「見殺しにしたんだ、あんたと違って。
今あんたが歩いてる道は、俺が逃げた道なんだ」
昔、自分が救ってやれなかった少年との関わりを
問わず語りに告白する藤吉駿輔。
彼の奈緒へのこだわりの理由と、罪の意識が明らかになって、
また一段と深みを増す展開に引き込まれた第5話。
http://www.ntv.co.jp/mother/
誰もがそれぞれの痛みを抱えている。
それにしても毎回、画面の緊迫感は尋常ではない。
初回からずっと目が離せないけれど、
この告白がなされるラブホテルの部屋も、考え抜かれた画面構成。
なんと凝ったつくりなのだろう、と圧倒される。
「ここで話しましょうか」とさっとラブホテルに入る駿輔に戸惑う奈緒。
次のカットでは、硬い表情で立ち尽くす奈緒の姿。
カメラがパンして、奥まった場所に腰掛けてしゃべっている駿輔と、
その後ろに見える絵が見えてくる。
と思いきや、カメラがそのままゆるやかに動いてゆくにつれ、
駿輔の背中が見えて、さきに見えたのは鏡に映ったものだと分る。
彼の言葉を黙って聞く奈緒と、
ベッドの頭側の壁にかかった絵を背景にしゃべる駿輔の切り返し。
黙ったまま部屋を出ようとする彼女を呼び止め、
座っていたベッドから立ち上がって彼女に近づき、通帳を手渡し、
戸口近くの鮮やかな朱色のソファに腰掛ける駿輔。
（*このソファ、色と形状が有名な”モンローの唇ソファ”に似ている気が）
ソファの前にはガラステーブルとガラスの大きな灰皿。
通帳を見る奈緒。通帳の明細アップ。その説明をする駿輔。
葉菜とのやりとりを回想する奈緒。
近付いて通帳を彼女の手から取り上げる駿輔。
「返してください」「何言ってんだ今さら」ともみ合いになる二人。
このやりとりは、ベッド側面の壁の大きな絵の前。
（天使と裸身の女神たち？こちらはまだタイトルが不明）
「返して下さい」「もう遅いよ！」
奈緒の手をとって、ベッドに押し倒す駿輔。
「勝手な女だな」
奈緒が倒されたベッドの枕元に、さきに映っていた大きな絵の下側が見える。
奈緒の手から無理やり通帳を奪おうとする駿輔。
必死で枕元のガラスの灰皿を取り、力任せにぶつける奈緒。
ベッドから転がり落ちる駿輔。
起き直った奈緒の後ろに絵が見える。
勢いに乗じて重たい灰皿を振りあげる奈緒。
「やってみろよ！
俺の口をふさげばあんたとあの子は晴れて親子になれる。
そのかわり今度は人殺しだよお母さん！」
はっとして、ゆっくりと灰皿を降ろし、座りこむ奈緒。
息もつかせぬ緊迫の展開だけれど、
最初に鏡に映った駿輔の後ろに見え、
激しいやりとりで、二人の位置がめまぐるしく移り変わり、
最後に奈緒の背景となっている、ベッドの頭側の壁の大きな絵は『最後の審判』。
http://www.salvastyle.com/menu_renaissance/michelangelo_universale.html
ミケランジェロの代表作で、ヴァチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂の
祭壇に描かれたフレスコ画（1541年に完成）。
鏡ばかりではなく、ガラスの机にもこの絵は映りこんでいる。
駿輔の過去の告白場面では、ガラステーブルの上におかれた
所縁のヒーローキャップのアップから、焦点が切り替わって、
そこに奈緒の顔と、背景の絵が映る。
めくるめく映像の万華鏡。
絵に注目して報せてくれたのは、例によって博学のKさん。
水曜日の放映後、ほとんど間髪を入れず彼女から、
あのホテルの部屋の絵のうち、一枚は
ミケランジェロの『最後の審判』でしたね、とのメール。
さらにその意味を考察したメールも続けて送ってくれたのだが、
あいにく私の部屋のTVは日テレの受信状態が非常に悪いので、
こと細かな部分がまるで見られず、
友人が送ってくれた録画DVDでようやく今日確認出来た。
（nさんどうもありがとう！）
聖書の「ヨハネの黙示録」に見る「最後の審判」とは、
世界の終わりに人々が裁かれること。
イエス・キリストが再臨し、あらゆる死者をよみがえらせて裁きを行い、
永遠の生命を与えられる者と地獄へ墜ちる者とに分けるという。
ミケランジェロのこの絵は非常に大きなもので、
全部で400名以上の人物が描かれているそうだが、
その中央で右手を振りあげているのが、
今まさに死者に裁きを下しているイエス・キリスト。
向かって左側には天国へと昇天していく人々、
右側には地獄へと堕ちていく人々が居る。
調べてみたところ、長い年月の煤で色褪せていたこの壁画は、
日本テレビの支援によって1981年から1994年までに修復作業が行われ、
本来の鮮やかな色彩が蘇ったのだとか。
日テレ放映のこのドラマで使われたのも、ご縁なのだろうか。
この場面では、中心のイエスの部分にスポットライトが当たり、
鮮やかな青や赤の色合いも際立って、目を引くようになっている。
それが二人の背後に映るのは、それぞれの罪が問われているのではないか、
というのがKさんの考察。
つまり、行動を起こさなかった（法を犯さなかった）結果、
子どもを死なせた駿輔と、
行動を起こし（法を犯し）継美（怜南）を助けた奈緒。
二人を裁く神の判断は？天国行きか地獄行きか。
今にして第1話の怜南が「天国ってある？」と
奈緒に問いかけたことを思い出す。
今後もますます目が離せない。
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