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夕暮れ時。
道路に沿った電車のレールとプラットホーム。
プラットホームのベンチに腰かけて、
手にした文庫本に目を落としている小春。
ホーム手前の別のベンチに、
下に置かれた大型のナップザックと
登山靴を履いた足元が見える。
逆方向からやってきた電車が行き過ぎ、
踏切の音が遠ざかったあと、
「遠き山に日は落ちて」のメロディーが聞こえてくる。
「…♪山に、日は落ちて…」
ほとんど無意識にメロディーに乗せて歌い出す小春。
手前のベンチに座っていた青年（青柳信）、
「えっ？」と反応する。
「え？」と振り返る小春。
信「あ、…や、すみません」
小春「はい」
信「…あのー」
小春「はい？」
信「この曲って歌詞あったんですか？
いや、今歌ってらっしゃいましたよね」
小春「歌ってま……。…歌っては…」
信「歌ってましたよ。
声高らかにって感じはなかったんですけど、
わりと朗らかに、歌ってました」
小春（困って）「すみません」（ベンチから立ち去ろうとする）
信「もう一度歌ってもらえませんか」
小春（照れ笑いして）「いやです」
信（臆せず）「小学校の下校の歌ですよね。歌詞、あるんですか？」
小春「…あります」
笑顔でうなずき、歌を促す信。
小春「…♪遠き山に 日は落ちて 星は空を散りばめぬ
（ここから少し急いで、あまりメロディーに乗せずに）
今日の わざを なしおえて こころかろくやすらえば
風はすずし この夕べ いざやたのしき まどいせん」
二人が待っていた電車がやってくる。
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回想のかたちで描写される、小春と信の出会いの場面。
ちょっと意表をつかれる、なんとも微笑ましい出会い。
でもこれを我が子に語って聞かせている時、
最愛の信はもうこの世にはいない。
この場面が撮られているのは、
都電荒川線の「学習院下」駅。
以前は東京都内を縦横無尽に走っていた都電も、
いまやこの早稲田〜三ノ輪橋の荒川線を残すのみだが、
情緒もあり、絵になるのでしばしばドラマや映画に登場する。
小春と信が待っていたのは、早稲田を起点として、
大塚、三ノ輪橋方面に向かう電車。
このあたりのレールは、明治通りに沿って、
生け垣などで仕切られ、専用の電車道となっている。
歌っているうちにやってくる電車は、
新目白通りを曲がり、明治通りの高戸橋に沿って架けられた
神田川の上の緑色の鉄橋を渡ってこちらに向かってくる。
電車道はゆるやかな傾斜があり、少し下ってきたあと、
鬼子母神駅に向かって、再び坂を上ってゆく。
小春が腰かけていたベンチの後ろ側が明治通り。
画面手前が新宿方面、画面奥が池袋方面。
画面右手のレール脇に見える白っぽい建物はシティテラス目白。
シティテラス目白の裏手には、豊島区立高南小学校があり、
明治通りの左手には千登世橋中学校がある（どちらも息子の母校だ）が、
下校の際にかかる音楽というものは、特にない。
このあたりでは、夕方の子どもの帰宅を促すオルゴール曲は、
実際には「ふるさと」である。
「遠き山に日は落ちて」はドラマのテーマに関わる曲として
挿入されているのだろう。
実在の風景を借りながらも、
ドラマの中ではあくまで再構築された架空の街。
だから画面上には地名や駅名を表すものはない。
『Mother』の時も本当に感心したものだが、
そういう部分はフレームに入れず、
あっても綺麗にフォーカスされている。
完璧にイメージの絵なのだ。
ちなみに実際のホームには、小春の座っていたベンチひとつのみ。
信が座っていたベンチは、ドラマの設定上置かれた小道具。
そのベンチの前に置かれた花の鉢植えや、
手すりにからまる緑の蔓なども同様である。
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