mixiユーザー(id:949383)

2011年05月27日23:48

29 view

マドンナ・ヴェルデ〜娘のために産むこと〜

http://www.nhk.or.jp/drama/madonna/
NHKのドラマならすべて見ているわけではないけれど、
ウィークリーマガジン『ステラ』でのドラマ紹介を読んだ時から、
これは見なくては、と思っていた。
欠かさず見続け、そして最終回ではやはり泣いた。

続々と映像化が続いている海堂尊氏の原作は未読。
他の映像作品もまったく見ていないので、
その医療ドラマに触れるのはこれがお初。
代理出産という重いテーマを扱いつつも、
このドラマはなんといってもキャストが魅力的だった。
子どもを生めない身体になった娘に乞われ、
55歳にして代理出産を決意するみどり。
『Madonna Verte』というタイトルは”聖母みどり”の意。

演じる松阪慶子さんの、どこか少女を思わせるような
ふんわりやわらかな風情が素晴らしい。
このひとがみごもっていても不思議ではないと思える。
少し丸まっこくなっている手や身体までもいとおしい。

やさしいだけではなく、芯がきちんとしているみどりに比べ、
娘の理恵には、理論が優先するような、人間としての危うさを感じた。
彼女なりの申し開きもあろうが、やはり頭でっかちというか、
つわりに苦しみながらも身体を張って命を生みだそうとするみどりに対し、
あまりに自分勝手な言葉を投げつけることに反発を感じてしまう。

母性とは何か、命とは何か、ということをつきつけられると、
いやおうなく昨年の傑作ドラマ『Mother』を思い出してしまう。
もちろん状況設定はまるで違うけれど、55歳の愛情深い母親と、
自ら生むことなく”お母さん”になろうとした30過ぎの娘という共通項。

『Mother』の時も思ったのだが、
みどりさんやうっかりさんが体現するやさしくなつかしい母親像は、
実際にはもう一回り上の世代の、70代くらいのイメージではないだろうか。
家庭や家族を最優先し、細やかに心を配りつづけるつつましさ。
みどりさんが海外にいる娘婿・伸一郎とのやりとりに、
メールではなく丁寧な字で手紙を綴るのも古風だと思う。

残念ながら現代の50代の母親は、もうかなり自分主体でエゴが強く、
お料理にしろ何にしろ、機械にたよって手抜きも多いし、
我が子に無償の愛を注ぐという感じではないような気が。
でも自分の母親はこんなふうに育ててくれた、という実感はある世代。
だから見ていてぐっと胸にこみあげてきてしまう。
そう、思い浮かべる”お母さん”ってこうなのだ。
やさしく迎え入れ、心のこもった料理をつくってくれるひと。

最終回の前、第5回「聖母の戦い」にはとても好きな場面があった。
娘・理恵の夫であった伸一郎が、学会のために日本を訪れ、
野菜などの買い物袋をいっぱいに抱えてみどりの元を訪れる場面。
「お義母さんの料理が食べたくて」というのも微笑ましく、
いそいそと支度をするみどりの作る料理のうつくしかったこと!
そら豆の緑、トマトの赤、冬瓜の白。包丁のリズムは音楽のよう。

代理出産を公開発表したい理恵のおもわくのため、
押し切られる格好で離婚を受け入れた彼だけれど、
きっとみどりのことは慕わしく思っていたのだろう。
出して貰った浴衣に着替えて、みどりの手元を見ている彼のわくわくした表情。
その視線に同化して、私もうっとりと並んでゆく料理に見惚れた。
神々しいものに触れるように、ひざまずいてそっとみどりのお腹に触れる伸一郎。
「僕は母を知りません」「僕は未熟な人間です」という彼だけれど、
未熟ながらも非人間的ではない人柄を感じて、ちょっとじーんとした。
片桐仁さん、異星人めいた世離れ感とぶきっちょなナイーブさが良かった。

他の登場人物もたいへん素晴らしかった。
みどりに恋心を抱き、思いを伝える丸山慧役の長塚京三さん、
他のひとでは絶対出せないような男の純情ぶり。
最初はちょっとストーカー的じゃないかとはらはらしたけれど、
事態を知ってからの献身ぶりは、長塚さんならではの純情さ。
涙ぐましいほど。
最終話、出産間際のみどりとマリアクリニックの花咲く庭で、
語り合う場面の会話はしみじみと胸に残る。

みどり「私、死ぬのかしら?」
丸山「こわいですか?」
みどり「いいえ、ちっとも。何故でしょう」
丸山「時々思うんです。人は死ぬ前にどんな景色を思い浮かべるのかって。
   出来れば、とても楽しかった一日のことを思い出したい。
   でも思い出すのは、そういう特別な日のことではなくて、
   こんなふうになんてことのない、平凡で穏やかな時間のことだ。
   あなたが今、死を怖いと思わないのは、
   思い出す景色がいっぱいあるからです」

ここの会話からは、是枝監督の『ワンダフルライフ』を連想した。
熟年の二人の言葉にこめられた奥深さ。
いとおしそうにみどりの手をにぎる丸山の思いの深さ。

みどり「ああ、今わかったわ。私たち、死なないのよ。
    ただ見えない姿になるだけで、
    命は誰かがずうっと繋いでってくれるんだわ」

このみどりさんの台詞は、出産後に伸一郎が書き綴る
彼女への手紙にもつながってゆく。

「生命というのはきっと僕たちの身体を借りて、
 綿々と繋がっていくのですね」

最後に、藤村志保さん演じる茉莉亜先生の、
病におかされながらも、背筋のぴんと伸びた凛とした生き方を称賛したい。

「お母さんの資格はただ一つ。育てること。
 私はそう思います」

至言ですね。
話をおさめるために、やや駆け足気味に思えた最終回だったけれど、
茉莉亜先生のこの台詞がぴしっと締めてくれたような気がする。

その他)
・助産婦妙高役の柴田理恵さん、すごくリアルな存在感があって良かった。

・南明奈さん、相田翔子さんの、それぞれの事情をかかえた妊婦さんたち、
 いずれも熱演、好演。三人同時出産の場面は戦場のようだった。

・エンディング曲『命の奇跡』、素晴らしい!
 青い薔薇がゆっくり開いてゆく映像にボーイソプラノの歌が流れると、
 毎回見入ってしまった。

・みどりの暮らす架空の町は、一目みて湘南だと分った。
 明るい陽光がふりそそぐ、海の見える町。
 逗子のあたりは良いなあ。また訪れてみたくなる。

・美術さんの室内のつくり込みも良い感じ。
 丸山の部屋に飾られた種田山頭火の写真は目をひいた。
 ジャズを愛好してるというのも素敵。
 みどりの亡くなった夫の部屋の書棚もなつかしい感じ。
 小学館の「少年少女世界の名作文学」がならんでた。懐かしい!
 これは娘の理恵のためだったのだろうか。
 私もこの同じ全集を読んで育ったので、しみじみした。

・みどりさんが大事にとっていた理恵の幼い日のいろんなもの。
 分る分る。お母さんは子どもの書いたものや成長記録は捨てられないのだ。
 母が亡くなったあと、箪笥のひきだしのなかに、
 私がちいさいころ母に書いた誕生日のお祝いカードだとか全部入っていて、
 思わず落涙したのを思い出してしまった。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2011年05月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    

最近の日記

もっと見る