六月、水無月というと必ず思い出すうた。
伊藤静雄の「水中花」(昭和12年)です。
今歳 水無月のなど かくは美しき。
軒端を見れば息吹のごとく
萌えいでにける釣しのぶ。
忍ぶべき昔はなくて
何をか吾の嘆きてあらむ。
六月の夜と昼のあはひに
万象の これは自ら光る明るさのとき。
遂ひ逢はざりし人の面影
一茎の葵の花の前に立て。
堪へがたければわれ空に投げうつ水中花。
金魚の影もそこに閃きつ。
すべてのものは吾にむかひて
死ねといふ、
わが水無月のなど かくはうつくしき
この詩にメロディーがつけられた
うつくしい女性合唱曲があります(作曲/森脇憲三)。
高校時代、合唱部に所属していました。
いろんな合唱大会でいろんな歌を聴いた中でも
とりわけ鮮烈に残っている曲。
なんというきれいなことば。そして切なくて。
「遂(つ)ひ逢はざりし人」への抑えられぬ感情のほとばしり。
走り出してかけあがって砕け散ってはらはらとこぼれおちる。
この詩を曲として、音として覚えられたのは幸いでした。
文語調の詩は響きがことに印象的だから。
水無月が始まりました。
梅の実は丸々と実り、紫陽花はほのかに色づき、
葵の花もまっすぐに突っ立って咲き始めました。
涼しげな羊歯の緑、釣りしのぶ。もう夏なんですね。
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