、
わくわくしたり、しんみりしたりしながら読んだものもあったのに。
いま夕刊で連載中の荻原浩さん『愛しの座敷わらし』は、読んでいるうちに
だんだん楽しくなってきたところだったけれど、あと2回でおしまい。
来週からの連載のお知らせが先日載った時、
小さい記事ながら思わず叫んでしまった。
挿絵が高野文子さんだ！わーい、嬉しい！！
今日（11月16日）の夕刊には、連載を前にした作家さんとの
対談記事まで載っていた。
作者のほうの長嶋有さんの作品は読んだことがないけれど、
高野さんのイラストが毎日見られるなんて、ぜいたくそのもの。
最初の単行本『絶対安全剃刀』から『黄色い本』まで、
作品はすべて持っている。大ファンなのだ。
一番好きなものは、と言われても困るほど。
『るきさん』も大好きだし、『おともだち』の中に収録されている
『春ノ波止場デ生マレタ鳥ハ』は、大正浪漫そのもので、まさに私好み。
映画のカメラアイのように流麗に切り替わる構図の妙。
『棒がいっぽん』中の『美しい町』の、昭和30年代の映画を思わせるような、
貧しいながらも清く正しくつつましやかな幸せ。
『奥村さんのお茄子』の、不条理で、それでもなつかしい世界の不思議さ。
『黄色い本』に登場する「チボー家の人々」を読む主人公の、
本に対する視線の寄り添い方。
この繊細きわまる、大胆な、考え抜かれた見事な作品を
生み出してきたひとの仕事が、リアルタイムに連続で見られるんだ。
ここのところ単行本の表紙絵などでお目にかかってはいたけれど、
自らの単行本に関しては本当に寡作のかただから、
ファンとしてはありがたくてしょうがない。
ああ、楽しみ。生きてゆく楽しみは多い方が嬉しい。
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