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2007年10月13日02:46

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「陽炎の辻」第十一回<いつの日か>(10月11日)

とうとう最終回。最後に持ってきたのは、第六巻『雨降(あふり)ノ山』
第三章「蛍火相州暮色」第四章「鈴音大山不動」。
今津屋の内儀・お艶さんのたつての願いで、相州伊勢原の
実家帰りと大山詣でに付き添う吉右衛門、磐音、おこんは、
途中で倒れた彼女が不治の病と知り衝撃を受ける。
磐音が登りの最初から最後までお艶を背負ってのお参り、
快癒を祈願しての連日の代参など、原作でも胸打たれたエピソード。
磐音の懐の深さ、お艶の覚悟と儚さ、おこんの想い。
お江戸を離れて緑豊かな田園や山を背景に、
素晴らしい映像ドラマとなった。

これまで今津屋夫婦のむつまじさと、お艶の諦観を丁寧に
描いてきただけに、うつくしいお内儀さんの運命に涙涙。
でも、皆が皆、そのひとのために一所懸命尽くそうとする、
一途な思いは清々しく、涙しながらもこころ温まる。
弱った彼女を負い、斜面を登り続ける磐音の玉のような汗も
なんとうつくしいこと。
妻を気遣い、回りの参詣のひとたちに挨拶し続ける
吉右衛門の健気なこと。

ロケの多い今回の画面は、本当に綺麗だった!
さやかな風に揺れる田んぼの青一色には目を洗われるよう。
トンボだのキスゲだの、はっとするような可憐な色。
街を離れて気分が良くなったというお艶の気持ちも分かる。
「こんなのんびりした旅は初めてです」という磐音もうれしそう。
お艶の伯母の菩提寺で、手を合わせる一同。
鈴の音響く白衣の大山参りも含め、
しみじみと日本的な情緒にあふれている。

それにしても改めて、磐音は台詞の少ない寡黙な役だと実感。
彼の心情はその立ち居振る舞い、表情だけですべて分かる。
ぴーんと緊張して瞠っている瞳だの、にっこりと上がる口角だの、
目を伏せた愁い顔だの、そのことごとくがうつくしい。
だからこそ、たまの台詞は非常に印象的で、心に深く残る。
「人には運命(さだめ)がある。
 その運命を受け止めて生きてゆかねばならないのです」
「人とは哀しいものです。いつか別れなければならない。
 でもだからこそいとおしい。
 いつか別れることになろうとも、心にはその人が残ります」

そう、たくさんの辛い別れを経ながらも、彼は運命を享受し、
精一杯生きている。その言葉の重み。
辛い目にあったことで、このひとはさらにひとの痛みを知る
やさしく深い人になっているのですね。
おこんちゃんじゃなくても、「いいなぁ、坂崎さん…」と言いたくなる。
泣き崩れるおこんを、そおっと手を回して控えめに抱くのにも
胸がきゅんとなった。
お艶に感謝され、手を合わせて拝まれた時、
「それがし、神仏になった覚えはございませんぞ」と
微笑むのも、なんとも言えず良い。

最終回のヒロイン・お艶さんも素晴らしかった。
まさに嫋々たる手弱女(たおやめ)。でも芯はつよい。
死にゆくひとの目に映る世界の神々しさ。
たとえばアザミの花にとまるアゲハチョウだの、
風に揺れる田んぼの青だの、川のせせらぎだの、
天から放射されたひかりだの。
「この世というものは美しいものなのですね。
 すべてが美しくいとおしい」
ここのシーンでは、なんだか『新選組!』最終回で
首を落とされる直前の近藤勇の目に生き生きと映じた
水の流れや蛙や紫陽花の鮮やかさを思い出してしまった。
末期の眼が見つめる世界の気高さ。

殺陣のスピード感には脱帽。真上からの俯瞰も新鮮。
釜崎弥之助との勝負での、ぎりぎりと十字に合わせて
時計のように回っていく刀も面白い動き。
斜面を走り、あっという間にけりをつけて
「終りました」とさっぱりという磐音の首筋に
汗で後れ毛が張り付いているのも色っぽい。

「死んだらどうするつもりだったんですか。
 私はここに置き去りですか!」と叫ぶおこん。
剣の道に生きるひとは、いつも死と隣り合わせ。
見つめる女にとってそれは辛いことだけれど、
それを受け入れなければ、磐音には寄り添えない。
まめをつぶした足をひきずりながら歩き出す彼女に
さりげなく背を差し出す磐音。「遠慮なく」
「坂崎さん、私ね、…」と言いかけて言葉を呑み、
かわりのように彼にしっかりしがみつくおこんの姿は、
その後の展開を予想させ、次への期待を膨らませるものだった。

”磐音の背のぬくもりは陽だまりのそれであった”
羨ましいです、おこんちゃん。波乱万丈ではあろうけれど。
山裾の道をゆく二人の脇に、白百合の花が続くのもうつくしく、
綺麗なラストシーン。

素晴らしいドラマでした。
役者さんたちと製作スタッフすべてに感謝。

さらに各場面に一言感想。
・予告から思っていたけれど、予想以上に俯瞰図が多かった。
 冒頭、今津屋を出発する一同を移すのも上のほうから。
 大山参りの札をかかえる磐音が凛々しい。
 斬り合いを見た後、倒れるお艶も俯瞰だし、
 真上からの殺陣も秀逸。

・磐音におとらず、今回は吉右衛門の動揺するアップも多い。
 唇のふるえが、衝撃の強さを思わせる。
 お艶の手を取って、落涙するところでは、何故か両眼からではなく、
 右目の涙だけ目立ってたように見えましたが。

・お艶、おこんを背負っての磐音の登り、歩きは大変だったことでしょう。
 でも本当に頼もしく、惚れ惚れしてしまう。
 白衣に身を包んで、天狗のように駆けてゆくのも原作イメージ通り。

・ゲスト俳優、釜崎弥之助役の草野康太さん
 http://home.a00.itscom.net/alpha/af_kusano.html 
 久しぶりに見た。映画『二十歳の微熱』や『渚のシンドバット』など、
 橋口亮輔監督作品での彼は好きだった。耕史くんよりひとつ年上でしたか。
 彼もわりと童顔だなあ。

・磐音の回想のなかに出てくる幸吉くんは、磐音の剣の神主持ちの真似してる。
 可愛いこと。

・今回もラストシーンに小さく主題歌が流されたけれど、
 最後のエンディングロールでは、初めて二番が流れた。
 ”実ることもなく 終ることもなく
  あなたへの想いは 永遠に続くでしょう”という歌詞は、
 やはりしみじみと心に染みますね。
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