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2010年08月08日22:46

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記録映画『昭和の家事』

『昭和の家事』という記録映画のことは、
昨年6月の朝日新聞の記事で知った。
大田区の「昭和のくらし博物館」館長である小泉和子さんが、
昔は主婦が普通にやっていた家事を出来る人がどんどんいなくなり、
見知っている人も少なくなってしまったことに危機感を抱いて、
昔の家事を知っている人がまだ残っているうちに
何とか分かるようにしておこうという目的で作った記録映画とのこと。
http://www.seikatusi.com/showa/showahome.html
それは貴重な映像だなあ、と気持ちが動いた。

確かに祖母も母も、昔は本当に自分の手で何でもやっていた。
着物は洗い張りをしたし、布団もうちでつくっていた。
お味噌もうちで作っていたのを覚えている。
さすがに日々の煮炊きはプロパンガスのガス台を使うようになっていたけれど、
土間にはまだ竈(かまど)があって、年末はそこでもち米を蒸らし、
家族で石臼と杵の餅つきもやっていた。

田舎だったから、まだ辛うじてそういう暮らしを知ってはいるけれど、
今の私はせいぜい浴衣が縫えるくらいで、それより複雑なものはお手上げ。
布団だって作れない。祖母の時代には着物をほどいてちゃっちゃとやってたのに。
祖母なんか、私の人形のための布団まで作ってくれたものだ。
きちんと綿が入って、四隅に房までついている本式のつくり。
残念ながら私にその技術は伝わっていない。

そういう映画観てみたいなあと関心はもったものの、ついそのままになり、
1年を経て、今年6月にそれがDVD化されたという記事を新たに目にしたので、
その上映会に申し込み、今日初めて観ることが出来た。
上映会場は大田区鵜の木特別出張所の会議室。
博物館はそのすぐそば。
http://www.showanokurashi.com/

主婦の仕事は炊事、洗濯、裁縫、掃除、育児などさまざまで、
それらの家事を具体的に「着物を解く」とか「掻巻をつくる」など、
項目別に記録されているのだが、
本日の上映は夏の季節に合わせて「洗濯をする」「浴衣を縫う」
「お盆を迎える」「強飯をつくる」というラインアップ。
主演の小泉スズさんは、館長のお母様。
転んで骨折してからも、ベッドの上で手作業をし続けたその後の姿は
「それからのスズさん」という短めの映像に記録されていて、最後に流れた。

最初の「洗濯」にまず圧倒される。
たらいに風呂の残り湯を汲み入れるのからして、何往復もして大変。
たらいと洗濯板の上にしゃがみこみ、ひざでぐっとたらいを押しつけるようにして、
洗いものに洗濯石鹸をこすりつけ、すべて手でごしごしと洗ってゆく。
なんどもたぐられ、ひろげられ、ゆすがれ、たたまれてぱしぱしと叩かれる布。
水につけていたご飯を、ふきんを縫ったような袋に入れ、
よく揉み出して、その自家製ののりに布を浸す。
そうだそうだ。こういうふうにやってたなあ。
これで敷布はぱりぱりになり、浴衣なんかのりが効き過ぎて痛いようだった。
丹念な作業に、思わず息を詰めるようにして見入ってしまう。

しぼって、叩いて、干すために洗ったものを持って立ち上がる時、
ああやれやれ、という感じでスズさんがにっと笑うのに、会場からも笑いが起きる。
本当に重労働。ご苦労様です。だけどなんと丁寧なんだろう。
竿に一直線に干してゆくまで、まったく手抜きなしのきちんとした手順に感嘆。
これがごく当たり前に日々行っていたことなのだ。すごいなあ。

続く浴衣づくりには、個人的な思い出が次々湧いてきて、
いつの間にか涙ぐんでしまった。
亡き母は和裁が得意で、縫うことが好きだった。
下請けをしていた時もあったくらいで、
労を惜しまずせっせと縫っていた。
確かに浴衣くらい裁って一日で縫うのなんか楽勝だった。
私はてんで手が遅かったけれど、それでも画面に写される裁ち方だとか、
袖の袋縫いだとか、三つ折りぐけだとか、「きせ」をかけるとか、
母の教えてくれた口調が甦ってきて感傷的になってしまう。
こういう台、母も持ってたなあ、とか色々思い出す。

新しい反物のぱりっとした感じ、よく分かる。良い匂いがするのだ。
「のりがきいてるからかえって縫いにくい。絹のほうが縫い良い」
とスズさんは言う。
映画で4つの女の子のために縫われてゆく四つ身の浴衣の紫陽花の柄は、
偶然、私が昔、中学生の時に教わりながら縫った柄とよく似ていた。
元禄袖の丸みもなつかしい。

おこわを蒸すのだって、下準備からすると三日がかり。
今やそういうことにいちいち感動してしまう。
あの御釜の湯気の勢いを、多少なりとも覚えていて、
木端を焚くことも経験しているので、ちょっとわくわくした。
ササゲで自然に色付いたもち米に、
とっておいた赤水(ササゲの汁)を上からさらにかけてゆく。
蒸しあがって、お重に詰められ、盛大にゴマ塩が降りかけられた強飯の、
なんと美味しそうなこと。

お盆の支度の「水の子」というのは物珍しかった。
やっぱり土地によって風習が違うせいかもしれない。
器に合わせて丸く回りを切った蓮の葉に、切った茄子とお米が盛られ、
白い紙で束ねられたミソハギが上に置かれる。
ミソハギはお盆に備えるお精霊花だとは知っているけれど、
こういうふうに使うのは初めて知った。

今、私たちはこういう労働から解放されて、
多くの自由な時間を持っているはずなのに、
観ていて、なんと豊かな暮らしなんだろうと心打たれた。
手間暇を惜しまない姿が神々しいほど。
スズさんは気負いもなく、淡々と当たり前の顔をして家事をこなしてゆく。
こういうひとたちが、日々の暮らしを支えて来てくれたんだなあ。
上映後「昭和のくらし博物館」にも立ち寄り、懐かしい世界に浸った。
今度またゆっくり訪れてみたい。
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