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2011年03月29日22:43

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敏子さん(『TAROの塔』第3回)

ぐいぐいと迫って来るこのドラマの力強さにすっかり心酔していたから、
二週間遅れの第3回は心待ちにしていた。ようやく逢えて嬉しい。
http://www.nhk.or.jp/dodra/taro/index.html

今回は生涯のパートナーとなった敏子さんが主役。
そのまっすぐなひたむきさに心打たれた。

「燃えたか?君は燃えたのか?」
「燃えたか?自分が燃えたか?」
「はい…」
「うん、正直だ」
のしかかられ、顔にべっとりと塗られる紅い絵の具。
この場面はエロティックだった。
恍惚とした彼女の顔。エクスタシーを感じているに違いない。

彼女は太郎の強烈な自我に感応できるひと。
太郎の言葉を書き留め、まとめて文章化してゆく情熱。
窓辺の机に向かい、原稿用紙の四角い枡に「藝術」だの「生贄」だの
「神聖」などの言葉を書き綴ってゆく姿に目頭が熱くなる。
彼は神。彼女はその思想をつたえるシャーマン。
まさに宿命の結び付きと言えるだろう。

芸術は底知れぬ深淵。逃れ得ぬ地獄。
芸術家の業と果てない孤独感をひしひしと感じる回でもあった。
「俺の中ではいつだって火が燃えてるんだ。
 俺はそれを神聖な火と呼んでる。
 大事なのはその火だ」
「太郎は必死にかの子の聖火を受け継いだんだ。
 どんなに寄り添ったって相手は孤独なままだ」

太郎のために奔走し、尽くしても尽くしても、
いたわりの言葉さえかけてもらえない敏子。
「今ありもしないものに責任をおっ被せて、何が出来るっていうんだ!
 可能性があるなら今だってある。今ないものは将来にもない!」
”才能などない”と一刀両断に否定する太郎の残酷な言葉。
「かの子のことを母と思ったことはない。
 同志だ。子どもの頃からの」
「今の僕があるのは母なる同志かの子のおかげだよ」
どんなにしてもかの子に敵わない口惜しさ、やりきれなさ。
ついに太郎に反駁して爆弾のように言葉を投げつける場面は圧巻だった。

「画壇にこだわる太郎さんが嫌いなの!
 一流にこだわる太郎さんが嫌いなの!
 かの子にこだわる太郎さんが嫌なの!」
「殺せ。だったら絵描きの俺を殺してくれよ」
「いいわ。私が殺してあげます!」
大の字になった太郎の上に馬乗りになる敏子。
最初の二人の関係が、みごとに逆転する瞬間。

「ここから新らしい岡本太郎を作るの。二人で!」
彼女の手にした黒い絵の具は、幻影のかの子の顔にも塗られてゆく。
黒人のように一面黒くなってゆく太郎の顔面。
涙しながら絵具をなすりつける敏子と、
かっと目を見開いたままの太郎は、やがて一転して歓喜に至る。
二人が新しい世界に入ってゆくための儀式のようにも見えた。

それにしても、なんという激しい二人のぶつかり合い。
アルゼンチンタンゴの伴奏のようなバンドネオンの音と相俟って、
ここでの二人には、日本人離れしたヨーロッパの男女のような
丁々発止の戦いを感じた。
あらためて第3回のタイトル「戦友」という言葉を思う。
二人はここからともに闘う同志となったのだろう。

常盤貴子さん入魂の演技は素晴らしかった。
あどけなさ、芯の強さ、正直さ。
最初はかの子に憧れていた文学少女だというのも頷ける雰囲気。
敏子さんの恩師がシェイクスピアやオスカー・ワイルドの翻訳で知られる
福田恆存氏だったというのは初めて知ったが、
演じる嶋田久作さんも時代の感じられる存在感で良かった。
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