物知りのKさんも琉球は知識の範疇外だったようで、
「あごむしられ」の語源を知りたいと言っていたから、
大学図書館の『沖縄古語大辞典』(角川書店、1995)で調べてみた。
『テンペスト』パンフレットの「用語解説」の頁には、
【あごむしられ】王の側室である女性への呼称、とだけ出ている。
私も琉球語は完全に外国語と同じ。なじみがない。
そのせいかこの呼称はなんとなくぶしつけな響きに思えて、気になっていた。
辞典に「あごむしられ」は見当たらなかったけれど、
「あごもしたれ」となっているのがそれかと思われる。
◆「あごもしたれ」
貴人の妻の称。
『混集』に「あこむしたれまへ うちかた共云 右の婦人はむかし如斯
申たる由なり」とある。
また『女官御双紙』に「あこむしられ 御手懸の御事。嬪に相当。云々」
とある。
この例のほうには「あこむしられ」という表記も見えるので、
「あこむしられ」=「あごもしたれ」なのかなと思う。
旧かな遣いだと表記と発音は若干違うし、濁音もつかないから。
そして「したれ(知たれ)」と「しられ(知られ)」は同意らしい。
◆「したれ(しられ)【知たれ(知られ)】」
(1)神や目上の人に申し上げること。「言うこと」の謙譲語。
(2)接尾敬称辞。もとは「申し上げる人」の意であろう。
首里三平等の神女はアンシタリ(あもしたれ)と呼ばれた。
つまり語の区切りとしては「あごむ-しられ」なのだろう。
「しられ」が貴人をあらわす尊称だから「あごむ」の部分が妻なのかな、
と思って、探してみたけれど「あご-かね」【吾子かね】=可愛い子。
という語しか載っていなかった。(「かね」は接尾辞)
ついでに「あもしたれ(あもしられ)」も引いてみた。
◆あも-したれ【阿母したれ】
奥様。百姓の主婦に対する敬称。
首里方言のアンシタレーには、ウドゥン(御殿)に使われている
やや身分のよい百姓の主婦の敬称の意もある。
◆あも-しられ【阿母しられ】
(1)百姓の主婦に対する敬称。
(2)神女の称。聞得大君の下に位置し、琉球王国各地の神女たちを支配した。
首里の三平等にそれぞれ一人づついた。
おお、聞得大君(きこえおおきみ)の下に位置する神女なのか!
とにわかに身近に思えるのは、怪演した生瀬さんの功績ですね。
アンシタリ(あもしたれ)と書かれているからには、
あも=あん とか、したれ=したり のように、
発音にはゆるやかな変化の幅があるように思われる。
あこむしられ=あごもしたれ=アゴンシタリー
くらいの発音の幅はあるのかもしれない。
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