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2010年05月30日23:31

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トロッコ

5月28日、金曜レディースデイのシネスイッチ銀座にて鑑賞。
http://www.torokko.com/story.html

芥川龍之介の短編を基にしているとのことだが、それは本当にわずかな部分。
少年がトロッコに惹かれて、仕事に向かう土工と一緒にどんどんレールの先へ行き、
ずいぶん先へ行ったところで、一人の足で帰らねばならないことに呆然として、
心細さをこらえながら、なんとか夜になるまでにうちへ帰ってくるという、
大正時代の伊豆を舞台とした短編のほうは、文庫本にしてわずか8頁ほど。

この原作にインスピレーションを受けて作り上げられた映画は、
クライマックスにあたるトロッコの冒険こそ原作を思い出させるものの、
まったく独自の物語となっている。
トロッコが走るのは現代の台湾の山村。
台湾中部の太平洋側に位置する花蓮(ホワリエン)。
そもそも現代の日本にはトロッコが存在していなくて、
台湾にはあるということから、物語がかたち作られていったのだとか。
日本人監督による日本映画だけれど、登場人物は台湾勢が圧倒している。

そういうわけで、主人公の少年・敦は、台湾人の父と日本人の母との間に生まれ、
父が急死してしまったために、母と弟とともに、父の遺骨を抱いて、
初めて父の故郷の村へとやってくるという設定になっている。
年老いた祖父母と、義姉を気遣って台北からやってきた父の弟が出迎え、
その緑濃い村の森で、苗木を植える作業に使われているトロッコと出会うのだ。
父母の馴れ初めや、父の死について具体的なことはいっさい出ず、
物語は父の死後から幕を開ける。

正直に言えば、少年たちの母の不安と葛藤だとか、
彼女の義弟夫婦の間の不安定さだとか、日本に対する祖父母の複雑な思いだとか、
ある程度は分るけれど、なんとなく未消化で感情移入し辛く、
見ていてやや居心地が悪かった印象は否めない。
(特に冒頭、東京から台湾に向かうあたりはぎこちなくて落ち着かない)

ただ、そういうストーリーのつくりごとは関係ないほど、村の風景が良かった。
なにしろカメラは名手リー・ピンピンだし、ひかりを透かす緑の綺麗なこと!
木造の家の窓やドアに塗られた水色のペンキの色がとても素敵。
そう、これはあの国の色彩だ。見覚えがある。
スタッフもホウ・シャオシェン組が、がっちり固めているというのだから、
これを見ないという手はない。
祖母役はホウ監督の自伝的映画で、彼の母親役を演じたこともある
ベテラン女優・梅芳だし、安心して見ていられる。
悠揚迫らざる、ゆったりと流れる時間。

ホウ・シャオシェン監督の初期作品にすっかり魅せられ、
訪台したこともある私にとって、この映画の風景は何もかも懐かしかった。
現代とは言っても、時は昔のまま止まっているよう。
初めはゲーム機ばかりで遊んで、電子音の違和感を撒き散らしていた敦も、
髪を短く刈ったあたりから、この村になじんでゆく。

8歳の敦のこころは揺れている。
戦時中に日本人教育を受けた祖父の世代は日本語を解するし、話してくれるが、
叔父たちの話す北京語は、少年には理解不能。
台湾人の父と結婚した母は、両方しゃべれるし、通訳もしてくれるけれど、
大好きだった父亡き今、どこに行っても
「お父さんの小さい頃そっくりだ」と言われつつ、
父が育った家で、読めない言葉、分らない言葉と向き合う複雑さ。
「僕は台湾人なの?日本人なの?」

母親・夕美子もこれからどうしたものか、心は揺れている。
(ちなみに夕美子という名は、台湾の夫の身内たちからシウメイズと呼ばれていた)
長男である敦にはつい厳しく、年下の弟・凱(とき)のほうにはやさしい。
ここに置いていかれるのではないか、捨てられるのかも、
と考えてしまう少年の不安。
弟を連れてのトロッコの旅は、こうした状況でより劇的になった。
最後には泣きだした弟をかばいながら、歩き通す敦の面構えが良い。
昔の少年文学を彷彿させた。

ただ、たいへん重要な役である少年の母・夕美子役を演じているのが、
現在欠かさず見ているTVドラマ『Mother』において、
我が子にひどい虐待をしていた実母・仁美役の尾野真千子さんなので、
彼女がいらついた様子を見せると、無駄に緊張してどきどきしてしまった。
この子にひどいことしないだろうか、と手に汗握ってしまうのだ。
もちろんこの役はもう少し年上で、ごくまっとうな人柄のはずなのだけれど、
現在進行中のドラマでインパクトの強い役をやっていると、
見る側もどうもひきずられてしまう。
出来ることなら、まっさらな状態で見たかったなと思う。
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