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2011年11月29日01:38

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桜席から幕内を観る(平成中村座十一月大歌舞伎)

11月23日、昼の部観劇。
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/2011/11/post_91-ProgramAndCast.html
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・双蝶々曲輪日記
  角力場
濡髪長五郎       橋之助
山崎屋与五郎/放駒長吉 勘太郎

・お祭り
鳶頭鶴松 勘三郎

・義経千本桜
  渡海屋
  大物浦

渡海屋銀平実は新中納言知盛 仁左衛門
女房お柳実は典侍の局   孝太郎
入江丹蔵 勘太郎
源義経  七之助
武蔵坊弁慶 彌十郎
相模五郎  橋之助
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<隅田川沿いの中村座>
http://nakamuraza.com/
2年前に観た時の中村座仮設小屋は、浅草寺の境内にあって、
こぢんまりして賑やかな小屋の中は楽しかったけれど、
すぐ近くの道路のざわめきやパトカーの音などは筒抜けで、
悪天候の場合は雨や雷の音もストレートに聴こえてくるし、
ああやっぱり仮の小屋だなあと思った覚えがある。

今回は浅草とはいえ、駅からはちょっと距離のある隅田公園内。
隅田川沿いというのが良いし、スカイツリーも近々と見える。
バス通りの向かい側には古刹の待乳山聖天が鎮座しているし、
川の向かい側には浮世絵や歌舞伎にもよく登場する三囲(みめぐり)神社も。
江戸の昔につながり、話題のランドマークも間近で、
良い場所を選んだなあと感心しきり。見る前からわくわくする。
おまけに幕間に舞台の奥を開け放してくれて、
そこから素通しに川とスカイツリーが見えるという趣向。
座席に居ながらにして空が眺められ、本当に気持ちが良かった。

<桜席から見降ろす舞台裏>
今回は初の桜席。
料金の高い順に松、竹、梅、一番下が桜席である。
この席は通常では客を入れないような珍しい位置。
完全に舞台の上に掛っている二階席なのだ。
私が座ったのは左(つまり下手側)一列目の一番花道寄りの端の席。
花道もよく見えるし、舞台上で下手側を向く役者とは目の合いそうな近さ。
それに見降ろす位置だと、後ろの黒子さんの動きが克明に分る。
たとえば床几にどっしりと座る塗髪の尻の下に、
小さなクッションのある黒い台を差し入れて位置を高くしたり、
動きの度に座った裾のあたりをさっと整えて綺麗にしたり。
落とされたものは拾い、ぱっと片付ける。
今まででもそれは知っていたけれど、改めてその働きに感じ入った。

しかし何よりどきっとしたのは、定式幕が閉まっても、
その幕の内側に居るので、幕の内側をずっと見ていられることだった。
ええ?ここで見てていいのかしら、とびっくり。
型通りにキメのポーズだった濡髪長五郎と放駒長吉がほっと力を抜いて、
お互いに頭を下げて挨拶し、片付けに出て来た裏方さんにも挨拶をしている。
下手袖にハケる前に、こちらの二階席に向かっても、ちょっと目礼された。
うわあ、なんてありがたい。
次の場のために、さきほどの芝居で散らかった茶碗の破片を、
裏方さんがてきぱき型付け、丹念に掃除機をかけているのも見える。
通常絶対に見られない部分。興味津々で見守ってしまう。

「お祭り」の準備が着々と進み、扮装成った勘三郎さんが出ていらした。
「よろしく」と周りに挨拶したり、ペットボトルの水を飲んだり。
いよいよ幕あき、となると中央のセリの上に立ち、
錫杖を持った若い衆を押さえるかたちのまま、奈落に沈んでゆく。
幕が開けばそのかたちでセリ上がってくるのだ。
桜席といえどもここまで見られるのは、私が座った舞台左側の一番端のみ。
他の席はこういう時、目の前に黒い幕が下りて来てしまう。
この端の一席だけは隙間があるので(右手はこの位置の席はない)、
本当に稀有な体験をさせていただいた。

最後の演目は『義経千本桜』。
「渡海屋」は板付きの位置から始まるお柳役の孝太郎さんが、
準備体操のように足踏みをしながら待たれているのが見えた。
さらにどきどきしたのは、その次の「大物浦」への場面転換。
本来なら舞台を回すところだろうけど、ここには回り舞台はないから、
いちいち幕を閉めて、大急ぎで場を変えなくてはならない。
船宿の場から、どんどん海辺の景色になってゆく。
奥手の座敷で肌襦袢姿の人が鏡を前に化粧をなおしている、
と思ったら孝太郎さんだった。
世を忍ぶ仮の姿である女房お柳から本来の典侍の局の姿になるため、
眉を落とした女房の顔に、眉を描き足さねばならないのだ。
緋の袴、白衣に内掛けを重ねて下げ髪の鬘、とどんどん支度が出来てゆくわきで、
先の場には幼い娘姿だった子が、烏帽子をつけた安徳帝の姿へと変身中。

やがて幕が開き、平家方の苦戦惨敗の報に悲痛な空気が流れ、
花道をやってくる血まみれの知盛から一瞬も目が離せなかった。
凄惨な血のりさえ、このひとを引き立てる装飾とも見える。
大立ち回りを演じ、最後に錨の綱に引かれて真っ逆さまに落下する知盛が、
後ろの波と同じ色みの黒子(青子)たち数人に受け止められるのも初めて観た。

まだ日の浅い歌舞伎ファンなら、正面から見るのが一番だと思うけれど、
ある程度演目にも通じ、裏方の動きも興味がある私にとっては、
とても見応えのある席で、堪能した。
芝居が多くの裏方に支えられていることに、改めて感動。

<一口役者評>
・橋之助さんの濡髪長五郎は立派立派。
衣装や鬘のせいもあるのだろうが、実に大きく見えた。
横顔はまさに浮世絵の役者のよう。

・勘太郎くんは突っころばしの若旦那・山崎屋与五郎よりも
放駒長吉の稚気あふれるまっすぐな若者ぶりのほうがニンにあってると思う。  
派手派手しい明るい色彩の衣装がよく似合う。

・勘三郎さんの出はわずかな時間だったけれど、
まずお元気そうでほっとした。身についた愛嬌は相変わらず。

・孝太郎さんの女房お柳の、芯のあるたおやかさ。
典侍の局の品位と情緒も素晴らしく、憂いがあって堪能した。

・仁左衛門さんの渡海屋銀平の腹の座った大きさ。
戦い抜いて落ち入る知盛の凄絶さも見事。
この品格と美しさこそ松嶋屋!
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