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2010年07月23日09:06

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『会うまでの時間』(『Mother』第3話)

葉菜は遠くから奈緒を見守るつもりだった。
第2話の最後、歩道橋で二人はすれ違っているけれど、
葉菜はすぐにそれと分っても、別れた母の顔を忘れた奈緒は気付かない。
二人が初めて顔を合わせたと言えるのは、継美を介した図書館の中。

養母である藤子との約束もあり、奈緒と顔を合わすまいとする葉菜は、
なんとか身を隠そうとするのだが、急いで出て行こうとしたせいで、
返却用ブックトラックに載っている本を落としてしまい、
かえって継美と奈緒に見つかってしまう。

落ちた本を拾いながら、はからずも奈緒と言葉を交わす。
奈緒も拾うのを手伝おうとして、
同時に同じ本に手を伸ばし、二人の手が触れ合うところでは、
葉菜の胸の動悸が伝わってくるようで、こちらまでどきどきした。

その本が何の本だったのか、最初に見た時はあまりに瞬時なので分らなかった。
表紙の水色が目に残って、継美の好きな「水色」揃えなのかとは思ったけれど、
図書館場面を調べるために停めて見て、初めてそのタイトルを知り、
うーん、とうなってしまった。
水色の表紙に銀色の文字で『会うまでの時間』。
何十年の時を経て、ここで再会する二人のこれまでを思わせるようなタイトル。
もちろん周到に選ばれたものだろう。
小道具ひとつとっても心憎い。

『会うまでの時間』は、調べてみると俵万智さんの自選歌集だった。
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784163675503
(文藝春秋社 2005年 p.176 1300円 ISBN:9784163675503)
『サラダ記念日』『とれたての短歌です。』『もうひとつの恋』
『かぜのてのひら』『チョコレート革命』の五歌集1400首あまりのなかから、
著者自身が精選した394首。

多摩市立図書館の所蔵検索で調べてみたところ、
残念ながらこの場面の撮影に使われた聖ヶ丘図書館にはなく
(多摩市立図書館の所蔵は永山図書館のみ)、
翌日訪れた日野市立中央図書館の短歌の棚でようやく実物を手にした。
ちなみに日野市立図書館では、この中央図書館の他、
高幡図書館、日野図書館、百草図書館でも所蔵している。

きれいな表紙の水色は、よく見ると淡いグラデーション状。
中央やや左寄りに銀文字でタイトル。
その下に白で著者名、黒字で「自選歌集」とある。
装丁は名手・菊池信義氏。

タイトルそのものは、鮮烈なデビュー作『サラダ記念日』の中の
「会うまでの時間たっぷり浴びたくて各駅停車で新宿に行く」
という初々しい恋のときめきを感じさせる一首から採られているが、
選集全体を通して読むと、出会いや別れ、ふるさとのこと、
お父様との死別など、身辺の移り変わりも詠まれていて、
人生のさまざまな出会いのことにも思えてくる。

『チョコレート革命』が出た時には、
万智さん流『みだれ髪』(与謝野晶子)とも言えるような内容に
かなり驚き、どきどきしたものだけれど、
久々に作品を目にして、やはり瑞々しい感性のかただなあと感じ入った。
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