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2010年10月31日13:49

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『武士の家計簿』キネマ旬報読者試写会

10月29日夜、松竹試写室にて鑑賞。
http://www.kinejun.com/event/bushikake.html

キネマ旬報は長年の愛読誌で、雑誌の綴じ込みハガキによる試写会応募も
しょっちゅうしているし、当選して行く機会も多かったけれど、
普通は他の雑誌や新聞等の応募者とも混じる大きなホールでの試写だったから、
35組70名というキネ旬限定の小さな試写室は初めてで、物珍しく楽しかった。
金沢市発行の「北國新聞」の特集号やプレスシートもいただけてたいへん嬉しい。
プレスシートは映画にも出てくる細長い「入り払い帳」の形を模し、
それがそろばん(上が二つ珠、下が五つの古風な黒色)の形の箱に入っている。
凝ったつくりで面白かった。

会場となった松竹試写室は、松竹本社東劇ビルの3階。
東銀座のこの一角は、歌舞伎座とも新橋演舞場とも目と鼻の先だし、
歌舞伎ファンとしてはなじみの場所。
歌舞伎座取り壊し工事の際の囲いがとれて更地が見えているのには感無量。
いよいよ新しい建物が建つんだなあ。

それはさておき、映画はユーモアとペーソスに満ちていて、
たいへん好もしく観た。
http://www.bushikake.jp/

*注)感想は遠慮なく細かいところにも触れていますので、
見るまで詳細を知りたくないかたは、ご覧になったあとでどうぞ。

原作となった『武士の家計簿「加賀藩御算用者』の幕末維新」は未読だけれど、
早くから評判になっていたから、幕末を生きた実在の武士の、
生活ぶりを伝える細かな入り払い帳を基にした話だということは承知している。
人の暮らしは基本的には変わらないものだなとしみじみ思った。

「そろばんバカ」と呼ばれるほど真面目一徹な主人公・猪山直之を堺雅人さん。
これ以上はないと思えるほどの適役!
ひたすらな仕事ぶりで、横流しの不正を見つけてしまい、
それを黙って見過ごせず上司に進言するもいなされて握りつぶされ、
独自に調べてあやうく左遷になるところを、形勢が一転するところなぞ、
その愚直ぶりにはらはらどきどき。
真面目にやればやるほど滑稽味も哀感もにじみ出るのがたまらない。
家計の膨大な赤字を目の当たりにし、
家財道具の売り払いや徹底した倹約に打って出る大英断もこの人物像ならでは。
今も今とて国債発行を繰り返し、借金まみれの財政。
事業仕分けが注目されている現代のような時代にこそ、
直之のようなひとが居て欲しい。

苦労を苦労とも思わぬような恬淡とした風情。
一方で、妻に注ぐ不器用で純情な愛。
跡取り息子に対する、非情とも思えるような厳しいしつけ。
どれをとっても絶品で、堺さんを見ているだけでも飽きない。
扮装を見ていると、どうしても『組!』の山南さんを思い出さざるを得ないので、
終わり近くの伏見鳥羽の戦いのことや、大政奉還のことなどを乗り越え、
違う立ち位置で激動の世に生きる姿を見るのは感慨深かった。

回りを囲む家族たちも好キャスティング。
仲間由紀恵さんのお駒は笑顔が可愛らしくてベストカップル。
お見合い前に河原で会ってお互い好もしく思う場面からずっと、
彼女のイメージは河原撫子(かわらなでしこ)なのですね。
姉さんかぶりした秋草の手拭がよく似合う。
(あの図柄、銀座大野屋さんで売っていそうな感じ)
彼女が差し出した麦湯の筒に、直之が撫子を活けて去っていたことや、
直之に買ってもらった撫子の柄の櫛をずっと大事にしていることなど、
一貫して可憐な風情で良かった。

元々が町方の血筋であるお駒さんは、貧乏暮らしになってからのほうが、
魚が水を得たように活き活きとしているような。
でも全体に、ほとんど老けづくりがなかったので、
息子の嫁と並んでどちらがどちらだか分らない感じなのはちょっと気になった。
直之のほうはちゃんと老けて行ったのに。
(堺さんの老けぶりは、若いころの笠智衆さんの老け役のようで微笑ましい)

父親の信之を中村雅敏さん。母親のお常を松阪慶子さん。
いささかのほほんとして、天然な感じの御両親。
人は良いのだけれど、昔の自慢話を繰り返す父と、少女っぽい母。
家計を直視せず、見て見ぬふりの体面だけで生きて来たのんびりした人たちが、
直之の大号令によって宝物の加賀蒔絵の棗や見事な加賀友禅を
手放さざるを得ないところは、苦笑しながらも身につまされる。
「これだけは…」
「着ておられぬではありませんか」
「着る〜!いつか着る〜!」と着物を抱きしめるお常さんにすっかり感情移入。
これは女の本音ですもの。私には一切売り払うことなど出来そうにない。
最後の最後に着物を受け出し、
瀕死のお常さんにかけてあげるお駒さんには泣かされたけれど、
いまわのきわに戻されてもね、と思ってしまう。
仕方ないこととはいえ、お道具を手放すって辛いことなんですよ。
宝物というのは、”夢”のようなものなのだから。

両親のどちらにも似ていない、と言われる直之は、おばばさまの隔世遺伝か。
算術をこよなく愛する、品格あるおばばさまは草笛光子さん。
老いてなお、というより老いてさらに美しさを増されたような。
しゃきっとした姿勢の良さ。ふるまいの典雅さ。愚痴などこぼさぬ自負心。
ほんものの貴婦人とはこういう方だ。大輪の花のようなオーラ。
本当におうつくしくて見惚れてしまった。素敵素敵。

厳しくしつけられる跡取り息子・直吉(幼年時代)を演ずる大八木凱斗くんは、
登場場面も見せ場も多く、大事な要。
愛らしく、いじらしく、つい身をのりだして見守ってしまう。
可愛い子だなあと思ってプロフィールを調べたら、
10歳にしてすでに多くの時代劇ドラマや舞台に出ている演技派。
『華岡青洲の妻』(2005年NHK金曜時代劇)での雲平の少年時代役でデビュー。
おまけに朝ドラ『ちりとてちん』最終回で、
四草さんが自分の子として引き取る可愛い子は彼だったのか!
今後も楽しみ。

直吉が成人して後の成之を演じる伊藤祐輝くんもきりりとして良かった。
大激動の転換期にさしかかり、若い彼が父に反発する気持ちも分る。
そんな成之を取り立てる長州藩・大村益次郎役を嶋田久作さん。
昔の『花神』の梅之介さんに比べて、ずいぶん長細い益次郎だけど、
懐の深さを感じさせる。

森田監督は昔から、リアルというよりけれん味たっぷりの演出が多い。
今回もお駒が振り返ると直之の姿はすでになく、
ぽん、と筒に撫子が出現しているところや、
「着袴の祝い」の席で、鯛を買う金がないため、絵に描いた鯛を出し、
一同困惑するも、直吉の無邪気な「鯛じゃ、鯛じゃ!」に座が和んで、
皆が鯛の絵を抱えて見せながらスローモーションで廊下を通るところなどに、
持ち味が感じられる。
貧乏暮しや百姓の苦しみを生々しく描くというわけではなく、
おとぎ話めいてほのぼのしている。

北国の落ち着いた美しい文化や、美味しそうな魚料理なども目に楽しい。
金沢は鏡花や犀星の故郷でもあり、
以前訪れた時も見どころ多く興味深かったけれど、
また行ってみたくなった。
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