＜第二次ロケ開始＞
「陽炎の辻3」第二次ロケの予定は、熱心な見学仲間の友から教えられた。
当初は9〜11日と聞いていて、9日は月曜休園日で見学不可だし、
そのあとも平日続きなので、行くのは無理かと思われたが、
直前になって、日曜日の8日もあるという知らせ。
ただしメイン撮影は夜で、午後3時頃からそのリハーサルが入っているとのこと。
閉園4時の現在では、1時間見られるかどうかというところだが、
わずかな可能性に掛けて、またしてもワープへ。
駄目で元々という覚悟がなければ、ワープ通いは出来ない。
＜予告編の話題＞
さすがに朝から延々待つのはしんどいので、到着したのはお昼頃。
曇天。予報によれば夜は降るそうだが、なんとか持って欲しい。
早くから来ていた見学仲間二人によれば、やはり午前中は動きなし。
スタッフはずっと外ロケに出かけているらしい。
見学者用の無料休憩所の半分は、まだスタッフ・キャスト食堂として
区切られたままだが、本日は人の姿もなく、しんとしている。
テーブルにいくつかお弁当の箱が積まれているばかりで、
ご飯作りの様子がないのがさみしい。
ともあれ、集まった仲間同士で持参の昼食を採り、
前夜の土曜時代劇の最後に流れた「陽炎3」の予告編の話などで盛り上がる。
由蔵さんがカッコよかったね！とか、
「さ〜か〜ざ〜き〜」と威嚇する竹内力が不気味だから、
そのあとに見る磐音がますます綺麗で、男装の麗人のように見えるとか。
竹内さんの役は暗殺団の総頭である雑賀泰三らしい。
予告には辮髪姿で磐音を襲う唐人も映っていた。
こちらは第18巻に登場する中国の武術家・偉陽明。
今回のシリーズでは、剣術家ではなく、忍術や武術家との対決が多そう。
2月13日の見学時に目にした、磐音がおこんの切れた鼻緒を挿げてやる映像も
いち早く入っていたのが嬉しかった。
話に聞いていた奈緒さんの紫の御高祖頭巾姿も、予想通り綺麗！
早く本編を見たいなあ。
＜撮影準備＞
休憩所のガラス戸越しに、スタッフの車が帰ってくるのが見える。
外ロケが終ったのだろう。大きな車には機材が積まれているようだ。
役者さんの姿は見えなくても、スタッフの動きが出てくると、
さあ始まるんだな、とわくわくする。眠っていた場が目を覚まし出す。
そわそわして、あちこちの様子を偵察。
大店通りには、いろんな暖簾が掛けられている。
太物呉服屋もあれば刀剣目利き、旅籠屋などもあり。
風雨にさらされ、いい感じに色褪せた暖簾は生活感があって良いけれど、
今出したばかりです、といった体の畳み皺のあるものも。
見ていると小道具係さんが、大き目の噴霧器のようなもので、
暖簾に水を噴きつけている。
Kさんによれば、これはシワを取るためらしい。
濡れたまま垂れ下がった布は、自らの重みでぴんと伸びるのだ。
なるほど。シーツや浴衣も、糊付けのあと、絞らないでそのまま干すものね。
路地の通りにも小さな暖簾が掛けられ、小橋の向こうでは囲いが作られ、
店の前に小さな門構えのようなものまで立てられている。
ここはよく鰻の宮戸川の外観に使われるところだけれど、
今度は何になるのかな。
オープンセットのほうにも行ってみたが、こちらにも小笹などが配置されて、
また様相が変わっている。かなりあちこち使って撮るらしい。
撮影は夜でも、組み立ては明るいうちにしなければならないのだろう。
佐々木道場に使われる武家屋敷は、屋根瓦が全部はずされて
木肌がむき出しになっていた。
また路地の小橋付近に戻り、組み立て作業を観察。
カンカンと打ち付ける音を聞きながら、
お太鼓橋近くの柳がうっすら芽吹いているのに目が留まった。
つい先日は冬枯れだったけれど、春は確実に近づいて来ている。
＜竹田先生と横山一敏さん＞
いったん休憩所側に帰ってみると、殺陣師の竹田先生が見えた。
一緒にいるのは役者さんのようだが、大柄でニット帽をかぶっている。
先生は以前スタッフ食堂に使われていた建物の屋根を示し、
そこから飛び降りるアクションをあれこれ指示している様子。
この屋根はそう高くないけれど、
夜の撮影で飛ぶのはよくよく段取りしておかなくては危ないだろうな。
中居半蔵役の鶴見辰吾さんのブログ記事（2月14日）には、
「屋根の上から飛び降りる横山一敏さん」と説明のある
夜撮影の写真が載っているけれど、
http://www.legon.jp/shingo_tsurumi/2009/02/3.html
そのお名前で検索すると、横山さんはスーパー戦隊シリーズや仮面ライダーなどにも
出演多数のアクション系の役者さん。
http://www.japanactionenterprise.com/jae/yokoyama.html
今、目の前にいるのは、まさしく横山さんだった。
帽子で頭を覆っているのは、役のために剃っているからなのだろう。
予告編で見たばかりの、辮髪の武術家だ。
あ！と目ざといKさんが彼の履物に反応した。
それは2月14日に目にした、綺麗な布の縁取りのある毛皮のショートブーツ。
その時は、家基さまの馬上靴かと思っていたのだが、
これは中国の武術家・偉陽明の履物だったらしい。
異国らしさを出すためか。
＜偉陽明＞
磐音はさまざまな敵と戦うが、この唐人との対決は異色。
原作では第18巻『捨雛ノ川』第四章「履（くつ）と剣」で登場する。
『「居眠り磐音 江戸双紙」読本』中の「居眠り磐音 江戸双紙」年表
での解説(p.365)を引用させていただくと、
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1777年(安永6年）2月
磐音、木下一郎太から奇妙な殺しが続いていると相談を受ける。
被害者はいずれも名高き剣術家でありながら体に凄まじい打撃を受けていた。
磐音は犯人が唐手の達人であると推測。
南町奉行所の調べでは、黒幕は肥後新田支藩の次席家老・荒見庄八で、
廻船問屋・島原屋と組んで唐人と抜け荷商いをしているという。
笹塚孫一と磐音らが、手先とおぼしき島原屋の船頭をおびきだすと、
唐人・偉陽明が現れる。
磐音はこれを倒し、船頭も捕縛。荒見は切腹・お家改易、島原屋は取りつぶしのうえ
家財没収に。犯人・偉陽明は唐人抜け荷の親玉の弟で、抜け荷商売の条件が、
偉陽明を江戸へ連れていき、高名な剣術家と勝負させることだったという。
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被害者の傷を見ても、一郎太たちにはどんなふうにやられたか予想もつかないが、
長崎に行ったことのある磐音は、現場に残された履（くつ）のあとから、
先の尖った履を常用する唐人の、唐手による襲撃ではないかと気付くのだ。
まさに履物はキーポイント。
この人物は恨みつらみで襲っているわけではなく、
ただただ江戸を見て、剣術家と勝負がしたいだけだったというあたり、
純粋とも思えて印象に残るのだが、ドラマではどう組み込まれているのだろう。
＜耕史くん登場！＞
小道具係のスタッフが、練習用の刀を抱えてきた。
練習用のものには、区別のために緑のテープが貼られている。
さあ、そろそろ主役登場かな、と期待が高まる中に、
いつもの駐車場側の木戸が開いて、黒い綿入れを持ったひとが現れた。
ああ、今日は寒いからやっぱり綿入れが用意してあるんだな、と思ったら、
そのひとは歩きながら綿入れを広げて、腕を袖に通した。
ん？…ええーっ！耕史くん？！
動転してしまった。素のままの姿で現れるとは予想外！
ワープで登場する時は、いつも磐音の扮装で鬘もきちんとつけているので
意表をつかれ、しばし呆然。
部屋着のようなグレーのスエット上下だが、よく見ると黒の十字架模様が
上着の裾にも、パンツの裾にも入っている。ちょっとゴシック調。
その上に黒の綿入れだけを羽織り、食堂脇から小橋のほうへ。
足元は磐音仕様の黒ブーツ。
本番はまだずっと後だし、リハーサルだけの時は私服なのか、とようやく納得。
＜磐音になる瞬間＞
綿入れではあるけれど、黒の着物を羽織ると一応さまにはなるが、
その上に乗っかってる顔は、まだ全然素の耕史くんのようだった。
移動の車の中でうたた寝でもしていたのか、ほわんと眠そうな感じ。
鬘やメイクがないと、このひとは本当に幼く見えてしまう。
まだ磐音の魂が入っていないのだ。
お世話係のお兄さんもやってきて、スタッフのひとたちと談笑。
綿入れには帯がないので、刀が差せない。
慌てて帯を用意しようとするスタッフを尻目に、耕史くんはひょいっと
そこらに落ちていた縄を腰に巻いて刀を差そうとした。
あらあら、野武士のようですね。
じきに帯は届けられたようだけれど、この、つくろわない飄々とした感じも
彼らしくて良かった。
小橋を渡った向こう側の狭いあたりで、殺陣のリハーサル。
見学者は、小橋のこちら側の、路地の入口付近で見守る。
偉陽明役の横山さんは、ひゅっひゅっと激しく動いて、蹴りのポーズ。
最初はさきほどの段取りのように、
屋根から磐音に向かって飛び降りてきて、このように襲うらしい。
蹴りのアクションでは、毛皮の靴が目立って印象的だ。
磐音は建物側に追い詰められる。
竹田先生が、お手本として磐音の動きをやってみせる。
反撃して、偉の胸元に二度ばかり刀を横打ちし、喉元に突きつけ、
次にさっと首の後ろを打つ。反動を上手く使う、しなやかな動き。
ゆっくり繰り返したり、本番のように早くぱっぱっと通してみたり。
それを見ている耕史くん。まだちょっと幼くて、磐音の顔になっていない。
大きなくしゃみをしたりして、見学者からも笑いが洩れる。
空気は冷えていて、彼の耳が寒さで赤らんでいくのが見える。
本当に透き通るような白い肌だから、よけいに目立つ。
その後、竹田先生について、一緒にその動きをやってみていた。
タンタン、と胸を横打ちし、喉元に突きつけ、後ろに回して首を打つ。
二度ばかり繰り返して、彼は「はい」と言った。得心したということか。
それからもう一度今の動きをやった時には、目を瞠った。
早い！もうすっかり出来ている。持ち替える手のすばやいこと。
気付けばいつの間にか表情は磐音となっていた。スイッチが入ったのだ。
一見、ヘドウィグにおけるトミーのような、短い黒髪の少年の顔だけれど、
役に入る瞬間を目の当たりにした。すごいなあ。
＜武左衛門がらみの芝居＞
最初のリハーサルは、殺陣部分のみだったらしく、
今度は小橋のこちら側から、橋を渡ってくるところから始まった。
いつの間にかもう一人ニット帽の大柄なひとが来ていると思ったら、
これは武左衛門役の宇梶さん。酔っ払っている場面のよう。
磐音は手に提灯を持ち、肩を貸して気遣いながら橋を渡る。
「これで柳次郎も品川家を継いで…」というような台詞が聞こえたので、
第22巻『荒海ノ津』第四章で、家を出た父と兄の替わりに、
柳次郎が品川家を相続することになったあたりのことらしい。
武左衛門はその祝いの宴で酔っ払ってしまったのだと思われる。
嬉しくっていっぱい飲んでしまったのだろう。良いひとだなあ。
橋を渡ったあと、はっと磐音が武左衛門を突き飛ばし、
ころがって「何をする、坂崎さん」と言ったところへ、偉陽明登場。
ここで磐音たちめがけて飛び降り、あのアクションシーンにつながるらしい。
すでに手に入った磐音の動きは鮮やかだったが、今度は竹村の旦那も少しからむ。
助っ人とばかりに、近くに置いてあった壺を「えい！」と投げようとするのだが、
あっという間に反撃されて、「うあー」と倒れこむ。
倒れながら「ばらばらばらばら」などと口で効果音する宇梶さん。楽しい〜♪
偉は建物側に磐音を追い詰めた時、唐手をふるうらしく、
ぱしん！と板を突き破る音がした。
これもちゃんと破れるように工作済みの板だろうが、見事に割れて落ちる。
落ちた破片を耕史磐音が手に取って、しげしげと眺めていた。
磐音が鮮やかに剣を振るったあと、「大丈夫ですか、竹村さん」と
助け起こそうとすると「勝ったか？！」と旦那。
「はい、竹村さんのおかげです」と花を持たせる磐音。
「心の友よ」と、竹村の旦那はあくまで調子が良い。
それにしても、宇梶さんは本当に楽しそうに演じていた。
この方も大柄なので、大男二人にはさまれた磐音が華奢に見えてしまう。
実はたくましいってことは分かってますが（笑）
＜クロス模様のスエット＞
リハーサルはこれで終了。本番撮影は夜。
「夕食は16時です」とスタッフの声。ずいぶん早い食事だけれど、
食べた後は、ずっと撮影なのだろう。ご苦労さまです。
耕史くんは黒綿入れを脱ぎ、グレーのスエット姿に戻って楽屋方面へ。
よく見ると、ゴシッククロスはプリントではなく、アップリケのように
盛り上がっていた。ちょっと皮のようにも見える素材。
上衣はフード付きだが、フード部分にもクロス模様がある。
なんとなく、ドラキュラなどを連想させる模様だねと皆で言い合った。
この秋公開予定の映画の、彼の役に通じているようなイメージ。
耕史くんの登場は聞いていた予定通り3時頃で、
リハーサル終了は3時40分過ぎくらい。
一時間にも満たなかったけれど、素顔から役に入る瞬間など、
本当に貴重なものが見られて感謝感謝。
じきに園内に流れた閉園のお知らせを聞きながら、
夜の撮影の無事を祈ってワープをあとにした。
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