mixiユーザー(id:949383)

2010年11月24日00:27

171 view

津嘉山正種さんの舞台(劇団青年座公演『黄昏』を見て)

劇団青年座第200回公演『黄昏』。
11月21日紀伊国屋ホールにて観劇。
http://www.seinenza.com/performance/public/200.html#cast

湖畔の別荘でひと夏を過ごす老夫婦をめぐるこの戯曲は、
ヘンリー・フォンダ、キャサリン・ヘプバーンによる映画でよく知られている。
今回、80歳になるノーマンを演じるのは津嘉山正種さん。
私にとってはいまだ老人のイメージではないのでちょっと驚いたけれど、
公演前日の朝日新聞夕刊に、舞台についての記事が載った。

<病癒え、「黄昏」で本格復帰>
-------------------------------------
精悍な人物を多く演じてきた津嘉山にとって、「老い」を前面に出す役は珍しい。
自身は66歳でノーマンの年齢とも距離がある。
しかし、「映像と違って舞台では、80歳の役を実年齢でやるのはとても無理。
いまくらいでちょうどいい」と語る。そして、
「背中を曲げるような枯れた表現はしない。エネルギーのある老人を演じたい」
と続ける。
…(中略)…
昨年春に脳梗塞で倒れ、いくつかの舞台を降板した。
05年に続き2度目で、「死が頭をよぎった」と振り返る。全快したが、
「舞台で、突然せりふが出て来なくなるのではという恐怖は頭を離れない。
そういう自分のぎりぎりの気持ちもノーマンのせりふに込めています」と言う。
-------------------------------------
(朝日新聞2010年11月19日夕刊5面)

御病気のことは知らなかった。今回の舞台で本格復帰だという。
そう、確かに津嘉山さんは精悍な男のイメージだった。
青年座の公演で『欲望と言う名の電車』のスタンレーも演じられたはず。

初めてその舞台に接したのは、玉三郎さんがライフワークとも言える
『天守物語』の富姫を演じ始められた70年代後半。
この舞台の大詰め近くに天守に踏み込んで来る捕り手たちの一人、
小田原修理を演じられていたのだ。
他の者にむかって、天守の獅子頭のいわれを滔々と語る重要な語り手なのだが、
朗々とよく通る台詞が際立ち、見事だった。

私はその頃、玉三郎さんと鏡花の世界に夢中になっていたから、
『天守物語』の地方公演も追っかけて見ていたが、この役は常に津嘉山さんだった。
その後、朗読劇のかたちで『天守〜』の巡回公演をした時は、
津嘉山さんが富姫と恋に落ちる若き図書之助なども受け持ったのだから、
その力量を玉さんも充分に認めていたのだと思う。
(扮装した三人が並んで腰掛け、御付きの御女中などを南美江さん、
男の役を津嘉山さんが一手に受け持ち、語るスタイル)
ある時など、富姫が台詞を飛ばしそうになった時、それと気付いた津嘉山さんが、
間髪をいれず本来あるべき図書之助の受けの台詞を突っ込んで、
事なきを得たことがあり、私はこころのなかで手を合わせて感謝した。
そんなわけで、ずっと好感を持っている方。

冒頭、階段の手すりをつかんで、ゆっくりと降りてくる姿に胸を突かれたのは、
倒れたあとの復帰舞台だということと重ね合わしてしまったからだけれど、
今回の舞台は記事で語っていらした通り、極端な老け造りではなかった。
お声も相変わらず朗々とよく響いてほっと安心。
でもいろんな細かいところで、老いによって思うようにならなくなったいらだち、
不安などが切々と感じられ、胸に迫ってくる。
ユーモアがちりばめられている分、かえってそういうところが染みるのだ。
ノーマンは頑固な皮肉屋だけれど、繊細でシャイな一面が透けて見える。
なんだかんだ言って、妻エセルと娘チェルシーを心から愛しているのが、
しみじみと伝わってきて良かった。
妻エセルを演じる岩倉高子さんも、本当に明るく可愛らしい奥さんぶりで、
ノーマンはこのひとがいないとやっていけないだろうな、と納得。
この明るいエネルギッシュなテンションを保つのは、大変だろうと思う。

舞台美術はシンプルながら、
背後の大きな窓から差し込む陽射しの移り変わりなど、
こまやかな照明が印象的。
音楽もほとんどなかっただけに、ラストが非常に効果的でぐっと来た。
母親を見送って以来、死はいつやってくるか分らないということを、
否応なしに感じている私としては、惻惻と身に染みる。
同時に、命というものがいとおしく思える、そんな舞台だった。

余韻にひたってロビーでしばらく過ごしていたら、出演者たちも出ていらして、
知り合いのかたたちと気さくに話していて、ちょっとびっくり。
こういうアットホームな雰囲気なんだなあ。
そのうちに津嘉山さんも出ていらしたので、
とても良かったです、と話しかけて握手していただいた。
あたたかな手だった。

回復なさって本当に良かったです。
これからもどうぞ御活躍なさいますように。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2010年11月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    

最近の日記

もっと見る