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2009年01月15日02:46

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正月時代劇「夢の通い路」(陽炎の辻スペシャル)

演出) 清水一彦
放映) 2009年1月3日 21:00〜22:30

<原作部分と相違点>
メインとなるのは原作第十巻『朝虹ノ島』。
江戸城の石垣の修理で、播州の奥平家(原作では松平家)に普請が命じられ、
元禄以来のつきあいという今津屋が、資金繰りを頼まれる。
ゆえに普請に使う小松石の石切場の様子見に豆州熱海に旅立つこととなり、
磐音、柳次郎、武左衛門たちも警備のため同道。
奉納御神酒に見せかけた酒樽の中身が金だと嗅ぎつけた盗賊の襲撃やら、
私腹をこやす熱海の御普請奉行・原田播磨守の奸計など、
数々の苦難が押し寄せるが、磐音の縦横無尽の働きにより、
無事におさまるというお話。

吉右衛門が磐音にことの次第を説明し、同道を頼むくだりは、
第一章「泉養寺木立」第二章「夜風地引河岸」で短く触れられており、
旅の道中と熱海・初島での活劇は第三章「朝霧根府川路」、
第四章「湯煙豆州熱海」、第五章「初島酒樽勝負」にほぼ沿っている。
盗賊・百面の専右衛門一味の登場場面だとか、馬方にされた武左衛門のぼやき、
柳次郎の奮闘、磐音と庄屋の青石屋千代衛門の出会いなど、ほとんど原作に忠実。

大きく違っているのは、今津屋吉右衛門の亡き妻お艶にうりふたつの美女、
お絹という女をからませていること。この人物はドラマのオリジナル。
原作のほうだと、吉右衛門とお佐紀の見合いすら決まっていない時期。
時期をだいぶずらして、お佐紀との祝言のひとつき前に設定したのは、
吉右衛門の未練、こころの揺らぎを際立たせるためだろうか。
「お艶さん再び」の檀れいさんファンには嬉しかっただろう。
まあ、それゆえの無理や不満も若干あるのは、縷々述べたい。

最初撮影見学で見た時には、なぜ大事な役目の道中に、
おこんまで同道しているのかわけがわからなかったけれど、
熱海が実家だというお絹を一行に加えた吉右衛門を心配して、
由蔵が見張り番としておこんを付けたというなりゆきには、なるほどと納得。
男ばかりの道中がぱっと華やかになって、考えたものだなあと思う。
おこんの衣装は冒頭から最後まで、お得意の琉球絣を
色とりどりのお召し替えで、素敵だった。

<速水との出会い>
冒頭の両国広小路の屋台小屋のにぎわいや、
相変わらずかしましい金兵衛長屋の面々の描写は、お目見え場面というか、
ああ、磐音の世界のひとたちが帰ってきた、と嬉しくなった。
愛らしい幸吉くんやおそめちゃんを連れた磐音とおこんは、
すでに夫婦のようにも見えて良い感じ。このあたりは楽しい気分いっぱい。
穴子の天麩羅、美味しそうだな。
「お大尽にでもなった気分だぜ」という幸吉くんが可愛い。

ちなみにこの場面は、原作第五巻『龍天ノ門』
第五章「両国春風一陣」四の情景を借りている。
原作では子供衆二人を賑わう場所に連れてゆくのは磐音だけで、
場所も両国ではなく浅草奥山だけれど、
「長屋の若様とお姫様」と声をかける、籠抜けの見世物小屋の、
上方者の呼び込み台詞はほぼそのまま。
「なんやなんや、その年でもう嬢(とう)はんの尻に敷かれとるんかいな」
「うるせえ。おいら、おそめちゃんの尻なんかに敷かれてねえや」
という幸吉とのやりとりが微笑ましい。

状況がちょっと違うものの、神道無念流の曽我部俊道らがからんでくるのは、
やはりこの楽しいお出かけの帰り道。
鮮やかに退けた磐音の手並みに、見物から「お見事!」と声がかかるのもそこ。
原作では「勝負の行方、しかと見届けた」と磐音に声をかけるのは、
御側衆の速水左近ではなく、御小姓組・赤井主水だけれど、
結局彼を介して佐々木道場で速水と会うことになるのだから、
間をはぶいたという感じ。

辰巳琢郎さんの速水は、腹の据わり方も知的な雰囲気も申し分なく好印象。
城中がらみの話だと欠かせない重要人物だけれど、
ドラマの第一・第二シリーズともまったく登場しなかっただけに、
ここでお出ましになったからには、今後のシリーズに期待がかかる。

<お絹さん>
騒ぎに巻き込まれて傷を負ったらしいのを案じて声を掛けたおこんが
絶句するほど、亡くなった今津屋のお内儀・お艶に生き写しの女。
生前のお艶を知る誰もが息を呑んでしまう、その面差し。
あらためて見て、やはり檀れいさんは時代劇の似合う美女だなあと感じ入る。
白地に紺一色の浴衣が、こんなに上品に似合う方もそうないだろう。
今津屋で横になっている時の、葉っぱの柄行も良かったけれど、
旅の宿での朝顔もしっとりと素敵。
おこんのほうはデザイン化された蝶々で、若々しさの対比が出ていた。
衣裳は紺と白で統一され、その落ち着いた美貌を際立たせる。

とはいえ、回想場面のお艶とはあきらかに異なるキャラクター。
病いがちで、よろずおっとりとしていた箱入り育ちのお艶に比べ、
お絹は苦渋をなめただけに如才なくふるまうものの、ふと捨て鉢な顔も出る。
慈母観音のように穏やかな表情だったお艶とは違う。
年齢設定は、お絹のほうがちょっと若いだろうか。

子が出来ぬゆえの離縁で実家に帰るとの身の上話に、
おこんにしても吉右衛門にしても、さらにお艶のイメージを重ねてしまう。
しかし見ているこちらとしては、あまりに如才ない武左衛門へのとりなしや、
なにやらわけのありそうな過去がちらちらと垣間見えることに戸惑い、
このひとをどうとらえて良いのか、ちょっと落ち着かない。
「謎の女」といううたい文句なのだから狙い通りなのかもしれないが、
私は「世の中こんなものでしょう」と見切ったようなことをいうお絹に、
いまひとつ同情できなかった。

内心忸怩たる思いを抱えながらも、結局磐音たちを騙し、
最後の最後、悪役に反旗を翻して犠牲になるというのも、あまりに図式的。
亡くなってしまうのに「前を向いて歩いてゆく」と言われてもなあ。
申し訳ないけれど、共感できないと入り込めないのです。
どうして他人の空似とは思えないほどお艶に似ているのか、
また似ていることを、誰がどう知って、
吉右衛門たちに近づくための小細工を考えたのか判然とせず、
そのあたりは必然性のないご都合主義だという気がする。

<夢の通い路>
スペシャル版のタイトルとなっている「夢の通い路」という言葉からは、
「百人一首」中の有名な歌が連想される。

住の江の 岸に寄る波 よるさへや
夢の通ひ路 人めよくらむ
(十八番 藤原敏行朝臣)

住の江の岸に”よる”波 
その”よる”の夢路にさえ
きみは人目を避けて
ぼくと会ってはくれないのか
昼は無論のこと 夜の夢にさえ
きみは訪れてくれないじゃないか

(訳:「田辺聖子の小倉百人一首」<角川文庫>より)

第二シリーズのなかで、お佐紀との見合い前の吉右衛門が、
「あれほど見ていたお艶の夢を見なくなってしまいました」と
苦い口調で言っていたことを思い出す。
夢でしか逢えない恋しいひとに、夢ですら逢えないさみしさは如何ばかり。

お絹と吉右衛門が、まさに海辺の岸に寄る波を眺めながら
しみじみと語っている場面が、このドラマのメインなのだろうか。
「いい夢を見させていただきました」と、思い切るように告げる吉右衛門。
彼方の初島を見ながら、島に伝わる悲恋の物語を語るお絹。
「この世では結ばれぬ二人だったのでしょうか」という言葉が、
もどかしいこの場の二人を暗示しているような。

原作では、この伝説は島の娘おはつが磐音に語って印象的なのだが、
お絹の口から語られることで、彼女の悲劇性とヒロインとしてのイメージが際立ち
(ここで流れる曲も、奈緒さんとの回想に多用された哀切な「愛する人、そして死」)、
まさにこのドラマの主役なのだなあと実感する。
そう、これはやはり番外篇なのだ。
お絹と吉右衛門のはかない出逢いと別れの物語。
「夢でございました。はかない夢。
 あなたと逢えたことは、私にとっても夢です」
いまわのきわの彼女の言葉が、すべてをあらわしている。

<磐音の見せ場>
静と動ということで言えば、磐音は静のひと。
いつも控えめで言葉少な。
こんなに自己主張の少ないシリーズ主役も珍しい。
それだけに、お絹が主役となっているこの番外篇では、
なおのこと彼がやや脇に引いているような印象があって、
ファンとしてはいささか物足りない。

もちろん冒頭の曽我部たちとの勝負、百面の専右衛門一味との戦い、
原田の回りの雇われ剣客・江連たちとの乱闘など、
殺陣の見せ場はポイントごとにあって、楽しませてはもらった。
相手の剣と掏り合わせて、しゃきりしゃきりと車輪に回し、
さらには頭上で片手回しするのも、実に鮮やか。
専右衛門一味の里見甚八(殺陣師の竹田先生快演!)が薙刀を振り回すのを、
緩急自在にさばくのも、江連の鎖鎌に立ち向かうのも、
ともかく次々集団を相手にする、テンポの速い複雑な動きがあまりに見事で、
どんなすごいことをしているのか、すぐには理解できないほど。
シャープなスピード感はどんどん増しているような気がする。
原作と違い馬方の扮装はせず、磐音スタイルで押し通したのには安堵した。
本音を言えば、やっぱり格好良いほうが嬉しいですから。

それでも物足りなさが残るのは、心配そうな顔、思案顔はするけれど、
磐音が切ない顔は見せない話だから。
私はやはり、奈緒のことを想う彼の切な顔に、一番惹かれるのだ。
藩騒動の末、辛い十字架を負うことになった磐音の宿命。
それなしでは、なんだか気が抜けてしまう。
第三シリーズがあるとして、どのあたりの話をどう描くのか、非常に気になる。

<柳次郎と武左衛門>
柳次郎くんは、相変わらずことあるごとに磐音の長屋に入りびたりのようで。
なんとも気さくに、どんどん人の輪に入り込む愛嬌がありますね。
余談ながら、今津屋で食事を振舞われながらお艶とお絹のそっくりぶりを
話題にしていた時、「うりふたつ!」と驚く彼の膳の皿に、
まさしく瓜の浅漬けらしきものが、ふた切れ載ってたのには、くすっと笑った。
これは演出の遊び心でしょうか。

撮影見学の時から気に入っていたけれど、二人の馬方姿は愛嬌があって可愛かった。
「武士に馬方をさせるなどあんまりではないか」とぶつぶつ言う旦那に対し、
仕事と割り切って「馬方結構!」という柳ちゃんが好き。
手拭で頬かむりした顔が、無邪気な感じで愛らしいこと。

こっそり盗み飲みしようとする旦那を、「旦那、酒盗人は風流じゃねぇな」
と、伝法な口調でとがめるところも愛らしさが勝る。
しかし最初の頃に比べると、ずいぶんとこなれてきましたね。
原作では片目がつぶれそうなほど痛めつけられるはずだけれど、
そこまでひどい目に合わなくて良かった!

竹村の旦那は、しょうがない感じもよく出ているし、結構強いのが頼もしい。
何しろデカイし、力任せのプロレスじみた戦い方だけれど、頼りになります。
女房お勢津さんとのコンビぶりも絶好調ですね。楽しい楽しい。

<文句と雑感>
・シリーズ中も気になって仕方なかったナレーションの多用は残念。
登場人物の語りではなく、ナレーターが話を進めてばかりだと、
ニュース番組が流れてるような気になってしまう。
石工たちの描写が少なめで解説ばかりになってしまい、
結局は勧善懲悪、めでたしめでたしに向かって駆け足な印象を受けた。
悪徳役人を主人公がやっつけるという、ステロタイプの時代劇ふう。

・登場人物の紹介文字が、びっくりするほど大きかった。
たしかに今までも出ていましたが、今回は大きさが段違い。
画面の三分の一を占めてるんじゃないかと思うほど。
名前が短いひとほど、反比例して大きく表示されるので、
「おこん」の三文字の巨大さにはぎょっとしました。

・百面の専右衛門が、宗匠姿から、どろんと変わってしまうのは、
忍者のイメージなんでしょうか?

・原作だと利発で思慮深いおはつは、まるっきり田舎娘でした。
聡明さを出すためか、原作では地元なまりなくしゃべるのですが、
言葉といい、ふるまいといい、全然イメージが違う。
まあ、彼女はこのドラマではヒロイン役じゃないから、
そういう部分はあえて消そうとしたのでしょうね。

・夜の海と月の場面や、金色に染まる雲など、
差し挟まれる風景は絵のように綺麗で良かった。
三百石船の場面にも、変な合成がなくて一安心。
これでこそ遠くまでロケ撮影した甲斐があったのでは。
シリーズ2の佃島場面が改めて悔やまれる。

・季節感はちょっと微妙。
吉右衛門とお佐紀の祝言は秋のはずで、
熱海への旅はあきらかに夏だと思われるのですが、
道筋に林立する彼岸花は、まぎれもなく9月下旬のお彼岸の頃の花。
あ、旧暦だからズレはあるのか。それにしてもやや曖昧。

<主なゲスト俳優>
・呼び込みの男:増田英彦(ますだ ひでひこ)
http://www.shochikugeino.co.jp/talents/01/post-3.html
「ますだおかだ」として活躍中。
冒頭だけの登場だけれど、とても目立つし儲け役ですね。

・曽我部俊道:辻本一樹(つじもと かずき)
http://news.goo.ne.jp/entertainment/talent/M05-0134.html
殺陣や乗馬が特技というだけに、時代劇への出演多数。
「鞍馬天狗」「水戸黄門」などにも。

・速水右近:辰巳琢郎(たつみ たくろう)
http://www.takusoffice.jp/profile_01.html 
趣味は乗馬、和太鼓、囲碁、俳句などと多彩(かつ和風渋め)なのですね。
大学時代から『劇団そとばこまち』を主宰するなど、学生演劇の立役者。
幅の広さを感じます。

・百面の専右衛門:大門正明(だいもん まさあき)
http://news.goo.ne.jp/entertainment/talent/M93-1849.html
早大劇団や、劇団雲、欅などに所属されていたとか。新劇の歴史ですね。
1974年にエランドール新人賞。
同年受賞に三浦友和や桃井かおりがいるというのに、時代を感じます。

・里見甚八:竹田寿郎(たけだ ひさお)
「陽炎の辻」の殺陣師。第一シリーズから、悪役としても何回かご登場。
日本の演劇・殺陣プロダクションである、
若駒アクションクラブの指導員もなさっています。

・原田播磨守義里:永澤俊矢(ながさわ としや)
http://news.goo.ne.jp/entertainment/talent/M93-2317.html 
イッセイミヤケのモデルなどなさっていた方だけに、なかなかイケメン。
原作の悪役はたいていでっぷり太っているのですが、
ドラマでは結構二枚目が演じます。しかし原田、情けないほど弱い!

・種村兵衛:國本鍾建(くにもと しょうけん)
http://www.office-kitano.co.jp/contents/OFFICE/MENBER/kunimoto/kunimoto.html
http://news.goo.ne.jp/entertainment/talent/M99-0174.html
背も高く迫力のある方だと思ったら、
オフィス北野所属で、北野映画にも出演されてるんですね。
特技はやはり殺陣。原田と違って腕に覚えありの役柄にふさわしい。

・糸川の儀平:白石タダシ
http://talent.yahoo.co.jp/talent/12/m07-0489.html?frtlnt=dir
「クライマーズ・ハイ」「ゆれる」「それでもボクはやってない」など、
映画多数出演。

・日金の欽五郎:武野功雄(たけのいさお)
http://www.shochiku-enta.co.jp/actor/takeno/ 
一世風靡セピアでデビューし、『欽ドン!』の悪い先生役で人気になった方。

・江連(えづれ):河西祐樹(かさい ゆうき)
「新選組!」の28話「そして池田屋へ」に、隊士安藤早太郎役で出演している。
映画「戦国自衛隊」「武士道」などにも。

・青石屋千代右衛門:鹿内孝(しかうち たかし)
http://talent.yahoo.co.jp/talent/M93-1579.html?frtlnt=dir
http://www.shikauchi.com/home.html
ロカビリー歌手の時代までは見ていないのですが、
現在もジャズ歌手として活動されていますね。
役者としては二枚目から悪役までご活躍のベテラン。
原作はもう少し高齢のような気がしましたが、
さりげなくも風格があって良かった。

・おはつ:三津谷葉子(みつや ようこ)
http://www.horiagency.co.jp/web_data/talentfiles/mitsuya_1.html
グラビアアイドルとして有名で、結構グラマラスなかただとか。
でもこの役では、そういうイメージはほとんどありませんでしたね。

・樋口精兵衛:志村東吾(しむら とうご)
http://www.japanactionenterprise.com/jae/shimura.html
趣味が乗馬、ラグビー、水泳、サッカーだとか、体育会系。
時代劇は「八代将軍吉宗(」1995)「鞍馬天狗」(2008)などにも出演。
あ、どこかで見たと思ったら「篤姫」では松平容保公の役でした!
筒井道隆くんが演じた容保さまとあまりに輪郭が違うので、驚いた覚えあり。

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