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2008年04月18日03:31

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ヘドウィグの毛皮

<毛皮は好き?>
You like the pelt? Some bitch stopped me on the way in,
"What poor, unfortunate creature had to die for you to wear that?"
"My Aunt Trudi," I replied.
毛皮は好き?さっきここに来る途中、わけわかんないビッチ(あばずれ)が、
あたしを呼び止めて言うの
「おい、あんたに着られるために殺された、その可哀想で不運な生き物の
名前はなんていうんだい?」
だからあたし答えてやったの「あたしの伯母のトゥルーディよ」

彼女がここで言っている「伯母のトゥルーディ」というのは、
グリム童話の『トルーデおばさん』に出てくる魔女のこと。
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『トルーデおばさん』
昔むかし、両親のとめるのもきかずにトルーデおばさんのところに
行ってしまった娘が、「おばさんの家のはしごで真っ黒な男や、
真っ青な男や真っ赤な男を見た」とおばさんに言うと、
「それは炭を焼く男、狩人、獣を殺す男だ」とおばさんは答える。
「それにこの家の窓からおばさんは見えなくて、
頭が火で燃えているオニが見えたの」と言うと、
「そうかい、お前は魔女の正装を見てしまったんだね。
私はお前が来るのを待っていたんだ。さあ、光っておくれ」と言うと、
おばさんは娘を木の棒に変えてかまどの火にくべてしまい、
「明るいこと、明るいこと」と嬉しそうに笑った。
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あちらではよく知られた童話だから、名前を言うだけで分かるはず。
悪意にみちた問いかけに対し、
「あたしはそんな怖い魔女をやっつけて、毛皮にして着てるんだ」と返す、
ヘドウィグのウィットに富んだ答えが心にくい。

本来「毛皮」といえば「fur」(ファー)という語が普通なのだが、
ここでヘドウィグが使っている「pelt」という語は、毛皮という意味の他に、
戯言としての「人間の皮膚」「生皮」という意味を持っていて、
この冗談にふさわしいまがまがしさが感じられる。
本当にヘドウィグの言葉のセンスは鋭いこと。

あとでこれを脱ぐとき、初演時の最初の頃は
"Get this dead thing off me”という原文通り
「誰かこの死骸を脱がせてちょうだい」と言っていたのが、
福岡公演の時から「あたしの伯母を脱がせてちょうだい」と
言いはじめ、今回の再演では一貫して「伯母」と言っている。 
観客も必ずくすくす笑うし、気に入ってるんでしょうね。

それにしても『Wig in the Box』を歌いながら羽織る
ヘドウィグのこの毛皮のコートはゴージャス!
茶色でふかふかしているこれは、Fox(きつね)か何かかしら。
彼女の素敵なウィッグと大きなつば広の帽子によく似合う。
背中の赤ペンキは、やはり不吉で痛ましいけれど、
堂々と着こなしているヘドウィグはとてもチャーミング。
時々やってくれる、それを翻して素敵な足をぱっと見せつける
ショーアップされたような動きも見事で大好き。

<Ermine(アーミン)>
"Oh baby, something's crossed my mind
and I was thinking you'd look so fine
in a velvet dress with heels and an ermine stole"
(ベイビー、ひとつ考えた お前にばっちり似合うはず
ヴェルヴェットのドレスにハイヒール、
それに白テンの毛皮のストールなんてどうだい?)

『Sugar Daddy』の歌のなかにあるルーサーとハンセルの
掛け合いに出てくるermine(アーミン)は、
白テンと訳されているけれど、あまりなじみのないイタチ科の動物。
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「ERMIN(アーミン)」
ミンク、セーブル同様イタチ科の動物で、季節やその成長過租で
毛色、毛質が著しく変化する毛皮動物の一つ。
冬毛は純白となり、これをホワイト・アーミンと呼び、
褐色をおびる夏毛はサマー・アーミンと呼ばれている。
特にホワイト・アーミンはヨーロッパ史上セーブル、ミンク、マーテン、
リス等と共に古くから王侯・貴族がその身分、地位、権力の象徴として
好んで身につけた毛皮である。
十四世紀イギリスのエドワード三世はアーミンをイギリス王室の毛皮と定め、
それ以来今日に到るまで、王室公式行事には必ずアーミンのガウンが
まとわれる。

「毛皮用語」より(株)岡本商事 http://www.fur.co.jp/
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冬毛が白で、夏毛が褐色、というふうに色変わりするのは、
オコジョ(Mustela erminea)のイメージに近いかもしれない。
いずれにしても、小さな獣だから、身にまとうほどの量の
毛皮を集めるには何匹も使わなければならない、高級毛皮。
王室行事にまとうガウンにも使われるほどのものを、
「お前にばっちり似合うはず」というルーサーは、
この時ハンセルにめろめろに夢中になってるんでしょうね。
「♪アーミン・スト〜〜ル」という呼びかけの甘いこと。

そう言えば、冒頭の登場の際にヘドウィグがまとっているのは、
外側はアメリカ国旗の模様になっている毛皮のケープだった。
ばっと開くと、中はベルリンの壁、『YANKEE GO HOME』の文字。
オリジナルシナリオでは、このケープはdenim(デニム)と明記してあるし、
映画版でも当然そうなっていたけれど、
耕史ヘドウィグの、女王様のように堂々たるうつくしさには、
毛皮がたいそう似合っている。
それこそ「アーミン・ガウン」のように、
王室公式行事にまとっているような貫禄で惚れ惚れ。

(おまけ情報)
Kさんはちょっと前、横浜で「アーミン・ビール」というのを見つけて、
思わず買ってしまったと言っていた。
フランスのブルターニュ産の「Biere Branche Hermine」
(フランス語だから頭にHが入るけれど、同じ意味)という白ビール。
写真を見せてもらったら、黒地に白抜きでアーミンが描かれていて洒落たデザイン。
ルーサーの「♪アーミン・スト〜〜ル」が耳について離れない昨今、
なんだか私もゆかりのものとして飲みたくなってしまった。
通信販売はセットしかないようなので、
今度明治屋さんか紀伊国屋スーパーあたりで探してみよう。 
http://www.le-bretagne.com/shop/sub_j/biere03.html
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