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2023年12月30日15:55

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なかった落とし物、その13

「腕時計をなくした三人」
スイートルームの三人

 楽しかった。何度も笑った。何度も如何わしい行為をした。そして、酒を飲んでいるわけでもないのに、酔ったようになっていた。撮影が終わった午後六時からノンアルコールの宴ははじまった。その部屋にいたのは、男女三人。一人は二十代後半の筆者。そして、もう一人は、エロ本出版社はマイナーだと言うのに、そのエロ本出版社の中でも、さらにマイナーで弱小の出版社の社長の四十代前半の男。この男は、そんなマイナー出版社の社長でありながら、スラリと背が高く、若いのに口髭など蓄え、なかなかにダンディだった。そして、もう一人は、三十代後半の女性だった。彼女は、女王様を職業としていた。その日の撮影の主役ではなかった。マニア雑誌のグラビア撮影で、彼女は二十代前半の若い女の子を縛り、そして、少しのからみをしてもらうために安いギャランティで雇われて来ていたのだった。
 撮影には、他に、カメラマンがいて、メイクアップアーティストがいて、編集助手もいたのだが、それらの人は撮影終了と共に帰っていた。それは、エロ本撮影では普通のことだった。
 ようするにシティホテルを不法に撮影で使っていたというわけなのだ。スイートルームはカードがあれば一泊五万円で借りることが出来た。五万円ならスタジオを借りるより安くつくのだ。しかし、許可は得ていないので、こっそり人数を入れ、こっそり撮影し、そして、誰か一人が泊まって翌日にチェックアウトするのだ。午後三時にチェックインして午後六時に出たら、部屋がスイートルームなだけに、いかにも怪しいから、チェックアウトは翌日にしていたのだ。
 しかし、スイートルームだと、さすがに一人寝が寂しくなる。女の子など誘えればいいのだが、そうそう、いつも誘えるものではない。そこで、筆者は、その夜は、社長に付き合って、部屋で今後の打ち合わせなどするつもりだったのだ。男二人でスイートルームで仕事、と、そう決めていたのだ。
 ところが、撮影中、おかしな話になったのだ。それは、筆者が小学生の頃に、親から買ってもらった腕時計をその日の内に落としたことがある、と、何かのきっけで話すと、社長が自分も、高校の進学祝いに親から買ってもらった腕時計をその日の内に落としたことがると言った。それだけではなく、女王様と言う女も、自分も、大学生の時に、結婚の約束をしていた男からプレゼントされた腕時計をその日の内に落とし、それを落としたことで、急に結婚が虚しくなって、恋人までなくした、と、そんな話をしたのだ。
 三人は撮影中にその話で盛り上がり、筆者と社長がそこに泊まると分かると、女王様も、自分も泊まりたい、と、言ったのだった。奇妙な組み合わせの男女は、ゆえに、都内のそこそこに有名なシティホテルのスイートルームで三人で過ごすことになったのだった。
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