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2010年04月03日08:40

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新生!『ラスト・ファイヴ・イヤーズ』(シアターコクーン)

http://www.ints.co.jp/last5years/index.htm 
4月1日、19:00〜 シアターコクーン
待ち望んでいた初日観劇。素晴らしかった!

一言で言うならば、人物像や感情が目を瞠るほど深まっていた。
同時に華やかで魅力あふれ、まるで初めて観るように新鮮。
いままでも充分素敵で堪能したと思っていたけれど、
そうか、こう見せてくれるのか!と目からウロコの数々。

ヘドウィグの再々演の時もつくづく感嘆したものだが、
スズカツさん×耕史くんの舞台の進化はとどまることを知らない。
以前のレベルを軽々と越えて圧倒的に迫ってくる。
今まで経験したさまざまな役、
ヘドウィグやドリアンのテイストも加わっている気がするし、
もっと引き出しが増え、もっと深い味わいに熟成している。
大人のスーツの似合いぶりにはうっとり。

そしてお初の村川キャシー、ブラボー!
本当にチャーミングで素敵。
またジェイミーより年下のキャシーだったけれど
(元来キャシーは年上だと思う)、
そんなこと全然問題ない、と今回は思えた。
愛らしくて表情ゆたか。歌も伸びやかで充分上手い。
今までのキャシーに足りなかったものが何だったのか痛感した。
この作品では、二人がそれぞれに一人芝居をしているわけだから、
演技が出来なくちゃ間が持てないのだ。

昨年のヘドウィグの時のアフタートークで、
スズカツさんが言っていたことを思い出す。
「この芝居(『ヘドウィグ〜』)は90分くらいなんですが、
実は音楽は35分くらいで、 あとの1時間くらいは独り芝居をしてるんです。
だから芝居の部分がとても重要で、普通のミュージシャンでは出来ません。
役者としての力があって、歌えて、体が使える人でないと。
それが彼は全部出来る」というくだり。

もちろん、『ラスト・ファイヴ・イヤーズ』の音楽の比重は高いけれど、
「芝居の部分がとても重要」という点では共通している。
相手のナンバーの合間にも、電話を使った芝居が入ったりするし、
舞台のうえでどう動き、どう見せるのか、難易度はとても高い。

これまでの「普通のミュージシャン」である二代のキャシーでは、
どうしても芝居にぎこちない部分があった。
今回の村川キャシーは電話してなんとか役を得ようとするところや、
オーディションの場面などでも、
声のトーン、表情の切り変わりのセンスが抜群。
なんて可愛くってきびきびと小気味の良い、魅力的なキャシーだろう。

<衣装と小道具>
今回、衣装も小道具も増えて、ビジュアルが変わるのも非常に効果的。
冒頭、傷心のキャシーが身を包んでいるのは黒紺の外套。
”♪この服ちょっと派手でしょう 実は衣装なの”という、
破局寸前のオハイオ場面では、鮮やかな紅のワンピース。
素敵な衣装だこと。

夏のオハイオではそのうえに羽織った白いストールが、
蛇に見立てられたり、ライオン使いのムチになったり、自由自在。
恒例となった箒を使ってのダンスでは、赤白チェックのエプロン。
オーディションではプリントレギンスに赤のレッグウォーマー。
髪もおだんごにまとめたり、ポニーテールにしたり。
どんどん若返っているのが分るし、観ているだけで楽しくなる。

ジェイミーもお召替えが多く、魅入られてしまった。
これまでは基本的に白いシャツが定番だったけれど、
今回は赤と黒の大柄のチェックシャツとジーンズ。
否応なく『tick,tick...BOOM!』のジョナサンを思い出す。

聴かせどころの『The Schumuel Song』では、黒のベルベット長衣が登場。
それを羽織って黒の帽子をかぶれば別人。
帽子も銀の十字付きでグレードアップ。
人台を持ってきて、ベルベットを着せかければ、それは”オデッサのお嬢様”。
彼女に見立てて歌うジェイミー=シュムール。
ステッキも初登場で、よりショーアップ化。

そのあと『The Next 10 Minutes』で、白のシャツ、白のベスト、白パンツで
すうっとあらわれた時は、目が吸い寄せられてしまった。
まるで王子さまみたい。いや、これは…花婿?
そうだ、ここは二人の結婚をあらわすシークエンスだった、と思う間もなく、
あらわれたキャシーはなんともキュートな白のミニワンピース。
これは紛れもなく愛らしい花嫁!頭の白い帽子もウエディングヴェールの趣。
二人の結婚のイメージが初めて明確になって嬉しい。

そして作家として成功してゆくジェイミーの黒紺のスーツ姿。
まさしく大人のクールな男の魅力。一分の隙もない。
上着を脱ぎ、打ちしおれて歌う13曲目『Nobody neewds to know』では、
切なさがこみあげてくる。
ポニーテールに幅広パンツではじけるように歌うキャシーと対照的。

ジェイミーは若々しい青年から大人の男への変化が如実にあらわれていたし、
キャシーはどんどん少女がえりしてゆくのが、手に取るように分る。
これがfive yearsという時の重み。
衣装というかたちの大事さを思い知った。
それにつけても初演の着たきり雀スタイルは不憫だったなあ。

<舞台設定・照明・動き>
細かい部分であれこれ変っていた。
今まで誇張していた動きが抑えられた部分もあるし、
逆に大きくなったところもあって、メリハリがついている。
また、照明が非常に繊細に切り変っていて、
二人の心情を細かく伝え、素晴らしい。

・初演、再演は奥が少し高く、手前に向けて勾配がある
いわゆる「八百屋」舞台だったけれど、今回はフラット。
ピアノ、ヴァイオリン、バス、ギターの演奏者たちは、
初演と同じく、舞台下手側に隠れる位置で、姿は見せない。

・背景はこれまで漆喰の壁のようだったが、
今回は全面的にブラインドのような横罫。

・二つの窓の高さが変わった。
どちらも今までより高めで、上手側のほうが下手側より高い。

・今まではキャシーの一曲目『Still Hurting』の最後あたりで、
デイパックを背に、水のペットボトルを手にして、
軽やかに駆けこんでくるのがジェイミーの登場だったけれど、
今回、照明が当たるといきなり板付きで机の所に座っていてびっくり。
その分細かい一人芝居が多い。

・ジェイミーの『Moving too fast』はいつもいっぱい動く。
ヘドウィグの『Wig in a box』の♪tu tu tu tu…を思わせる動きも。

・キャシーの『I'm a part of that』の箒を使ったダンス、
動きのキレもよく、大きくなっていて可愛い。
このあたりまでのジェイミーもそうだけれど、二人とも本当に
”まるでフィギュア・スケーター”みたいにくるくるよく動くこと。
ジェイミーの「スマイル」は、再演時、笑われるのを狙っているみたいに
ニカッと誇張した感じだったけれど、今回くらいのほうが好き。
全体に、以前はちょっと『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の
シーモアめいて、コミカルな動きが強くなっていたと思う。

・『The Next 10 Minutes』は、ひっそりした月影の下イメージだったのが、
ニューヨークの夜景を見せてゴージャス!
最初は二つの窓から見え、そのあと背景に全面展開。
世界は二人のために、という感じで気分が一気に昂揚。

・そこから次の『A Miracle Wourld Happen』に
切り替わるジェイミーの動きも変わった。
キャシーを抱こうとして、すかっと空振りするのをきっかけに歌い出す。
”僕の手書き原稿見る?”のくだり、以前は舞台前面でやっていたやりとりは、
後ろの壁よりでやっていた。

・キャシーの『Audition Sequence』は彼女の大きな見せ場。
今回、正面センターで舞台面端に腰かけ、
足を客席側に垂らして歌うという、今までになかった動き。
(ジェイミーは『Nobody neewds to know』でこれをやる)
”♪そして私の番”で立ち上がる。

・この曲の合間に挿入される、ジェイミーのいる”エリスの事務所”。
以前はガラス窓一面に外の明るい緑だったけれど、
今回は壁に古典的な西洋名画がかかって落ち着いた感じ。

・ジェイミーの『Nobody neewds to know』の歌い始め、
後ろの壁にもたれ、魂が抜けたような表情が印象的。

・最後の一面の薔薇の投影も、カラフルで華やか。

<歌詞の変化>
初演→再演時に、日本語に訳した部分がオリジナル英語に戻され、
だいたいはその再演時の歌詞に添っていたけれど、
再演→再々演でさらに少し変化していた。
気付いたのは三箇所。より効果的になっていると思う。
今度もう一度よく気を付けて聴いてみたい。
いずれ、初演→再演→再々演の歌詞変遷も書くつもり。

・M6『The Schumuel Song』

♪戻せ わしを あの頃に
→戻せ Take me back あの頃に

・M9『A Miracle Would Happen』

♪結婚すりゃ 皆が言うだろ 「世界中の女嘆き悲しむ」と
→絶対言うんだ 皆「お前が結婚したら女たちが嘆き悲しむ」
(*ここ、ちょっと曖昧なので、次回確認して追記予定)

・M10『A Miracle Wourld Happen』

♪あー駄目よ、こんな靴!なんでこんな靴選んだの?
→あー駄目よ、こんな服!なんでこんな服選んだの?

<二人の涙>
とにかく期待した以上の初日。
一曲目のキャシーが涙を流していたのも、
これまでの舞台では見られなかったこと。
彼女の2曲目のナンバー『See I'm smiling』の最後あたりでも、
”♪泣いてるのに〜”でちゃんと泣いている。
感情をぐっとこめてキャシーになりきっているのは、さすが女優さん。
表情が本当に良い。非常に好感を持てた。

でも直前に出た演劇誌『プラスアクト』5月号の対談で、
耕史くんが語っていたように(p.82-83)、
「キャサリンが今まで見たことのない哀しさを表現したら、
僕は嫌な男になれるかもしれない」というところまでは、
まだ至っていない気がする。
やっぱり力量的にはジェイミー>キャサリンだからか、
私にはどうしてもジェイミーが嫌な男には見えない。
『Nobody neewds to know』で舞台前面に腰をかけ、
涙をぽろぽろ流すジェイミーにすっかり心を持っていかれてしまうのだ。

その日の感情の入り方で、ジェイミーの泣き所は変化してくるけれど、
今回、初日の彼はこの曲の”♪二人建てた小さな家 壊れては直したね”
の部分で瞳がうるみ始めた。
このひとの涙には、本当にこころを揺り動かされる。
ドリアンの時も、どんなことをしてきても
その綺麗な涙を見るとすべて許したくなったもの。

でもまだ舞台は始まったばかり。
成長途上の才能あふれる清新なキャシーは、
きっと公演中にぐんぐん成長するだろう。その変化も楽しみ。
次の観劇日が待ち遠しい。
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