五月に入ってしばらく経ちますので、久々に観ましたよ。
ジョン・フランケンハイマーの最高傑作と言っても過言ではありますまい。
政治サスペンスの名作「五月の七日間」。
この作品くらい、シビリアンコントロールの大切さ、軍事力による優位性主張や愛国心による煽動の危険性をわかりやすく描いたエンタテインメント作品はないと思います。
令和の日本を眺めつつこの作品を再見すると、特にそのことを実感します。
米ソ間の核兵器廃絶条約をめぐる国内での対立に業を煮やした軍トップと極右政治家たちによるクーデター計画。その兆候を察知した大統領一派との静かな対決を追った本作には、派手なアクションもなければ手に汗握る見せ場もありません。
にもかかわらず目を離せなくなるほどの緊迫感が漂うのは、その語り口の巧さもさることながら作品内で展開させる「危機」がいつの世でも起こりうるものとして観るものに迫ってくるからなんですね。
NYでの政治集会にゲストとして呼ばれたクーデター計画首謀者のスコット将軍(バート・ランカスター)の演説など、まさに今の日本のナショナリストの思想そのもの。条約なんかで国が守れるかー、強い軍隊こそが国家を担うのだーなどという主張は、日本国憲法を蔑ろにし勇ましい言説を垂れ流す「あの連中」に重なるものがあり、ゾッとします。
その一方で、スコット将軍の過去のスキャンダルの証拠を握った大統領側の議員のえげつなさもなかなか強烈。クーデターを防ぐ側もまた清廉ではないことをきちんと踏まえており、この辺りのバランス感覚も見事です。
しかしながら、やはり目を引くのは、ラストでの大統領の演説ですね。
「我々が強いのは自由を重んじるからだ。真に強いからこそ寛容になれる。軍事力のみに頼る平和は危険であり、対話による平和こそが世界の繁栄を約束する。そういう平和を目指そうではないか」
大体こんな意味のものでしたが、そうだよなあ、と思わず納得。
昨日の「虎に翼」の伊藤沙莉の演説も立派でしたが、こちらでは大統領を演じたフレデリック・マーチが見事な熱弁。
こういうところに、アメリカ映画の良さを感じます。
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