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2023年12月19日15:09

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なかった落とし物、その4

「女を持っていなかった女」
不明瞭な現実

 その夜。筆者とその女は一つ布団にもぐって全裸で抱き合った。その女はそれを喜んだが、その喜びというのは、性的なものではなかった。まるで子供が、いや、子猫が布団の中で、じゃれ合うような喜びだった。その女は「あたたかいね」と言った。そして「面白いね」と言った。筆者のその部分は張り裂けるほどにまで膨張していた。しかし、その女のそこは乾いていた。そして、閉じていた。硬くその唇を閉じていた。その女の亀裂は、男を知らないどころか、まるで生まれたてのようだった。
「射精してよ」
 その女は、いつも筆者にそう言うのだった。インサートされることも、愛撫されることも、その女は望んでいない。それなのに、射精を見たり、あるいは、男が立ってオシッコをすることろさえ見たがった。
「面白い形で射精してよ」
 そんなリクエストに何度、答えたことだったろうか。立ったままの射精は普通だった。正座しての射精は少しばかり辛かった。走りながらの射精のためにテントを借りてキャンプをしたこともあった。ブランコで立ちこぎしながらの射精は無理なのでオシッコで我慢してもらった。そんなことが出来るブランコを探すのは、たいへんだった。何が楽しいのか、それは筆者には分からないし、筆者はそれについて考えることを止めていた。長くマニア雑誌の編集などしていれば、理解出来ない性癖、理解出来ないコレクション、理解出来ない人がいるのは、それが当たり前で、共感出来ることのほうが少ないということを知っているのが当然なのだ。慣れていたのだ、理解の及ばないことに付き合うことに。
 将棋の楽しさが分からなくても将棋は出来るし、クラシックの楽しさを理解しなくてもクラシックを聴くことは出来るし、野球の楽しさやルールが分からないから野球が出来ないというものでもないのだ。
「ねえ、まんぐりになって、自分の顔に自分のをかけて見せてよ。私、見たい。だって、私、かけられてばかりなんだもん。男って、好きだよね、女の顔にかけるの。オシッコだって、かけたがるんだよね。それ、嫌って女の子も多いみたいだけど、私は平気。だって、この身体は私のものじゃないから」
 それなら、筆者も自分の顔に自分のそれをかけるぐらいは何でもない。そう思って、筆者は、その姿勢になった。しかし、それを叶えてあげることは出来なかった。その姿勢がきつ過ぎて射精どころではなかったからだ。
「つまらない。じゃあ、もう、いい、私の顔にかけて、私がまんぐりになるから」
 何を言っているのか分からなかった。筆者が自分のものを自分にかけるのなら、まんぐりは無理だったが、出したものを顔に塗ったっていいように思う。あるいは、その女がいつも、お客たちとするように顔に浴びるというのも分かる。しかし、どうして、その女が筆者の代わりに、まんぐりの姿勢になり、その姿勢のその女の顔に筆者が上からそれをかけなければならないのか。それが理解出来なかった。
 全裸のまま、ひっくり返るその女の剥き出しのそれに膨張した自分のそれをあてがい、まさに、その女のそこから生えたモノから射精するようにして、筆者は果てた。その女の顔が歪んだ。
「多いよ」
 そう苦情は言うものの、その女は楽しそうに見えた。その女には自分のそれを浴びる男の屈辱が理解出来たのかもしれない。しかし、そんな女を理解することは、筆者には、ついに出来ないままだった。
 その女は、遠いどこかの世界で、身体を落として来たのかもしれない、と、そう思った。そして、その女の落とした身体が、今も、どこかにあるのだ、と、そんなことを思った。ただ、そのことをは、その女には言わずにおいた。言ったところで、その女は理解しないだろうし、その女には理解出来ないということが、筆者には理解出来ないのだから。
 その女がどのようにして筆者の前から消えたのか、あるいは、どのような事情で風俗業界を去ったのか、その記憶は筆者にはない。ただ、気が付いたら、その女と連絡をとることが不可能になっていた。それだけのことだったし、それで筆者はよかった。もしかしたら、その女は落とし物の身体を見つけて、そこに戻ったのかもしれない、と、そう思い続けられるのだから。
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