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2011年02月28日10:59

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かの子というひと(ドラマ『TAROの塔』第1回)

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丸い顔である。コンパスで描いたように丸く、月のように白い。
豊かな頬でぷっつりと切りそろえた童形の断髪は漆黒の艶を放ち、
両頬にかぶさっている。富士型にあらわれた額が清らかだ。
どこを見ているともわからない凝視、
現実感を超え、永遠の虚空に向かって見開かれた瞳は、
古代エジプトの女王の、あの無心の気魄のこもった目とも見え、
飛鳥時代の無名の彫師の祈りがこめられた天女像の
縹渺としたまなざしとも見える。
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瀬戸内晴美『かの子撩乱』p.18(講談社文庫,1971)より

岡本かの子に惹かれたのは、
もう30年も前にかの子の評伝であるこの本を読んでから。
http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=1310674
今は瀬戸内寂聴として広く世に知られている晴美氏の、ご出家前の時代の本。
そのあまりにも強烈な、常軌を逸したような強い個性と存在感。
鋭い芸術的センスと稚気あふれるふるまいが活き活きと描かれて圧巻。
そのただならぬ生涯に圧倒され、人間離れしたエネルギーに瞠目し、
そばにいるひとたちは本当に大変だったろうなと思いつつも、
童女のような一途さに憧れを持ったことは否めない。
何度も何度も読み返し、かの子の著作も読んだ。
円熟期の頃の『老妓抄』に収録された『鮨』や『食魔』が好きだ。

ちょっと前からNHKで「藝術は、爆発だ!」のスポットがさかんに流れ出し、
岡本太郎さんを描くドラマ?!と驚いた。
http://www.nhk.or.jp/dodra/taro/index.html
ということはかの子も登場する?
いったいどんなドラマになるんだろうとどきどきしながら待っていた。

ドラマ自体は緊迫感あふれ、映像も凝っており、なかなか面白く観た。
松尾スズキさん演じる岡本太郎は驚くほど雰囲気が似ているし、
実際のアトリエだった記念館での撮影も良い。
http://www.taro-okamoto.or.jp/guide.html
先に美輪明宏さんの『SONGS』で耳にした、
エディット・ピアフの『水に流して』が主題歌なのもインパクト大。

で、注目のかの子役は寺島しのぶさん。
うーん。
上手い女優さんだし、昭和の着物や髪型はとてもお似合いなのだが、
あどけなさがない。
知性が感じられる分賢しらに見え、余計にひどい女に思えてしまう。
まあ実際、執筆中には太郎を邪魔にして柱に縛り付けたりしたのは、
有名なエピソードなのだし、今で言うネグレストそのものなのだが、
闇の中、創作に辛吟しつつろうそくの光に下から照らされた顔は、
般若のようであまりに怖い。
これでは色狂いで非常識なエゴイストにしか見えないのでは。
奇矯さばかりが目に立って、はらはらする。
本物を模した断髪写真も飾ってあったけれど、普通に綺麗すぎる。

『かの子撩乱』に見る彼女は、確かに怪物的だけれど、
同時に、まるごと相手を信じ、自分を全部投げ入れるひたむきさ、
無心の神々しさに思える部分があって、それが救いなのだ。
大きな童女。だからこそ許せる。
昔、樹木希林さんにかの子を演じて貰いたいなと思っていた。
これもまた何十年も前のドラマだけれど『花衣ぬぐやまつわる』で、
中村丁女を演じた希林さんの、昭和初期の女流俳人の風情が、
なんとも良かったし、童女がお似合いだと思ったから。

でもまあ、なにはともあれ、この時代の芸術家を描いたものは、
まさに私の専門分野なので、色々懐かしく、刺激される。
久々に『かの子撩乱』や『老妓抄』も引っ張り出して読んでみた。
(昔の版なので今見ると字が小さい〜)
次回からも集中して観ることにしよう。
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