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2010年05月18日00:43

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霧笛舎での『霧笛』

先週の日曜日(5月9日)は、日帰りで銚子に行って来た。
この日は市役所近くの保険福祉センターで
「犬吠埼霧笛100年記念シンポジウム」が行われ、
そのアフターイベントとして、犬吠崎燈台の足元にある「霧笛舎」で、
レイ・ブラッドベリ原作の『霧笛』の一人芝居が演じられると、
銚子の友人からお知らせを受けて、それは観なくては、と参上した次第。
http://www.sukikuru.net/cdb/modules/news/article.php?storyid=735
東京駅八重洲口から朝7時45分発の銚子行き京成バスに乗り、
10時のシンポジウム開始に、ぎりぎり間に合った。

「霧笛舎」というのは、霧や吹雪などで船の視界がきかない時に、
方位を知らせるために、大きなラッパから音を鳴らし続けた信号所。
この建物は明治43年(1910年)に運用が始まったので、
今年でちょうど百年たつのだが、船のレーダーなどの進歩によって、
霧笛を鳴らす役割は、2年前に終了したとのこと。
http://www.inubo.net/brunton/abmuteki.html

燈台にはずっと前にのぼったことがあるけれど、
この霧笛舎には、去年の夏に初めて訪れて、素敵な建物だなあと感激した。
シンプルで端正なデザイン。愛らしいかまぼこ屋根。
もう霧笛を鳴らす必要がなくなったとは言っても、解体するなんて勿体ない!

シンポジウムでの専門家の先生がたの調査報告によれば、
明治後期に国産の鉄で作られたこういう建物は、
現存する唯一のものだそうで、歴史的価値が高いとのこと。
構造としては家というより船に近いとか。
4尺×8尺の同じ規格の鉄板を継ぎ合わせたリベット。
まるで鉄板を布のように扱って、縫い合せたようなつくり。
海に面した金属の建物なのに、朽ち果てることなく百年もっているのは、
年に二回、春と秋に塗り直すという丁寧なメンテナンスのたまもので、
奇跡のようなことなのだそうだ。
有形文化財に登録されて、今後も保存されると良いなあと願っている。
あたらしくつくろうとしてつくれるようなものでないのだから。

アフターイベントの一人芝居は、この場所で演じられることにこそ意義があった。
レイ・ブラッドベリの『霧笛』は、まさに灯台を舞台とした、不思議な物語。
劇団A.C.O.A.の鈴木史朗さんが、
老練な灯台守のマックダン、新人のジョニー、
そして海の底からやってくる生き物をひとりで演じ分ける。
つい先頃まで現役だった機械類にかこまれ、すぐそばに海を感じながら、
このお芝居を見るのは、本当に臨場感たっぷり。
(空調設備がなかったので、ちょっと暑かったけれど)

『霧笛』はブラッドベリを深く愛している漫画家の萩尾望都さんが、
もう30年以上も前に漫画化され、
野田秀樹さんが萩尾さん原作の『半神』を舞台化された際、
冒頭と最後に引用されていて、非常に印象的だった。
抒情的でうつくしく、心にしみる珠玉の言葉。
さみしく、せつなく、なつかしい。
久々に萩尾望都全集に収められたこの作品と、
野田さんの脚本『戯曲 半神』を読み返した。
これは本当に、一篇の詩だと思う。

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この海原ごしに呼びかけて
船に警告してやる声が要る
その声をつくってやろう
これまでにあったどんな時間
どんな霧にも似会った声をつくってやろう

たとえば夜ふけてある
きみのそばのからっぽのベッド
訪うて人の誰もいない家
また葉のちってしまった晩秋の木ぎに似会った
そんな音をつくってやろう

鳴きながら南方へ去る鳥の声
11月の風や さみしい浜辺によする波に似た音
そんな音をつくってやろう

それはあまりにも孤独な音なので
誰もそれを聞きもらすはずはなく
それを耳にしては誰もが
ひそかにしのび泣きをし
遠くの町で聞けば
いっそう我が家があたたかく
なつかしく思われる
そんな音をつくってやろう

おれは我と我身をひとつの音
ひとつの機械としてやろう
そうすれば それを人は霧笛と呼び
それを聞く人はみな
永遠というものの悲しみと
生きることのはかなさを知るだろう

   レイ・ブラッドベリ『霧笛』(『ウは宇宙船のウ』所収)より   
   [表記は萩尾望都『霧笛』(1977年)による]
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