＜抜弁天へ＞
小笠原伯爵邸を出て、目の前の職安通りを左へ。
道のこちら側は河田町、道向かいは若松町。
大江戸線の駅名はその両方を取っている。
河田という地名はその名の通り湿田地帯だったからだとか。
道筋には「団子坂」という坂もあり、
”ころぶと泥だらけになったことから”という名の由来も、
水分の多い土地だったことを思わせる。
若松町の名のほうは、かつてこの地の若松が
江戸城の正月用の門松として献上されていたことに由来するとか。
抜弁天まではまっすぐ（とは言え、軽く下ったり上ったり勾配あり）行って徒歩数分。
この通りと抜弁天通り両方に面した、ちいさな三角州のような場所。
道に面した玉垣の前で、耕史くんはぐっさんを待っていたっけ。
「抜弁天 厳島神社」の幟が風にはためいている。
でもこの境内はびっくりするくらい狭いのだ。
南北の通り抜けなんて3秒くらいしかかからないし、
お社は祭りのお神輿程度の大きさ。
それでも歴史は古く、苦難を切り抜くための弁天社として
江戸時代から信仰され、切絵図にも名の見える神社。
一応二人して手を合わせた。
弁天様は音楽や芸術の神様でもある。
元禄のお犬様の時代、付近は犬御用屋敷となっていたそうだ。
ここは高台となっていて、明治通り方面に向かう職安通りも、
曙橋方面に向かう抜弁天通りも、ここから下ってゆく。
＜まねき通り＞
抜弁天通りを横切って向かい側へ。
ラーメン屋さんや鶏肉屋さんなどお店の並びに専福寺の門。
ここには幕末から明治にかけて活躍した、
血みどろ絵で有名な浮世絵師・月岡芳年の墓がある。
墓地は入っていくと案外広く、奥まったところに立て札。
本名は吉岡。現在の墓は昭和48年に建て直されたもの。
そのすぐ先の横道がまねき通り。
うっかりすると通りすぎそうな細道
（八百屋さんとリビングショップおのだの間）だけれど、
上を見上げると「まねき通り」の表示あり。
耕史くんがぐっさんに指し示していた看板である。
狭い道の右手は専福寺の塀、左手にスーパー丸正。
行き交うひとの顔もはっきり分かるような、いかにも普段着の地元道。
八百屋さんの焼き芋は、紅あずま、紅まさり、安納（あんのう）、
スイートパープル（紫芋）など、四種類もある。味見も出来て良いなあ。
道の右手は新宿六丁目、左手は余丁町。
専福寺の塀が終ると、お店二軒ばかりはさんで法善寺。
ここは寿老人をまつる。
ちなみに福禄寿尊をまつる永福寺は、職安通りの向こう側でごく近くだけれど、
大黒天の経王寺は牛込柳町、恵比寿の鬼王神社は新宿区役所通り、
毘沙門天の善国寺は神楽坂と、新宿七福神の位置はばらけている。
歩き通すのは結構大変。
http://www.the-shinjuku.ne.jp/CONTENTS/HISTORY/TERAJIN/7FUKU/nomal.html
まねき通りはまだこの先、東京医科大学に当たるまで続くが、
ここで法善寺を右手に見て左手の路地に入る。
この細道は抜弁天通りとほぼ平行に下ってゆくが、
右手は富久町、左手は余丁町と、ちょうど区切りの線のよう。
お弁当屋さんだの豆腐屋さんだの銭湯だの、小さなお店が並んでいて私好み。
おや、ここの弁天湯は午後2時半から午前1時まで、長くやってるんだな。
喜久井町の第二弁天湯へは入ったことあるけれど、
今度ここにも入ってみようなどと考えながら道なりに行くと、
ちょっと広めの道に突き当たった角に、見覚えのあるお店。
＜山崎商店＞
番組で紹介されていた「山崎商店」は、
耕史くんの小中学校の通学路沿いのパン・菓子店。
いかにも子ども達が気安く寄っていきそうな、駄菓子屋さんふう。
ヤマザキパンの看板があって、アイスキャンデーなどのボックスがあって、
肉まんなども置いていて。
棚に並んだ袋菓子の手前に、お店のご主人奥さんをはさむようにして
耕史くんとぐっさんが共に写っている記念写真が飾ってある。
なじみの場所だし気心知れたひとたちと一緒のせいか、リラックスしたよい表情。
並んだ色紙にはサインと2007.11.30の日付。
「あの子（耕史くん）はうちの息子のひとつ下なの。
（耕史くんの）お兄ちゃんのほうはうちの姪っ子と同学年で」
とおっしゃっていたお店の奥さんにとって、
彼はスターというより地元の子の一人として、親しい存在なんでしょうね。
付近には木造の一軒家なども見えて、なつかしい雰囲気。
＜松月堂パン工場＞
山崎商店の角を左折し、道なりに進んで今度は右に折れ、
小石川工業高校の門の前を通ると、もう良い匂いがしてくる。
ちなみにこの高校側は富久町だが、工場のほうは市谷台町に入る。
工場は結構敷地が広く、古びた感じで親しみを覚える。
「松月堂パン」という看板の赤い文字が昔風のロゴで可愛らしい。
パンを焼く香ばしい匂いが道にまでいっぱい漂っていて、
ぐっさんがコメントしていたように、
この香りを嗅ぎながら珈琲なんぞ飲みたくなってしまう。
もっともパン工場の換気扇の下で、
道に突っ立ったままコーヒーブレイクという図を想像すると、
映画『ティファニーで朝食を』を思い出してしまった。
ティファニー宝石店のウィンドウをながめながら、
オードリー・ヘップバーン扮するホリーがパンをかじってるシーン。
はたから見ると珍妙だろうな。
もっとも近くに珈琲店もあったけれど。
＜富久小学校＞
「今までの道筋は、番組に沿ってほぼそのまま歩いてるのよ」と説明したら、
「途中ロケバスに乗ったりはしてないのね」とrikopinさん。
もちろん。そんな余地まったくないほど歩いてすぐのひとつながりコースだもの。
番組の順番通りだとこのあとすぐ靖国通りのほうに出て、
あけぼの橋通りに向かうのだが、せっかく彼の母校にも近いので
ほんのちょっと寄り道を。
小石川工業高校側に引き返し、わきの道をのぼってゆく。
上りきって左手に折れると、富久小学校。耕史くんの母校。
都心部の小学校のご多分に漏れず舗装された校庭が、
道より低い位置に広がっている。
東京に来て間もない頃は、土のない校庭にびっくりしたものだけれど、
彼がこの校庭を駆け回っていた頃を想像してみたり。
都心では少子化のために、統廃合される学校が増えている。
彼の通った大久保中学校のほうは、2004年に東戸山中学と統合して
新宿中学校となり、もとの名前は消えてしまった。
場所は西向天神のすぐわきのあたり。
http://www.shinjuku.ed.jp/jh-shinjuku/map.html
＜自證院（じしょういん）＞
富久小の道向かいにあるのが自證院。
寛永17年(1640年)、尾張藩主徳川光友の夫人・自證院を供養するために建されたが、
立派な霊屋も今は無く、その部分は江戸東京たてもの園に移築復元されているとか。
江戸切絵図を見ると敷地は広く、現在の富久小の場所も含め、
このあたり一帯に広がっていたようだ。
当時は堂塔の用材に檜の節目が多いものを用いたことから
「瘤寺(こぶでら)」とも呼ばれたとのこと。
戊辰戦争の際、旧幕軍・彰義隊がわについた輪王寺宮（のちの北白川能久親王）が
上野の寛永寺から落ちのび、一時ここに身を寄せたという史実も思い出す。
昔は桜の名所だったそうだが、今は狭い敷地にも、
その名残を思わせるような大振りの桜の木が見える。
花の季節には綺麗だろう。
小学校の入学シーズンにはこちらを借景にして
記念撮影するご家族も多いのかもしれない。
寺を出ると道は急に下り、もとは小泉八雲が住んでいたあたりだという
成女学園のわきを通り、靖国通りへ出る。
（続く・次は住吉町から荒木町へ）
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