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2012年12月02日23:56

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ふがいない僕は空を見た

11月28日、テアトル新宿にて鑑賞。
http://www.fugainaiboku.com/index.html

タナダユキ監督作品は所見。原作も未読。
でもきっと私はこの作品が好きだろうと分かっていた。
はたしてじーんと心を打たれ、しばらく席から立てなかった。
痛ましいけれど確かに生きている人間への愛おしさ。
久々にこういう作品を観た気がする。
橋口亮輔監督の傑作『渚のシンドバッド』(1995)を思い出した。
岩井俊二監督の『リリィ・シュシュのすべて』(2001)も。
ひりひりして、身に染みて、残酷で、瑞々しい。

主婦と高校生がアニメのコスプレをしてセックスする、という設定だけ聞くと、
きわものめいた印象を受けてしまうけれど、それは始まりのきっかけにすぎない。
何故、主婦の里美は17歳の卓巳にコスプレセックスを頼むようになったのか。
高校生の卓巳がどういう環境に育ってきたのか。
分かってくるにつれ、その気持ちに同化し、愛おしくてたまらなくなってくる。

最初は卓巳の視点から始まった描写が、
しばらくして里美側からの視点で繰り返される脚本は巧み。
頼りない旦那、気の強い姑からの子作りの強要、不妊治療、
過去のいじめの中で、唯一心の逃げ場となっていったアニメの世界。
里美がどんな境遇に置かれているかを知って慄然としてしまう。
それはある意味奴隷のような過酷さ。
だからこそ、嫌気がさしていったん去った卓巳が彼女を再び訪れ、
ひかりあふれるリビングで初めて素顔のまま抱き合う場面は、
心にびんびん響いてくる。
甘みと、痛みと、恐ろしいような幸福感。
これはまぎれもなく、純粋な恋だ。

卓巳はごく普通の17歳ではあるけれど、
母子家庭で育ち、自宅で産院をやっている母のもとで、
生まれる命を見て来たせいか、基本的には思いやり深く、
自分の気持ちは抑えがちのように見える。
彼女と抱き合って「好き…好き…」と上ずったように繰り返すいじらしさ。
身体は育っていても、まだまだ少年なのだ。
そんな彼が里美との付き合いのことで、
残酷なバッシングにみまわれるのには胸が痛くなる。
こんなにやさしい子なのに。

里美役の田畑智子さん、卓巳役の永山絢斗くん、ともに素晴らしい!
観終わったあとすぐ原作も読んでみたのだが、
登場人物のニュアンスをちゃんと出しつつ、ずっと清潔で誠実。
田畑さんも30歳を過ぎ、こういう役をやれるようになったんだな、としみじみ。
素顔で卓巳を抱きしめている時の里美は、母が子を抱きしめるように、
母性あふれる顔をしている気がした。
絢斗くんは制服姿にも違和感がなく、17歳らしく初々しく瑞々しい。
かねてより瞳のきれいな子だなと思っていたけれど、
今回の役にはナイーブさがにじみ出ていて、好感を持たずにはいられない。

原作は5編の短編のオムニバスになっていて、それぞれに主役が替わっていく。
脚本も取捨選択しながらそれに沿っている部分もあって、
卓巳の同級生の福田のエピソードも重要な位置を占めているが、
親からは育児放棄の虐待を受け、痴呆症の祖母とともに貧困にあえぐ
この福田を演じた窪田正孝くんが、これまた見事。
その心の傷の痛みが生々しく伝わってくる。
彼と関わる田岡役の三浦貴大さんも良かった。
シングルマザーとして卓巳を育て、助産師として頑張る母親役の
原田美枝子さんの存在感も、作品の根底を支えている。

心に残る台詞がいっぱいあった。

「俺は、本当にとんでもないやつだから、
他のところでは、とんでもなくいいやつでないといけないんだ」

「バカな恋愛したことない奴なんか、この世にいるんすかね」

「生きててよ。あんたも命のひとつなんだから」

「お前、やっかいなもんくっつけて生まれてきたな」

耳から聞く台詞もさりながら、
ところどころ、黒バックに白抜きの字幕で、
登場人物の心のつぶやきが出るのが良い。

”こんな気持ちいいセックスの果てに子どもが出来るとしたら、
それはなんて幸福なことなんだろう”

”僕は意地悪な神様に一度だけ祈った。
どうか今夜、あの人が寒い思いをしていませんように”

”神様どうか、この子を守ってください”

”僕たちは、僕たちの人生を、本当に自分で選んだか”

本を読んでいるように、心に染みてくる。
こういうふうに”画面を読む”体験も久しぶりな気がする。
間違いなくいつまでも心に残る青春映画の傑作!
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