昭和29年（1954年）
*二重橋事件（正月二日の一般参賀において、参賀者らが将棋倒しになった）
------------------------------------------------
N （ナレーション）
「その年、マリリン・モンローが来日した時、
つるちゃんは、彼女が泊っているホテルの従業員をやっていた」
・帝国ホテルのマリリン・モンロー
註）モンローの来日は1954年2月で、
夫である野球選手ディマジオと共に帝国ホテルに宿泊
その前年に公開された『ナイアガラ』、『紳士は金髪がお好き』、
『百万長者と結婚する方法』、『七年目の浮気』などが大ヒットし、
トップスターとして人気絶頂の頃
腰を振って歩く仕草（モンロー・ウォーク）も知れ渡っていた
帝国ホテル正面にやってくる時次郎、宗男、阿野
つるちゃんに誘導されて裏口のほうへ
つる「早く」
従業員入口から三人を密かに中に入れる
つる「早く入って」「行って」「早く行って」「早く」
時次郎、宗男の順で一人ずつ入れ、阿野が入ろうとすると止める
つる「ちょっとあんた待って」
阿野の格好（ラクダシャツとベージュズボンの上に一応黒上着を着ているが、
いつものボサボサ髪）をつくづくと見て
つる「怪しかね〜。せめてこれかぶって」
（自分のホテルボーイの帽子をかぶせる）
つる「こっち、こっちです」階段を駆け上がる
時次郎「つるちゃん」（息切れ）
宗男「頑張れ」
時次郎「エレベーターば使わんか」
息を切らしながら階段を上がる
黙ってすたすたと上がる阿野
廊下）
モンローの部屋のドアを見るつるちゃん
見るからに屈強そうなボディガードが扉の両脇に控えている
一度後ずさりして画面から消え、カートを押して再びやってくるつるちゃん
つるちゃんの押すカートの陰に隠れて移動する三人
廊下脇のスタッフスペース）
カーテンの内側になんとか三人を入れるつるちゃん
ズボンの裾はめくれあがり、鼻を押さえている阿野
つる「外に出る時は、必ずこの前を通るとです」（廊下を手で示す）
時次郎（興奮）「こ、ここを通るとか」
つる「見るだけですよ。声掛けるのは無しですけん」
宗男「わかっとるって」
ぐいぐい押してくる時次郎、宗男を必死に留めるつるちゃん
一人挙動不審な阿野、身体を揺らしつつ突然つるちゃんを廊下に押し出す
つる「何ばしようとや！」（阿野を押し戻す）
カーテンにくるまってモンローの部屋のほうを見る阿野
阿野「あ、出て来た！」
四人、カーテンの内側で押し合うように密着しながら注視
右手の指で鼻をはさみ、左手の指を奇妙に動かしている阿野
セクシーな白いドレス（『七年目の浮気』の衣装ふう）を着て、
付き人の男性と共に廊下を歩いてくるモンロー
時次郎「あ、歩いちょる」
釘づけになる男たちの視線
宗男「マリリン…」
時次郎「マリリン先生！サインばお願いできますでしょうか」
つる「ちょっと！」（押し戻す）
ふらふらと彼女に向かって歩き出す阿野
つる「あんたは何をしよっと！」
阿野を止めて押し戻す
彼らの目の前を悠然と歩いてゆくモンロー
ガン見する阿野
感激している時次郎たち
彼女が歩み去ったあと、残り香をうっとりと嗅ぐ時次郎、宗男
阿野は肩をいからせ、ほとんど怒っているかのようなすごい目つき
N 「マリリン・モンローの匂いを嗅いだことは、長らく祖父の自慢であった」
ほっと一息ついたつるちゃん
その肩がぽん、と叩かれる
目を上げると、屈強そうなボディガード
まずい！
つる（三人に向かい）「逃げて！」
ボディガードに吊るし上げられるつるちゃんをよそにその場を去る三人
すたすたと歩く阿野
ログインしてコメントを確認・投稿する