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2006年07月25日22:57

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トリスタンとイゾルデ(ク・ナウカ公演)

会場は東京国立博物館庭園の特設舞台。
公演初日の7月24日に観劇。
http://www.kunauka.or.jp/jp/index.htm

ク・ナウカを観るようになってもう10年になる。
その間14本観ている。年に一度以上のペース。
鏡花ものなら出来るだけ見るようにしていた頃、
「天守物語」をこの劇団がやるというので初めて見に行ったのだ。
予備知識は何もなかった。そして強烈な印象を受け、はまった。
湯島聖堂の建物に囲まれた中庭で、
富姫は本物の月をふりあおいでいた。

その手法は独特。人間が演じる人形浄瑠璃と言えるようなスタイル。
ひとつの役を<語る>役者と<動く>役者の二人が演ずる。
語り部は動かずただ朗々と語り、
動きの役者は人形のごとく表情は変えず、激しく身振りをする。
台詞はすべてくっきりと聞こえ、動きは純化されていて、
なにもかも輪郭がはっきりとしてダイナミック。
もともと人形浄瑠璃は大好きだし、歌舞伎の人形ぶりの舞踊も好きだ。
すさまじい感情の発露、目もくらむような悲劇にぴったりとはまる。
ギリシャ悲劇、南北、鏡花の作などには実に効果的だと思う。

何回か室内でも見たが、基本的には夜の野外劇。
今回の「トリスタンとイゾルデ」の初演は青山円形劇場だったけれど、
密閉された空間だと緊迫感でぐったりするほどだった。
今回の方がずっと気持ちよく観られたのは、
やはり背景に浮かび上がる緑と夜気のおかげ。

「一年中でもっとも雨の少ない時期を選びました」という
公演お知らせの文もむなしく、しとしと濡れそぼった舞台。
舞台だけでなく客席ももちろん濡れている。
傘はさせないため皆配られたビニールの雨合羽を着る。
でもこのくらいなんてことない。
細川公爵邸庭園での「桜姫東文章」の時なんて、
最初から最後までどしゃぶりの中を見たもの。

静まり返った橋掛かりをやってくる侍女も王女も足元は足袋。
正面舞台での動きにつれ、じゅくじゅくと水をふくむのが痛ましい。
綺麗な打掛のすそも露が垂りそう。

宮城聰さんの演出は、衣装などをアジアに組み替えているため、
アイルランドの姫であるイゾルデは艶やかな琉球の着物。
嫁がされる先のイングランド王や軍人たちは
明治時代の日本のような軍服、大礼服。
最後死に至るトリスタンの故郷での衣装はアイヌの文様。
それぞれが違う島の生まれであることが明確に分かる。

演者たちの凝縮した熱気のおかげか、知らぬうちに雨はあがり、
かなしいダンスのようにからみあうトリスタンとイゾルデの
半裸の体からもうもうと立ち上る湯気が見えた。
どんな悲劇が待ち受けていようとも、
二人にはお互いしか見えていないのだ。
透明な舞台の下からもあたるライトや
突然切り替わる照明がくっきりと明暗を分ける。
ヒロインの美加理さんはまばたきもせず本物の人形めいて、
巫女のように、天女のように、この世のものではないように
すさまじくうつくしい。
息を呑んでこの儀式を見守るしかない。

舞台がはねて、今まで暗く沈んでいた背景の庭園が
ぱっとライトの光に浮かび上がった。
池のそちこち、くねった茎の先に蓮の花が咲いている。
極楽浄土。死者たちもきっと成仏したことだろう。

<観劇記録・覚書>
1996年10月 『天守物語』
(湯島聖堂・中庭)
 
1997年6月 『熱帯樹』
(目白・旧細川侯爵邸(和敬塾)3階)

1998年5月 『桜姫東文章』
(目白・旧細川侯爵邸(和敬塾)庭園)

1998年10月 『天守物語』
(芝・増上寺本堂前野外特設ステージ)
 
1999年10月 『王女メデイア』
(アサヒ・スクエアA)
 
2000年7月 『オイディプス王』
(東京都庭園美術館 西洋庭園)

2001年10月 『トリスタンとイゾルデ』
(青山円形劇場)
 
2002年3月 『生きてゐる小平次』
(法政大学学生会館大ホール)

2002年11月 『欲望という名の電車』
(ザ・スズナリ)

2003年1月『サロメ』
(東京デザインセンターガレリアホール)

2003年11月 『マハーバーラタ』
(東京国立博物館東洋館地下一階)

2004年10月 『アンティゴネ』
(東京国立博物館本館前・野外特設舞台)

2005年11月 『ク・ナウカで夢幻能な「オセロー」』
(東京国立博物館 日本庭園 特設舞台)

2006年7月『トリスタンとイゾルデ』
(東京国立博物館 日本庭園 特設舞台)



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