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2024年08月22日17:02

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ルックバック

 上映時間58分で、各種割引の効かない特別興業(立川シネマシティさんでは通常1000円で観られるのですが、本作は1700円)という、いろいろ異例ずくめの作品ですが、周囲の評価は高く、興業的にも大ヒット。
 さて、どんなもんじゃろうと思い、予備知識を一切入れずに観てきました。
 見事、射抜かれました。
 「ルックバック」、素晴らしいじゃないですか!

 漫画にのめり込み、タッグを組んで精進する二人組・・・って話は前にもいくつかありましたが、これはそのどれにも似ていない、「寄り添ったりぶつかったりする魂」の物語でありましたね。才能と努力、それを認めながらも反発せざるを得ない、クリエイターの性。そうしたものがヒリヒリするような感覚で描かれていて、なんともいえない気分になりましたよ。

 学校新聞の4コマ漫画欄を担当し、その卓越したアイディアと感覚で人気を博している藤野ちゃん。どの作品も毎回ウケまくっているのですっかり天狗になってる彼女ですが、連載枠の半分を引きこもりの京本に持って行かれておかんむり。
 ところが京本のあまりの画力の高さは、増長している藤野ちゃんの鼻っ柱を折るには十分なものでした。この時から、彼女の心はまだ見ぬライバルへの対抗心でいっぱいになり・・・。

 画力を高めようと絵の勉強を始める藤野ちゃんがまず手がけたのが骨格スケッチ、というのがいいですね。これ基本中の基本ですから。さらには筋肉や裸体までと、ひたすら描きまくる藤野ちゃんの姿にはなかなか鬼気迫るものがあります。
 負けたくない。自分より上手いやつがいるなんて認められない。
 そもそも彼女は特に漫画を描くことには関心はなかったのでしょう。ただ、たまたま描いた作品がウケて、「すごいね」「漫画家になれるよ」なんてもてはやされたことでそれが勲章みたいになっていたのかも知れません。
 この方面では自分が一番。自分が最高。こういう思い込みって、誰にでもありますよね。
 だから「そうじゃなかった」と分かった時の屈辱と落胆の大きさ、すごく、よくわかります。

 ところが、奇妙な成り行きで藤野ちゃんの前に姿を現した京本は彼女を絶賛します。
「藤野先生!先生は天才です!」。
 これまで自分を打ちのめし続けてきた相手からの、熱烈な崇拝の言葉。
 そのきっかけになったのが、藤野ちゃんが何の気なしに描いた4コマ漫画でした。
 その漫画は明らかに、引きこもりである京本を悪意を持ってからかったものでしたが、彼女はそんなことよりも、その漫画の着想と独特のユーモアセンスに惹かれたのです。自分を揶揄してるとか、そんなことはどうでもいい。こんなことを思いつく人ってホントに凄い。
 京本は誰よりも鋭敏に、藤野ちゃんの才能に気づいたのです。

 京本に絶賛されるまでは「もう漫画なんて描かない」と思ってた藤野ちゃん。
 しかし彼女は京本の「天才です!」という魔法の言葉にすっかり有頂天。真っ黒い空も、降りしきる雨も、どろんこの畦道もなんのその、スキップで、駆け足で、家までの道を急ぎます。一刻も早く机に向かいたくて。鉛筆を握りたくて。
 ・・・このシーン、本当に永く記憶に残ると思います。あれほど「本当に、心から目指せるものを見つけられて、高揚する気持ち」を見事に映像化したシークエンスはありませんから。アニメーションならではのデフォルメされた動きで、不思議なリズムを取りながら腕を振り、足を上げて、沸き立つ気持ちを発散する藤野ちゃんの姿に、心を躍らせない観客はいないでしょう。

 ここから先については、未見の方のために伏せておきます。
 ただ言えるのは、この作品は「漫画を通した友情物語」などという単純なものではない、ということ。互いを認め、高めあう「同志」であり、また、互いに自分にないものを補い合う「かたわれ」の物語である、とでも言えばいいでしょうか。
 正直、あまり好きなタイプの絵柄ではなかったので、困ったな、と思っていましたが、見終わった時にはすっかり、そんなことは忘れてしまってました。
 これは傑作だと思います、本当に。
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