このあいだの日曜日から火曜日にかけて、妻と二人で金沢旅行をする予定だった。それが出発五日前に妻が声帯炎になってしまってキャンセルすることになってしまった。声が出ないだけでなく、三十八度近く熱が出てしまっては旅行どころではない。
倫敦屋酒場というバーにも寄る予定だった。ここは海老沢泰久さんがエッセイ集『暗黙のルール』で触れているバーである。だからぼくにとっては聖地巡礼の意味がある。
海老沢さんは倫敦屋酒場の居心地のよさについてこう書いている。
「ぼくはすわったとたんにここのカウンターがすっかり気に入ってしまった。すわるとカウンターがちょうど胸の位置になり、だらしなく頬杖をついて飲むにも、酔っぱらってそのまま突っ伏すにも、じつにぴったりの高さだったからだ。おまけに胸を押しつけても痛くならないように、カウンターにはレザーのクッションがはりめぐらしてあった。(中略)
ここではジントニックと山崎の水割りを飲んだ。心地のよいカウンターに体をあずけ、だらしなく頬杖をついて、じつにいい気持で飲んだ」
ぼくもカウンターにすわり、ジントニックと山崎の水割りを飲むつもりだった。
キャンセルは仕方ないとサバサバと割り切っている。それでも、旅行会社とレンタカー屋とおでん屋にキャンセルの連絡をした金曜日の夜、ぼくはモジョでジントニックを飲んだ。
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