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2025年03月18日16:20

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Flow

 本年度アカデミー賞長編アニメ賞受賞の「Flow」。
 ようやく、観られました。
 思えば本作のチラシを近所の劇場で見かけたのは昨年の秋。
 このビジュアルに猛烈に惹かれて、公開を待ち望んでいたのですが・・・、予想に違わぬ素晴らしい作品でした。
 ここ数年、「カラミティ」「ブレッドウィナー」「ウルフウォーカーズ」「アンネ・フランクと旅する日記」など、メジャーでないアニメスタジオの発表する海外アニメの傑作に触れる機会が増えていたのですが、ここにきて遠くラトビアからの作品が届くとは思いませんでしたね。
 世界が不安定さと狂気で満ち溢れている今、本当に観られるべき作品であると思います。

 人間の創り上げた物質文明が崩壊した後と思しい世界。
 巨大だが虚しい遺物が乱立する大地がじわじわと水によって侵食されていく中、一匹の猫が小さな帆船を見つけ、乗り込みます。そこに先に乗っていたのはカピバラ。やがて船にはキツネザル、ヘビクイワシ、イヌが同乗し、この奇妙な組み合わせの一行は当てのない船旅の仲間となっていきます。

 特に物語らしい物語があるわけでなく、目を瞠るようなアクションがあるわけでもないのですが、大河のようにゆったりとした展開と、動物たちのリアルなようでどこか誇張された見事な動きに引き込まれ、夢のような85分の旅を味わうことができました。
 背景や水の描写は昨今よく見られる3DCGアニメ的ではありますが、動物たちがやや簡略化された色合いになっているのが面白いです。ピクサーの「モンスターズ・インク」あたりから生き物の毛が驚くほど細密にアニメートされるようになり、今やそれがスタンダードになっていたのですが、本作は敢えてそれに抗っているようですね。そんなことをしなくても動物の動きを魅力的に見せることはできるし、また極度なリアルさはかえって鑑賞の邪魔になりかねません。本作の作り手はその辺りの匙加減をよく心得ているように思えます。
 ともすれば技術の凄さをアピールすることに血道をあげてしまいかねないところをグッと抑え、登場する動物たちの歩み寄りと連帯のドラマを追求することに専念するという姿勢は見事としか言いようがありません。

 小さなノアの方舟に乗り合わせた彼らは、それぞれの生き物としての特質を隠すことなくぶつけ合い、受け入れられるところは受け入れ、かと言って変にベタついた協力関係にもならず、少しずつ「仲間のようなもの」になっていきます。
 このプロセスを、適度な擬人化(ヘビクイワシとカピバラが何故か上手に舵を操っていたりする!)を織り交ぜながら観る者に無理なく信じさせる手堅い描写力には、もはや脱帽であります。

 後半、押し寄せる水は容赦なく大地を飲み込み、襲い来る嵐は動物たちの船を翻弄し続けます。
 この水と嵐は、きっと世界の浄化を担った「神の意志」そのものだったのでしょう。
 そして時折現れる、鯨とも竜ともつかない不思議な生き物(他の動物たちは実在するものなのに、これだけは何故かファンタジック)は、その行程を見守る使いだったのかも知れません。
 やがて動物たちの目の前に現れる、復活した世界。
 ここで彼らは、船の中でそうしてきたように、付かず離れず、しかし「この世界で共に生きる者」として協力して生きていくのでしょう。
 血に狂った人間たちが、ウクライナで、ミャンマーで、そしてパレスチナで性懲りも無く破壊と殺戮を続けています。私たちは本作の猫たちのように生きていくことはできないのでしょうか。
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