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2023年12月18日16:51

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なかった落とし物、その3

「女を持っていなかった女」
自分の身体

 混浴の露天風呂で中年の夫婦に男のカップルと間違えられた。その女は全裸でタオルさえ持っていなかった。その女には羞恥のようなものはなかったからだ。そして、その女の身体のあらゆる部位は、とにかく小さかったのだ。身長もだが、肩幅がない、腰は括れているが何よりも身体そのものが細過ぎる、尻も小さければ、足のサイズも子供だ。何よりも胸がない。小太りの男よりも胸の膨らみが小さい。身体の中央の繁みはうっすらなのだが、それでも、その中に、ものすごく小さな男の象徴が隠されているのかもしれない、と、そう誤解されても仕方ない、その女はそんな体型だったのだ。
 羞恥も恐怖もないくせに、風呂では筆者に寄り添っている。その様子は親子には見えないので、男のカップルに見えるのかもしれない。
 中年の主婦は、自分の誤解が楽しいのか、何度も「だって、ほら、そういう時代だから、でも、男と男なら混浴に来なくていいわねえ」と、言っては大きな胸を揺すって笑っていた。その女は、その大きな胸を羨ましがり、何度か触らせてもらっていた。
 筆者は、そうしたマニアかと思ったのだが、どうやら違っていたらしく、何事もないままに、夫婦は風呂から出て行った。夫婦が出て行くと、筆者たちは二人きりになった。
「いっそ私が男だったら良かったのかな」
 寂しそうに、その女は言った。筆者は、女の細く小さな身体を引き寄せて、まるで恋人のように、そっと抱いた。
「男だったら自分の身体が、しっくりくると思うんですか」
「思わない。この身体に違和感があるんだよね。女になりたくなかった。でも、男になりたかったわけでもない。大人になりたくなかった。でも、子供でいたかったわけでもない」
 女は筆者の身体をするりと抜けて、露天風呂の岩に座り、足だけを湯につけて、じっと筆者を見て自分の話をはじめた。その女が相手を見て話すことは珍しかった。
「子供の頃、恐怖漫画でね、蛇になる女の話があったの。従姉妹たちが、それをすごく怖がったの。でも、私は怖くなかった。ただ、その漫画は間違っていると思ったの。女が蛇になるんじゃない、蛇が女にされていたんだって思ったの。だから、蛇に戻ることが出来れば、彼女は幸せになるんだって、そう思ったの。でも、その私の考え方は、漫画以上に従姉妹たちを怖がらせたの」
 その女は自分の話に熱中しているのか、最初は閉じていた膝を開き、黒い繁みの下の小さな亀裂の部分を筆者の目の前に晒していた。まるで幼女のような小さな小さな亀裂だった。
「その時、私は自分の身体をなくしてしまったの。皆は自分の身体を当たり前のように持っているけど、私は持ってないの。なくしたの。だから、この身体は借り物なの。借り物だから、しっくりこないのは当たり前なの。優しく抱かれても、愛撫されても、借り物なんだから嬉しくないでしょ。でもね。良いこともあるの。借り物だから痛くても平気なの。傷ついても、どうせ借り物だからって思うのかな。痛いよ。普通に痛いんだよ。でも、平気なの。だって、私の身体じゃないんだから。こんな感覚は分かってもらえないんだよね」
「そこ、舐めてもいいかな」
「いいよ。貸してあげる。舐めても入れてもいいよ。借り物でよければ、又貸し、してあげる」
 その女には気持ち良いということがなかった。そして、それが男にバレると、その女の恋愛は終わってしまうのだった。気味が悪くなるらしいのだ。愛されていないとその女を抱いた男たちは思うらしいのだ。ゆえに、性風俗嬢として性行為をしていることが、その女には向いていたのである。
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