mixiユーザー(id:1280689)

2025年06月24日16:36

13 view

ドールハウス

 意欲作「ダンス・ウィズ・ミー」が作品的にも興行的にも不発に終わってから約7年。
 もう新作を撮ることはできないのだろうか、と思ってましたが、矢口史靖監督はなかなか意外な形で戻ってきましたね。
 「ドールハウス」、快作でした。

 以前「WOOD JOB!」ではフランケンハイマーの「大列車作戦」やイーストウッドの「アイガー・サンクション」にオマージュを捧げていた矢口監督、今度は野村芳太郎の線できましたね。
 これ、間違いなく「影の車」「震える舌」を意識してます。
 上記2作品に共通しているのは「破壊される日常」が描かれている、ということ。平穏な日々、波風の立たない穏やかな日々に突然降りかかる災厄。それが染み込むような皮膚感覚で観るものに迫る作品でした。それと同じことをやろうと、監督をはじめ作り手の方々は考えたのではないかと思います。
 特に「影の車」における「こんなことが起こるはずはない、しかし・・・」という疑念が次第に現実となっていく怖さが、ここでも豊かなディテール描写によって表現されているのが、この種の話が好きな身としては実に嬉しいですね。
 
 ディテール描写といえば、感心したのは導入部。
 長澤まさみが自宅内で近所の友達とかくれんぼしている最中に、足りなくなったジュースを買いに行くのですが、このシークエンスにおける「焦燥感」が実に丁寧なんですね。
 キッチンにある包丁等を子供達の手の届かないところにしまい、誤嚥しそうなものは片付け、大急ぎで出ていったものの、スーパーのレジの列はなかなか進まないし踏切の遮断機はいつまで待っても開かない。
 悪いことなんて、起こるはずはない。いや絶対に起こらない。でも、早く帰りたい。帰らなければ。
 誰もが時として感じることがあるだろう、胸を引っ掻くような不安と焦り、胸騒ぎ。
 アトラクション的な娯楽ホラーとは一線を画した、日常生活のすぐそばにじんわりと漂っている「不穏なモノ」の存在を感じさせるその作りに、私は大いに感心しました。

 それに比して後半はかなり振り切った、ストレートなホラーものになっているので、おやおや、と思う向きもあるかもしれませんが、私はこの展開も好き。
 あの禍々しい人形が「動く」ところはほぼ見せず、匂わせる程度にとどめているのがいいですし、田中哲司扮する呪術師(?)の、なんだかすごい人なのか抜けてる人なのかわからない奇妙なおかしさも捨て難いのですね。
 お掃除ロボットをはじめとする小道具の使い方も巧く、怖い作品なのに何だか心地よく観てしまったのでした。

 矢口史靖は作品の出来にかなりムラがある人ですが、今回は及第点と言っていいんじゃないかな、と思います。
 次は、市井の人々のそこはかとないおかしさに満ちたヒューマンドラマなんかを手掛けて欲しいものです。
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2025年06月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     

最近の日記

もっと見る