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2009年01月31日01:37

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冬の絵空

1月22日、世田谷パブリックシアターにて観劇。
http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/fuyunoesora.html

天野屋利兵衛:生瀬勝久
大石内蔵助:橋本じゅん
沢村宗十郎:藤木直人
おかる/老尼:中越典子
浅野内匠頭長矩:中村まこと
吉良上野介:松尾貴史
大野九郎兵衛/清水一学:伊達暁
シロ/犬男:片桐仁

見る前に分かっていたのは、主要キャストの面々と、
演出が鈴木勝秀さんということ、
忠臣蔵を扱っているということのみ。
生瀬さん、じゅんさん、松尾貴史さん、片桐仁さんなんて、
なんだか面白そうじゃないか、と期待して。

吉良上野介とのいさかいで、浅野内匠頭が切腹し、
赤穂の家臣たちが路頭に迷うのが、お定まりの発端。
浅野の殿様の御贔屓にあずかっていた豪商・天野屋は、
彼らが敵討ちのため、吉良を討つことを期待していたが、
家老の大石内蔵助にその気はない。
家臣たちも才覚のあるものは、次々他家への仕官を決めて、
残ったものは落ちこぼればかり。
いらだった天野屋が考え付いたのは、娘のおかると恋仲で、
嫁に欲しいと懇願している人気役者・沢村宗十郎に
ニセ者の「大石内蔵助」として市中で悪者退治をさせ、
ヒーローとして祭り上げて、討入の機運を高めることだった。

狙いはみごと当たって、正義の味方・大石内蔵助は大評判となり、
頼りない赤穂浪士たちまで盛り上がってくるが、
事情を知らないおかるは、ニセの大石に心を奪われてしまう。
おかるへの恋ゆえに演じた虚構の人物に、
おかるの気持ちを奪われてしまう宗十郎の、皮肉な悲劇。
自分ではないニセの自分のイメージに翻弄される、本物の大石の苦悩。
一方、影武者に切腹させて自分はのうのうと生きていた浅野の殿様は、
討入のために一致団結した浪士たちに、ニセ者として斬られてしまう。
「うそ」が「まこと」に。「まこと」が「うそ」に。
所詮はすべて絵空事(えそらごと)。
「冬の絵空」というタイトルがここから来ていることが、
最後に至って腑に落ちる。
上下に天野屋とおかる(尼)、左右に大石と宗十郎が大きく置かれた
ポスター類のデザインが、人物関係をよくあらわしていることも。

こうまとめてみると、虚実皮膜をついた興味深い話のようだけれど、
そこまでの深みは感じられなかった。
図式的な狙いは分かるものの、気持ちが入っていかないのだ。
本物の浅野の殿様が生きていることを知っていて、匿ってもいる浅野屋が、
討入りに固執する動機もよく分からないし、
最初、宗十郎にぞっこんだったはずのおかるが、
ニセ大石に一目惚れするのも、なんだか納得できない。

これが初舞台という藤木直人に言うのは酷かもしれないが、
彼が加わって(というか、一応は主役?)いることで、
この舞台は台無しになっているような気がする。
回りが達者なひとたちだけに、でくの坊ぶりが際立つ。
これが人気役者の役っていうのは、役者に対して失礼である。
見た目が綺麗でかっこいいだけで、舞台は務まるものではない。
妙な言い回しの「おーいしくらのすけ、です」の声だけが印象に残ってもね。

宗十郎に引いてしまったこともあり、何もかも白々しく思えて、
最後までよそごとのように眺めざるを得なかった。
ちゃらんぽらんな殿様も、皆を破滅に巻き込んでゆく天野屋も、
真実を知らずに自滅してしまうおかるも、
のせられて討ち入ってゆく頭の足りない浪士たちも、すべて虚しい。
上の都合で、下の身分のものたちが苦労する姿なら、
本家「仮名手本忠臣蔵」の五段目、六段目のおかる勘平の悲劇で充分だし、
南北の「四谷怪談」だって忠臣蔵の裏の世界。
この舞台にそういう見応えは見出せなかった。

冒頭、雪が舞うこの世とあの世のあわいのような暗い場所で、
半人半獣のようなものたちと、盲目の老尼が対話するのは思わせぶりで、
もっと奥深い世界を想像していたのだけれどなあ。
最後、雪に変わって満開の桜と花吹雪をばーん、と出されても
冷え切った心はあたたまってくれなかった。
スズカツさんの演出といえども、相性が悪かったというか、
私にはご縁がなかったのですね。
細かいことで言えば、おかるや堀江安兵衛の妻など、
女性の鬘のバランスがしっくりこなくて、どうも気になった。

個々の役者評。
・生瀬さんの天野屋は、とにかく場をさらってしまう。
劇団そとばこまち時代の初演からこの役をやっているというだけあって、
すごい存在感。このひとこそが座長だとよく分かる。
でも天野屋が何故こうした行動に出たのかは、どうにも分からなかった。

・橋本じゅんさんの内蔵助は、辛抱立役。
常に回りを諌め、自らを律し、我慢ばかりで可哀想。
上手いけれど、じゅんさんはもっと違う役で見たかったな。

・陽炎の辻のおこんちゃんこと中越典子さんの舞台演技も気になっていた。
冒頭の尼ではかなり声をつくっていたが、
予想以上に堂々たる存在感で、台詞もよく通るのに感心。
ほとんど唯一の女性役として、立派に立っていたと思う。
帝劇の「細雪」など経験も積んできているし、舞台女優としても期待大。

・中村まことさんの浅野内匠頭は、自分勝手な馬鹿殿ぶりを
ずいぶんと楽しそうにやっていた。面白いけど、はじけすぎててコワイ。

・吉良上野介はダブルキャストだが、松尾貴史さんが見たかったのでその日に。
あからさまに戯画化され、男色家であることを隠さない吉良さまだったけど
(それにしても衝立の巨大な「愛」の文字は「天地人」的に目立つ!)、
軽妙に演じてさすが。可愛らしかった。

・片桐さんのシロは非常に気になる存在だった。もと切支丹で背中に
十字の刺青というのは、やはり天草四郎から来ているのかな。
人間扱いされず犬として遇されていて、台詞もほとんどないのに、
なんだか目が行ってしまう。でも見せ場というものは特にない。
もう少し奥があるような気がしたのに、勿体無いような。
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