久々に『The Last 5 Years』(=L5Y)の世界に触れて、
二年前の初演時のパンフレットを引っ張り出して、
今回のものと比べてみたりした。
訳詩は同じ方だから基本的には同じだけれど、
前はそのまま放り出したようだった部分が、
若干こなれているみたい。
たとえば7曲目、キャシーが歌う「A Summer in Ohio(夏のオハイオ)」。
「同じ部屋に元ストリッパーとペットのヘビ ウェイン」
という最後の言葉、英語のWayneをそのまま音読みだったけれど、
今回は「ゲェッ…」と言ってて、うんざりしてるのがよく分かる。
「Still I'm certain I'd prefer to be going slowly batty
Forty miles east of Cincinati」は、
「もうしばらく めちゃくちゃしていたい シンシナティは遠い先」
とほぼ直訳で、いささか意味不明。
今回は「まだしばらくドサ回り続けなきゃ 帰るのは遠い先」と分かりやすい。
歌詞については、また気付くことがあったら書きたい。
前回も、東京近辺の公演だけで、5回ほど観ている。
そのあと地方公演に回ったから、地方在住のL5Y初見の友たちに、
いささか老婆心ながら、この作品の構造や基本設定、
知っておいた方がよいことなどを解説していた。
送信箱に残るそのメールを見ると、今もこれから観るひとには
役立つことじゃないかしら、と我ながら思ったので、
ここに引用してみます。
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老婆心ながら事前に頭に入れてたほうがいいことをいくつか。
男女二人の出会いから別れまでを、
女性：キャサリンは別れから出会いまで時間軸を遡り、
男性：ジェイミーは時間軸通り出会いから別れまで
二人交互に歌っていくという斬新な構成で、全１４曲。
二人の時間軸が重なるのは８曲目の「Next ten minutes」のみ。
ここで二人は結婚するんです。
ジェイミーは大学途中で小説を書いてそれが大ヒットして、
何もかも絶好調なんですね。
対してキャシーは女優をめざしていくつもオーディションを受けたり
小劇団のドサ回りのようなこともしてるのですが、
なかなかうまく行かない。
ジェイミーは「君だってうまくやっていけるよ」と励ますけれど、
天才だから十人並みの才能しかない彼女のいらだちがよく分からない。
彼女も負けず嫌いなところがあって、
家庭におさまって尽くす女になりきれない。
だからジェイミーが執筆に没頭したり編集の女性に頻繁に会うのも
あまり快く思えない。嫉妬もあるんです。
このあたりは民族宗教にかかわらず、ありがちな男女のすれ違い。
結局いらだってばかりいる彼女から心が離れ、
ジェイミーは編集者の女性と出来てしまうのですが…
やはり状況や二人の生活背景はそのままじゃ分かりにくい。
二人が歌うのは一応日本語訳なんだけど飲み込みにくいと思うし、
一部の決めフレーズはやっぱり英語のままだし、
訳詩が載ってるパンフレットは必見です。
（でもこれも全部の歌詞が載ってるわけじゃない）
特に頭に入れておくべきは、ジェイミーはユダヤ系だから
アイルランド系カソリックのキャサリンは「異教徒の娘」だということ。
ジェイミーの一曲目（No.2)「Shiksa goddess」はそれを知らないと
何いってるか分からない。
「何人（なにじん）でもかまわない、君こそが女神」と歌うこの曲では、
君が刺青しててもスキンヘッドでもどこにピアスしててもかまわない、
実は男だろうと、前科があろうと、家族が近親相姦だろうとかまわない
とわざわざ挑発的なこと言って、それほど夢中なんだと強調してるわけ。
ユダヤ系ってすごくコミュニティーの結束が固いから、
異教徒の娘を見初めたジェイミーは故郷の家族親戚から大反対される。
故郷の町は大騒ぎ、墓の中でじいさんが怒る、
でもかまわない、君こそが僕の女神さ と歌ってるんです。
あと、キャサリンはオハイオのことを二度歌ってますが、
これはどちらも女優として小劇団の地方巡業に行ってるんですよね。
いわばドサ回り。苦労が多いみたい。
キャサリンは愛の終わりから歌い始めてるので、
No.3は離婚寸前の破局の頃。
もう絶望してるけど彼が会いにきてくれて微笑むのです。
（すぐ帰っちゃってまた泣くのだけど）
No.7は結婚後すぐの幸せな頃なのでまだ希望に満ちてますね。
No.5の「I'm a part of that」（私はその一部）という曲は、
二人でいてもジェイミーが小説のこと考え出すと
一人で「ジェイミーランド」（彼だけの世界）に行ってしまうと歌うもの。
歌はやさしくてちょっと寂しげで好き。
No.6の「Shumel Song」（シュムールの歌ークリスマスの物語）は
ほんとに一瞬も目が離せません！
エンターティナー山本耕史の芸をとくとご覧あれ。必見！
でもそのあとのNo.8の「Next Ten Minutes」（次の１０分間）の
キャシーとのデュエットもうっとりするし、
苦悩したり思い沈んだりして歌うNo.11「If I didn't believe in you
(もし君を信じなければ）」、
no.13 「Nobody needs to know (誰も知らなくていい）」、
no.14「I could never rescue you(もう君を救えないよ）」
と、破局へと向かう一連の歌にも泣かされます。
とにかく彼の歌も動きも素晴らしい。
あと、時間の流れは見ただけだと断片的で混乱しますけど、
本来の彼らの時間に沿って並べ直してみるとこうなるはず。
これはパンフレットにも出てなくて、
曲名の和訳は私が勝手に付けたものですが、悪しからず。
状況ごとのまとめも私の独断で付けてみました。
J はジェイミーのナンバー、C はキャサリン。
＜恋に落ちた二人＞
2) Shiksa Goddess (異教徒の[ユダヤ人じゃない]女神） Jamie
14) Goodbye until tomorrow (明日までさよなら） Catherine
＜名声と希望ー天才くんと勝気さん＞
4) Moving too fast (めまぐるしい動き） J
12) I can do better than that (私ならもっとうまくやれるわ） C
＜理想と現実＞
6) The Schumeuel song (シュムールの歌ークリスマスのお話） J
10) Climbing uphill（崖をのぼるみたいにーオーディション哀歌） C
*no.10はもともとこのタイトル名だったけれど、
2007年パンフレットでは「Audition Sequence」と変えられている。
＜愛の誓い＞
8) Next ten minutes (次の１０分間ー永遠の愛を誓って） J & C
＜不自由もあるけど幸せ＞
9) A miracle would happen (きっと奇跡が起こるさ） J
7) A summer in Ohio （オハイオの夏） C
＜目に見えぬ亀裂＞
11) If I didn't believe in you (もし君を信じなければ） J
5) I'm a part of that (私はその一部だけなのね） C
＜裏切りと絶望＞
13) Nobody needs to know (誰も知らなくていい） J
3) See I'm smiling (私の微笑を見て） C
＜辛い別れ＞
14) I could never rescue you(もう君を救えないよ） Ｊ
1) I still hurting (私はまだ傷ついてる） Ｃ
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