放映後一ヶ月もたったところで何だけれども、
三谷幸喜作・三夜連続ドラマ『わが家の歴史』はたいへん楽しく観た。
http://www.fujitv.co.jp/wagaya/index.html
このドラマは、成長した後の八女実がナレーターを務めているという設定。
昭和29年生まれの彼は、現在なら56歳のはずだけれど、
物語は彼の生まれる前の昭和20年（1945年）の八女家から始まり、
博多から東京へ出てきた家族の、波乱万丈紆余曲折の生活を、
皆で東京オリンピックをTV観戦する昭和39年（1964年）まで描いている。
私は実くんより年下だし、昭和のさまざまな事件を全部知っているわけではないけど、
それでも幾分かはその雰囲気を覚えているし、とても懐かしかった。
主要キャストはそれぞれ皆味わいがあったが、
山本耕史くん演じる作家の阿野さんは、本当に面白かった！
http://www.fujitv.co.jp/wagaya/interview/int7.html
鬼太郎ヘアとも見えるようなすごいヅラ、
↓（それにしてもこの専用かつら入れは、まるで首桶である）
http://www.fujitv.co.jp/wagaya/column/column5.html
ラクダシャツやダボダボのズボンなどでかっこよさを封印しているし、
挙動不審で怪しいひとではあるけれど、
ファンの目からすると、それでもなお可愛かった。
ふぁさっと覆いかぶさっているあの髪型は、
能の「黒頭」（くろがしら→怨霊や童子などが用いる）という仮髪を思わせますね。
あの独特の間合いや、妙な立ち居ふるまいの絶妙さ。
本人がとても楽しんで演じていたのがよく分る。
”いらんこと言い”の際立ち方は、まさにトリックスターという感じ。
台詞のあれこれはいかにも三谷さんらしいし（三谷さん本人が言いそう）、
かなり自己投影しているのではないかしら。
変人のようには見えるけど、小説に関してはあくまで真摯でナイーブ。
「何も出てこない…。何も浮かばない。
書いては書き直し…15枚書くのに半年がかりだ！」
と泣く場面では、波子ちゃんならずとも胸がきゅんとした。
作家、というか無から有を生み出すひとって本当に大変だと思う。
「もう5年も書いてる」と言っていたttBのジョナサンを思い出す。
信念と弱気。世の中の評価に過剰にナーヴァスになる危うさ。
その揺れ動く気持ちを自分でコントロールし切れない。
波ちゃんはその点、どこか天然でふわんとしているし、
彼を支えるのにぴったりの、ご縁のあったひとなんだろうな。
良き編集者にして妻。
ジェイミーのようにならなくて良かったね、阿野さん。
それにしても阿野さんはどういう出自のひとなんだろう。
結果的に失礼なことを言ったりはするけれど、言葉尻は丁寧だし、
立ち居ふるまいにも下卑た感じはなく、汚れてもいない。
食事は残さず綺麗に食べるけど、さもしいイメージはまるでなし。
だいいちどうやって生計をたてているのだろう。
あんなアパートに住んではいるけれど、
もとは良いところのお坊ちゃんなのかもしれないなあ。
どこか育ちの良い高等遊民の匂い。
ただ、肉親の愛には薄かったような気がする。
さみしかったからこそ、波子を通じて八女家にもなじんだのだろう。
だって何かというと集まる八女家の食事場面にはちゃんと座ってるし、
口には出さないけれど、彼はこの家族が大好きなんだと思う。
房子ちゃんとつるちゃんの結婚式で、
お得意の『ベアトリ姉ちゃん』を歌うお父さん・時次郎さんに、
誰よりも早く涙を流して泣いているのは彼だもの。
鬼塚さんの出立お見送りにも、時次郎さんの亡くなる病室にも、
阿野さんは欠かさず立ち会っているのだ。
「僕は遠慮しとく」なんて八女家に対しては絶対言わない。
実くんに効果的砂掛けを伝授しているのも、彼への愛ゆえ。
運動会でも真剣にひたむきに走る阿野さんが大好き。
大好きゆえに、阿野さん関連場面を全部書き起こそうと試みたら、
これが予想を越えてたいへんな作業！
だってあのおかしみは、台詞だけでなく、
間合いや仕草も説明しないと分らないから。
つまりはト書きにあたる部分がどんどん長くなってしまう。
本当は、そういうところに言及してしまうと、
”私はここをこう見ました”という筆者の思い入れをさらすことになるので、
脚本に対して失礼かもしれない、と躊躇したのだが、
せっかくなので、別項で何回かに分けてアップすることにします。
これは昭和何年の出来事か、というのは、
合間合間に有名な昭和の事件があるので、それを調べて確認。
いろんなことがはっきり分ってきて楽しかった。
それにしても阿野さんはどんな小説を書いたんだろうなあ。
ちなみに出版社で最初に波子が見せられた原稿には
「瞳孔（どうこう） 作 阿野三成」と書いてあった。
なんだかずいぶん前衛的な作風を思わせるタイトル。
ちなみに阿野さんは世代的に遠藤周作と同じ頃だから、
「第三の新人」グループに属す年代かと思うけれど、
このタイトルの付け方は、新感覚派の横光利一っぽいような気がする。
最後の『凡人日記』は、魯迅の『狂人日記』のパロディでしょうか。
筒井康隆さんの『俗物図鑑』も連想したけれど、
きっとさんざん廻った迷いの森を突き抜けたあとの新境地なのでしょうね。
読んでみたいなあ。
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