mixiユーザー(id:949383)

2010年11月26日01:07

378 view

名作語り『夢十夜』(市川段治郎・市川春猿)

11月22日夜、セルリアンタワー能楽堂にて鑑賞。
「名作語りその一」として夏目漱石『夢十夜』の全朗読。
http://www.kabuki-bito.jp/news/2010/10/211_photo.html

段治郎さんも春猿さんも国立劇場歌舞伎俳優研修同期生で、猿之助一門。
玉三郎さんを座長に鏡花ものをなさった時などに何度も見ているし、
鏡花に通じるようなこういう幻想短編にはお似合いだろうなと期待。
能楽堂での語りものというのも興味深く、楽しみに出かけた。
構成・演出は岡本さとる氏。合方三味線は新内剛士氏。

通勤の最寄り駅近くではあるけれど、この会場は初めて。
背の高いセルリアンタワーの地下二階。新しくて綺麗な能楽堂。
本舞台には鬘桶(かづらおけ)が置かれている。
どんなふうに進行するのかわくわくして待っていると、
揚幕が揚げられ、段治郎さんが橋掛りから静々と登場なさった。
白の蚊絣に光沢のある銀鼠の袴。
髪はすっきりと整えられて明治時代の書生さんのよう。
取りだした本を手に、桶にきちんと腰掛けて第一夜から朗読が始まった。

第一夜は好きな話である。
「百年待っていてください」と言って静かに死んでしまう女と、
その言葉通りに墓のそばで待ち続ける男の話。
役者さんの朗読は言葉の輪郭がはっきりしていて、
すうっと耳から入ってきて心地よいなあと聴き入っていると、
すぐにまた揚げ幕が揚げられ、春猿さんが登場なさった。
こちらは黒っぽい、大島紬のように見える着物に、茶の袴。
女形姿ではないこういう格好を拝見するのは初めてだが、
化粧なしでもやはりどこかたおやかに見える。

すぐには本舞台に進まず、橋掛りに立ったまま、女のほうの台詞を言う。
「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。
 そうして天から落ちてくる星の破片(かけ)を
 墓標(はかじるし)に置いて下さい」
なんて綺麗な言葉だろう、とときめく。
やはり朗読というのは言葉がきちんと立っていて良いなあ。
俗っ気たっぷりに改悪してしまったいつぞやの映画なんか足元にも及ばない。

この後、第二夜は春猿さんが腰掛けて語り始め、
段治郎さんが回りこんで相手をする、というように
交互に主体を交代して朗読していった。
人物の台詞の掛け合いだけではなく、二人で地の文も分担して、
わりにさらさらとした感じで進んでゆく。
とはいえ、第三夜の盲で青坊主の子どもを背負って暗夜を行く怖い話では、
「なに昔からさ」とか、「今に重くなるよ」という子どもの言葉が、
春猿さんの絶妙な台詞廻しで、ぞくっと身に応えた。
歌舞伎や新派などで鍛えた役者さんならではのニュアンスが、
この文体にぴったりだと思う。
すっすっと運んでいくようで、その行間に無限のイメージが広がる。
そしてまた、物語に添って、そのイメージを膨らませるかのように、
後ろに控えた三味線が音を刻み、高まってゆく。
古典的なものというより洋楽的な感じもあって、意外だったが効果的。

ちょうど半分の第五夜までが第一幕で、休憩をはさみ第二幕は第六話から。
とりとめのないようで、不思議な夢としてのリアリティが迫ってくる。
最後の第十夜は女に攫われて豚になめられてしまう庄太郎の話。
不気味ではあるけれど、滑稽味も感じられる展開に客席から笑い声も。
これは確かに他の話とはトーンが違って、二人の掛け合いもテンポが良い。
「けれども健さんは庄太郎のパナマの帽子が貰いたいといっていた」
「庄太郎は助かるまい」
「パナマは…」ここで一瞬の間を置いて、
二人声を合わせて「健さんのものだろう」と言い切ったのに、
客席はどっと沸いた。
庄太郎には気の毒だけど、おかしいんだもの。
最後が笑いで締められて気持ちが良かった。

来月の「名作語りその二」は太宰治の『御伽草紙』。
これまた好きな作品。出来ればまた聴いてみたいと思う。

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2010年11月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    

最近の日記

もっと見る