三浦半島めぐりは2010年9月19日（日）に決行。
出発の時は曇っていたけれど、現地では暑いくらいの晴天。
＜京浜急行の道中＞
三浦半島に行くのは、私にとって結構な旅。
半島の中でも特に下のほうに南下せねばならないので、
できるだけ近くまで行く交通手段となるとやはり京浜急行だ。
http://www.keikyu.co.jp/train/index.shtml
昔は横須賀方面へ行くのに使ったこともあるし、
最近だと羽田空港への足として利用したこともあるが、
日常的ではないので、路線にそれほどなじみはない。
だからこそ知らないところを旅する楽しみがある。
羽田に向かう線や浦賀に向かう線、新逗子に向かう線など、
枝分かれした線が多いので、行き先はよくよく確認せねばならない。
駅から乗るバス路線が一時間に一本程度しかない都合上、
「大乗（おおのり）」バス停、「宮川公園」にそれぞれ一時間程度滞在し、
さらに次に進んで余裕があるくらいのスケジュールを組む必要がある。
逆算して考えた結果、品川からは遅くとも8時台に乗らねばならない。
でもなんだか遠足に行くみたいにわくわくする。
バッグに水筒とお弁当とカメラと史料を詰め込んで、
8時24分品川発特急三崎口行きに乗り込んだ。
沿線は進むにつれて、緑濃く目に楽しい。
南太田の駅から見える可愛い瓦の教会とか、
金沢八景の茅葺屋根の家なども物珍しく、
斜面をかためたコンクリートが、凹凸に沿ってゆがみ、
奇妙なベルギーワッフルみたいに見えるのすら面白い。
追浜（おっぱま）だの汐入（しおいり）だのの駅名も、海を感じさせる名。
線路沿いの勾配のある坂、どこも蛇行している商店街も良い。
京急から見るJR久里浜駅は白い駅舎が風情。
久里浜霊園にそびえる三浦大仏が、海を見降ろして鎮座まします。
車窓からもきらめく海が見える。
線路沿いに咲くクサギの花は、そろそろ青い実を結び始める頃。
都市を遠く離れ、野趣ゆたかな場所に分け入ってきたことを実感。
特急だけれど堀ノ内からは各駅に止まり、目的地ももうじき。
＜海と畑の海35系バス＞
予定通り9時36分に「三浦海岸」駅に到着。
ここ発の海35系バス（剱埼経由三崎東岡行き）まで3分しか間がないのだが、
だいたい予測していた通りそう大きくない駅なので、
改札を走り出ると、すぐ目の前がバス乗り場だった。
意外に乗客が多く、ずらりと行列が出来ている。
観光というよりは、地元のひとたちが主なようだ。
これを逃すともう1時間待たねばならないので当然か。
ちなみに海34系も途中まで同じ路線なのだが、
ちょうど行程半ばの剱埼（つるぎさき）止まりとなっている。
http://www.keikyu-bus.co.jp/line.html
→路線図→神奈川県内�Щ虻蟇超判螢┘螢�
気負う私の思いをよそに、バスはいたってのんびり発車した。
走り始めて早々に、視界いっぱいに海が見えてくる。
あらかじめ路線地図を見ていて分ってはいたけれど、、
ここから「小浜」まではずっと海沿いの道。まさに岬めぐりのバス。
車窓の左手は海、右手は斜面となっているところが多い。
斜面の高いところにひょっと小さな鳥居なども見える。
海は本当に隔てなく、すとんとそこにあるのが嬉しい。
ピーヒョローというとんびの鳴き声がよく聞え、
琴音（ことね）、菊名などときれいな名の停留所が続く。
町名は南下浦町菊名から南下浦町金田と移り、金田というバス停もあり。
今走っている海辺は金田湾なのだ。かもめの多いこと。
鋒（とがり）というバス停近くは、
確かにちょっととんがって突き出した地形のような。
小浜バス停を過ぎて海から離れ、細い坂道を登り出して景色が変わった。
一面の畑、畑、畑。道端のお地蔵さまや石碑。電信柱。
町名は南下浦町松輪となって、バス停は松輪。見晴らしが良い。
次の剱埼辺りは新徳丸、伝五郎丸、成銀丸、瀬戸丸等々、釣り舟の看板だらけ。
今度は再び下って松輪海岸。畑か海か、どちらかなのだ。
次は剣崎小学校。あ、大乗バス停と同じかたちの待合所がある！
うわあ。一人どきどきしてしまう。
小学校は百周年を迎えたらしく、校舎に大きく書いてあった。
バスはまったく急ぐことなく、徐行徐行でひたすらのんびり。
人が全速力で走れば追い抜くことが出来るんじゃないか、などと考えていたら、
江奈のあたりで道を歩いていた長靴おじさんがとことこやってきて、
運転手さんに何やら話しかけたらバスが止まったのでびっくり！
「お、あぶねえぞー。どこ行くだよー」とおじさんに話しかける運転手さん。
おじさんに何か教えてもらったらしく「ありがとうよー」と手を振っていた。
なんてのどかな世界。ここでの時間はゆっくり動いてるんだなあ。
続いて「バスすれ違いのため、しばらくお待ちください」とのアナウンス。
たった今、方言丸出しだった運転手さんが、
すまして公的用語でしゃべっているのがおかしい。
確かにこんな狭い道では、バス一台がやっと。
だいぶ待つのかと思ったけれど、結局1分もたたず発車し、
またゆるゆると進み出した。
もうこののんびりリズムに慣れてしまって、すっかりリラックス。
道はまた上りになり、南下浦町毘沙門に入る。
白のガードレールに囲まれた畑の細い道をバスはどんどん上ってゆく。
葛が生い茂り、その紫の花も盛り。空にはぽっかりと白い雲。
道は狭く、本当にバス一台やっとの下り道で、一瞬はっとしたところがあった。
最終話ラスト、鳥かごを下げて走り続ける継美のスローモーションの走りで、
木陰になって薄暗いような蛇行した道の場面があったけれど、
なんだかその蛇行の角度や木々や垣が似ていたような。
その場所はロケ地ガイドやロケ地案内でも明らかになっていなかったけれど、
気になりつつも、一時間に一本のバスでは降りて確認するわけにもいかない。
毘沙門バス停で降りる女性に、運転手さんが大きな声で話しかける。
「おはようー。今日遅いねー。
さっきのに居なかったからよー。気にしてたんだよ」
会釈する女性。運転手さんにとって地元乗客は顔なじみばかりなんだろうな。
くねくねと上り下りする道。次の大原で初めて風力発電の大きな風車が見えた。
おお、画面でも観たあの風車！いよいよドラマ画面に分け入ってきたのだ。
＜大乗（おおのり）バス停＞
うねうねと畑の中を蛇行しながら、ついにそのバス停が見えて来た。
「おおのりー」というアナウンスに、バスタラップを降りる。
9時39分に三浦海岸駅から乗って、到着したのは定刻通り10時10分。
約30分の道のり。次に同方向のバスが来るのは11時11分。
まる一時間、ここで過ごすことになる。
ここで降車したのは私一人で、バスはすぐに発車した。
とうとう来てしまった。
ここが奈緒と継美の降り立ったところ。
通る人とていないので、一人しみじみ感慨にふけってしまう。
画面上で観た通りの、四角い箱のような待合所。
シンプルなつくりながら、白い壁と、突き出た庇の先の水色が印象的。
ドラマの中では室蘭の設定だったから、
窓のない側の外壁に「ストーブ・コンロ 松波商店」だの、
「室蘭自動車教習所」のような張り紙があって、地方色を出していたけれど、
もちろん実際には何ひとつ貼られていない。
普通道路に出ているはずの、時刻表の書かれたバス停看板は、
何故か待合所の内側に置かれていた。
中を見ると「貼紙厳禁」という表示があり、奈緒さんも腰かけたベンチがある。
作りつけの茶色い木のベンチは、細かなほこりで表面がうっすら白い。
屋根と壁があるとはいえ、畑に囲まれたこの場所は土埃にさらされているのだ。
最初によくぬぐわないと、彼女の黒っぽい衣装が大変なことになっただろう。
埃をざっと掃ってから、私も腰を下ろしてみた。
右手の嵌め殺しの窓から見える電柱や電線とその影。
錆の出た白いガードレール。横一列に並んだ白い雲。
時折農作業の車などは通るが、歩いてくる人は誰もいない。
天井にはぽつんと電球があり、
右手の壁のブレーカースイッチのそばに、「切るな」と書いてあった。
さらに下のほうには「昼スイッチを切ると夜まっくらです」とある。
確かにここで夜まっくらになったら、さぞ心細いだろうな。
外に出て、あらためてあたりを見回してみる。
画面でも印象的だった電柱と電線が、空に不規則な線を描いている。
『Mother』の画面のつくりにはいつも感嘆していたけれど、
電線や電柱が重なり合っている風景も心に残っている。
電信柱ってまっすぐじゃなくて結構傾いているものなんだなあ。
バス停から見えるあたりに、一軒人家らしきものもあったけれど、
本当に360度ぐるりと、視界をさえぎるものがない。
畑、畑、畑。そして彼方に海のきらめき。あれは相模灘。
空と海と緑の一大パノラマ。心が解放されてゆく。
海側に巨大な二基の風力発電風車がにょきっと立っているのが見えた。
あれも画面に映っていたっけ。
風車って緑の自然のなかにいきなり突出しているから、いつもぎょっとする。
『エヴァンゲリオン』を観たあと、一緒に銚子に旅した友人が、
林立する風車を見て「使徒だ！使徒としか思えない！」と口走ったことがあるけど、
確かに異物感がすごいなあと思う。
＜周辺を歩く＞
路線バスが進んで行った方向の、ちょっとこんもりした丘のようなところに、
石の鳥居が見えるので、せっかくだからお参りしてみた。
石段は結構急勾配で、ちいさな神社はひっそりと上段に坐す。
マテバシイの大きな実が、まるで弾丸のようにそちこちに落ちている。
狛犬も古く、かなり年経た神社のよう。
名前がよく分らなかったけれど、あとで地図をみたら八雲神社というらしい。
うっそうとした樹々は防風林のようにみっしりとかたまって密林めいている。
バス路線の少し先のほうには岩殿山という山もあるそうだが、
眺めるとどこもなだらかで、ちょっと緑がかたまった丘くらいにしか見えない。
さすがにそこまで上り下りすると、バスに乗り遅れそうなのでやめておく。
道路側からみると神社のわきには海岸に良く見られるトベラの木も多い。
実は熟すと割れてねばった粘液とともに垂れ下がるが、今はまだ固い。
バス停付近まで戻ってきた時、小高い畑の端にランタナの花が見えた。
この花はいろんな色があって花火みたいにとりどりで可愛い。
結構大きく、いっぱいに花をつけていたので、
その垣の下の通路からあおって撮ったら青空にそびえたつようだろうと思い、
しゃがみこんでカメラ越しに花と空を振り仰いだ。
と、視界を横切ったものがある。
はっ！として立ちあがって見ると、
何かの鳥が隊列をつくって飛んでゆくところだった。
ああ…
この偶然になんだか感動して、シャッターを押すのも忘れ立ち尽くした。
ドラマ最終場面で、奈緒がこのバス停から見た渡り鳥の群れ。
あれはむろん合成だろうが、本当にここで鳥の飛ぶのを見られるとは。
珍しくはないのかもしれないけれど、何の鳥かも分らなかったけれど、
わざわざここまで足を運んで、自分の目でそういう光景を見られたことが、
神様からのご褒美のように思える。来てよかった。
ほどなく大原の方角から、11時台のバスがゆっくりとやってきた。
ドラマのバスは道南バスとなっていて、車体に緑の線が入っていた。
京急バスは水色と赤のラインなので、見た目はだいぶ違うけれど、
もちろんやってくるバスの姿はカメラに収めた。
定刻11時11分、バス到着。一人だけ降りて来た人と入れ替わりに乗り込む。
しげしげと待合所を見ているこの人も、もしかしたらロケ地めぐりなのかな。
ともあれ最初の目的はじゅうぶん果たした。次なるは宮川公園。
（続く）
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