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2012年03月01日02:10

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雪やこんこん(紀伊國屋サザンシアター)

2月20日(初日翌日)18:30〜 観劇。
http://www.komatsuza.co.jp/contents/performance/index.html
このところなんだかんだで、紀伊國屋サザンシアターは一番馴染みかも。

この作品は初見。
公式サイトのあらすじにより、大衆演劇の女座長が一座を引き連れて、
雪深い北関東の芝居小屋にやってくる話とまでは呑みこんでいたけれど、
細かいところは知らないまま、新鮮に観た。
もちろん帰ってから戯曲はみっちり読んであれこれ確認。

いやあ、とにかく楽しかった!
なんといっても高畑さんの女座長が格好いい。
「女団十郎」と言われるほど押し出しの良さ、
気風の良さがぱあっと匂い立つ。まさに「親分」という感じ。
登場時の透かしのある赤い着物コートもすらりと素敵だし、
束髪に結った髪、粋な浴衣もさらしもパッチも似合うこと。
宿のおかみのキムラ緑子さんも素晴らしい。
28歳という年齢設定よりいささかとうが立っているものの、
こちらも元・大衆演劇一座の花形役者だった華もあり、
可愛らしさとともに、世間の波風に鍛えられたしたたかさも感じられる。
脇を固めるひとたちも皆々お見事。

世はストリップ剣劇が人気で、昔ながらの一座は傾いてゆくばかり。
衣装やかつらを金替わりに持って逃げた者も続き、
残った座員にお給金も払えない青息吐息ぶり。
いじましい努力でなんとか糊口をしのいでいるのがいかにも井上劇。
彼らを迎える雪深い田舎町のわびしさ、
戸の開け閉めのたびに吹き込む雪や冷気の演出も半端なく、
見ているこちらまで寒さが身にこたえて震えるような気分になった。
この冬はことに積雪も多いせいもあり、臨場感たっぷり。

何しろ出てくるのは役者と元役者ばかりなので、
台詞はよろず芝居がかっている。
歌舞伎や新派の名台詞やそのパロディがあちこちにちりばめられていて、
芝居好きにはこたえられない。
「雛の節句のあくる晩、春でおぼろで御縁日…」の
『日本橋』のお孝の台詞なんか、一緒になって口ずさんでしまった。
「こう瞼の上下ぴッたり合わせ、思い出しゃあ
絵に描くように見えてたものを…」
の『瞼の母』はあまりに有名だけれど、とにかくはしばしに出てくるのだ。

不細工な女形・金吾の「もう化けちゃいられない、あたしゃ尻尾を出すよ」は、
言わずとしれた弁天小僧の浜松屋の場、
「おい兄ぃ、おらもう、しっぽを 出しちまうぜ」だし、
和子が金吾に言う「ひとつ違いの兄(あに)さんか」というのは、
『壺坂霊験記』の「三つ違いの兄(あに)さんと…」からだろうし、
梅子の「悲しかったのはたった5分」は、
もちろん『野崎村』お光の哀切な「嬉しかったはたった半時」のパロディ。
金吾が意地汚く飯櫃のご飯をあさりながら
「人間なぜ腹がへるのでしょう。私、五杯も六杯も食べたいわ」は、
『不如帰』の浪子の泣かせる名台詞
「ああ人間はなぜ死ぬのでしょう。生きたいわ、千年も万年も生きたいわ!」
から来ているな、とにやにやしてしまう。

どこからどこまでがお芝居で、どちらがどこまで分ってやっているのか、
芝居者ばかりなだけにまさに虚実ないまぜの世界。
井上劇らしいどんでん返しが続くけれど、
初期の『日本人のへそ』や『雨』のような不気味さはなく、
最後はにぎやかな感じで終わるのが嬉しい。
皆で並んで、実際にはない鏡台に向かい、顔に化粧をしていくのは、
ひとり芝居『化粧』でも見せた大胆な見せ場。
いとしきかな、芝居。堪能させていただいた。

舞台に引かれる幕(透けて見える)は楽屋の壁の見立てらしく、
いろんな言葉が書いてあり、
「一に辛抱、に二辛抱、泣いたら負けの旅芝居」などと
劇中梅子がそれを読みあげる場面もある。
幕間にしげしげ眺めてみると、
「咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る」という、
有名な都々逸もあった。
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